足音

作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 島田昌典

解説 岡本真夜さんの8thアルバム『Soul Love』の4曲目に収録。同アルバム3曲目の「ぬくもり」に続く形になっている、別れてしばらく経った悲しみと寂しさに向き合い、自分の最も素直な心に直面する曲である。

 「あなたと二人 暮らしていた」という過去があって、今は別れていると言うシチュエーションは「サヨナラ」と酷似している。もっとも、この曲では主人公が去られた方で、時間も少し経過している事が異なり、その意味では「One Room」に似ているが、この「足音」は精神的描写に終始しており、「One Room」程の生活臭はない(笑)。

 まず注目すべきは主人公の赤裸々な心を示す様に何度も出て来る「めちゃくちゃに泣きたいほどに あなたへの想いが 消えなくて」の歌詞だろう。そしてその背景に潜む物は一言で言うなら「後悔」だろう。
 昨今の歌謡曲には後悔したくない、或いは後悔していない、と力説する歌詞が多い(「サヨナラ」にもある)が、本当に後悔していないなら言葉に出す必要はないし、言葉として出て来ることもない。ある意味人間という存在の素直ならざる面の発露と言えよう。
 その点、この曲では「後悔」という歌詞さえ出て来ないものの、「逃げずにいたなら 未来は変わっていたの?」「つまらないプライドが 邪魔してた」「伝えたい事 もっとあったのに」と、悔いる事目白押しである。

 何よりタイトルにも使われているように「足音」一つにも主人公の思いの深さはかなり明らかだ。「錆びた階段 上ってくる足音を ありえないの にじっと耳済ましてる」とある様に、不思議と家族や想い人の「足音」とは覚えるもので、しかし意識的に覚えるものではないから、「違う、この音じゃない」と理解しつつ、想い人の「足音」であってくれればと求めてしまう所が余計に悲しさを誘う。
 同じ「足音」「足音」でも、「階段を降りていった あの日の足音」まで覚えてしまうとは尋常な愛情ではない。

 だが、人間とは不思議と言おうか、強いと言おうか、環境に慣れる生き物でもある。歌のコアとなる歌詞に「凍りつく冬の寒さも くるまった毛布の隙間も 新しい制服着るように やがて 慣れていくのかな…」の歌詞がそれを端的に示しているが、これほどの強い想いを抱き続け、執着した相手が存在しない生活に慣れる事は必要な事でありながら寂しい事でもある。
 同じアルバム『Soul Love』に収録されている「君遥か」の解説にも書いたが、失恋とはいつか立ち直らなければならないものだが、簡単に忘れられるような重みのない恋というのも疑問が残る。
 とある経験から道場主は女性の泣いている姿が極端に苦手になってしまっているのだが、この主人公なら目の前にいても「めちゃくちゃに泣」くことを許してあげたい気がする。
 みっともない未練であったとしても、みっともなくなれるほどの強い想いをダンエモンは決して馬鹿にしたりはしない。


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平成二三(2011)年三月八日 最終更新