朝に駆け出す

         作詞 椎名恵 作曲 羽場仁志 編曲 戸塚修
解説 椎名恵さんの7thアルバム『VOLAGE』の3曲目に収録。「結婚」をきっかけとした人生の新たなるスタートを喜ぶ歌である。
 これは椎名ソングではなかなかに珍しい傾向である。「結婚」を逃したり(「いつか恋をしたら」)、「結婚」を切望したり(「わたし達のための午後」「Singlegirlの決断」)、「結婚」した友人を祝福したり(「お祝いの言葉にかえて」)、羨んだり(「彼女の選択」)、別れをきっかけに人生のリスタートを切る曲(「テラスにすわって」)は椎名ソングに多いのだが、実際に「結婚」を控えた曲は少ない。第一椎名さん自身まだ結婚していない(2003年4月21日現在)!(苦笑)。
 うーん、どうもひねくれたものの見方をしてしまっているなあ…殊に「幸せそうねとみんな うらやむ顔で見送ってくれた」という歌詞には他の椎名ソングでは主人公が「うらやむ」立場なので言外でこっそりと溜飲を下げている所を感じてしまうような妙な含蓄がある。勿論第三者の目なんて二の次でそれ以上に「そうよいま新しい朝に 駆け出したばかりなのね 生まれかわる私がいる」という風に自らの新たな境遇に未来へのファイトを燃やしている所の方が強いのは言うまでもない。
 二昔前の漫画では悔しくてたまらない時、夕陽に向かって泣きながら走る描写が(ギャグを含めて)多かったが、この曲はタイトルや「いつものくせで今朝も 六時に飛び起きた」主人公が「このまま眠らずに 少し走ろうか」という歌詞の様に朝日に向かって走り出さんばかりの描写が好対照である(笑)。
 また背景を見ると「結婚と仕事を くらべた訳じゃないわ だけど決めた事よ」とあることから、主人公は務めていた職を辞した様である。これも椎名ソングでは異色である。失恋を忘れるために仕事に精を出したり、仕事を捨てられないことから結婚が流れた歌のほうが遥かに多いのだから。そしてそれでいて尚椎名ソング特有の前向きさが感じさせているのが心地いい。
 失うものに対して得たものが多いかどうかは不明だが、少なくとも得たものが大きいのは間違いないだろう。だからこそ見えない未来でも「明日からやり残した事を やりたい様にできるから 生まれたての私がいる」という断言ができるのだろう。
 未来は見えないのが当たり前である。だが見えなくても信じられるものも確かにある。信じられる、と思い込むことも含めて。


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