One Way & Two Hearts One Way & Two Hearts
作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 葉山たけし
解説 摩季ネェのセカンド・マキシシングル「雪が降るまえに」のC/W曲である。
なかなかこの曲は主人公と「あなた」の微妙な距離感が興味深く、歌詞から推察するに、主人公は想い人とごく自然に近い距離にいたようで、気がつけば彼の側で彼を愛していたと見える。そして只近くにいて仲良くしているだけの人から恋人同士になる一線を越えるか越えないかのところにいる………つまり「One Way」とは主人公の「あなた」を愛して進む道(Way)であり、「Two Hearts」とはこれまで通りの距離で満足する心(Heart)と一歩踏み込んだところで愛し合う心(Heart)と見られる。
そしてこの二つの「Hearts」は極めて近い距離にあると思われる。一体どんな関係なのかも興味深い。
そしてその二つの気持ちの選択を表した歌詞が「Yes,One way & two hearts. I must take one. あなたの自由 愛して 星を輝かせる美しい闇になろうか No,I can't stay this time. 'Cause I love you' 自分を許して 小さな星になろうか 迷ってるの」であるが、詞としても比喩としても文句なしに見事である!解説のし甲斐ここに極れりである。そしてその解説だが、どんな「星」も「闇」があって初めてその美しさが露になるという点から見てみたい。
「あなた」という名の「星」を「輝かせる」為に主人公自身が「美しい闇」になろうかと考える気持はこれまで通りの「体の一部」のような意識されずとも欠かせない存在でいることを比喩していて、「自分を許して 小さな星になろうか」という歌詞は彼を愛し、自分を忘れることを「許して」、小さくとも彼と同格である「星」に自分をなぞらえることで、光りを放つ「星」同士、互いを押し付けあってでも恋人同士として共にあると認識しあえる仲を目指そうか、という気持ちを比喩している。
光が無くとも「星」が輝くのに不可欠な闇の如き存在となるか、輝きを奪い合うリスクを負いつつも同じ「星」であることを望むかの比喩は本当に見事である。それこそ星空の如き広大さを感じさせてくれる。
さて、散々迷っている主人公だが、どちらかを選ばなければならないのは充分に認識しており、最後の最後に決断している。「I wanna pray I wanna be strong I don't regret my love」である。それまで通りの仲でいいなら強くなりたいと祈る必要もないだろうし、戦わずして退く恋には少なからず後悔が伴う。主人公の戦意を疑う余地はない。
直前に「Because I lose my dream in your world」とあるように「your world」で失われた夢は「your world」に留まらなければ取り戻せはしないだろう。二つの心も結局は一つの道に帰するのである。改めてこの歌は比喩が見事な曲である。俺は歌詞でアーティストに惚れる男でよかったと思う。
令和五(2023)年一〇月二日 最終更新