僕らのmerry-go-round

作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 建部聡志
解説 岡本真夜さんの7thアルバム『再会〜君に綴る〜』収録曲のトップバッター。地球の自転と、時の流れの中で繰り返される人生のサイクルが「merry-go-round」に例えられている。
 注目したいのは、その「merry-go-round」が一方で肯定され、一方で否定されていると言うことである。前者の肯定面は「ほらいつでも 君のために回る」という希望の不偏性、「かっこ悪くても 楽しけりゃいいのさっ」という個の尊重、「君には君のタイミングがあるから 人は人で 自分は自分で」というマイペースへの呼びかけ、「きっと終ることなく 永遠に続く」という人生が持つ無限性であり、後者は「待っているだけの人生なんて つまんないよね 誰かに決められる道も 面白くはないでしょ?」に見られる他者依存とマンネリズムの否定である。
 決められた動きと、ルートを決して外す事のない「merry-go-round」、しかしながら自分だけの、正しいそれを選ぶ事で無限と確実と自分だけの世界を確保できる事が見事に比喩されているのがいの一番に注目すべき点だろう。
 少し話が逸れるが、真夜さんは結婚・出産を経て明らかに男の立場で歌う曲が多くなり、「僕」という一人称もよく使われる。もっとも、この曲は何も男の立場だけに限ったものではないのだが、「merry-go-round」という遊園地にある子供が喜ぶものを比喩対象としているところに母として、我が子に自分だけの人生を語りかける真夜さんの姿を自然と見出してしまう。
 同アルバムの歌詞カードにはタイトル通りに「merry-go-round」に近侍して何かを見つめる真夜さんの写真が掲載されている。
 さて、ダンエモンが最も注目したい歌詞は「不器用なりに少しずつ重ねていこう 「これでいい」じゃなく 「これがいい!」って言えるように!」であろう。人生はなかなか思い通りにならないどころか、思い通りにならない事の方が圧倒的に多い。我慢や妥協に臍を噛むことも多い。だがそんな世の中だからこそ自分自身に対して妥協したり、本音を偽ったりしたくはない。
 「「これでいい」じゃなく 「これがいい!」」と言いきれない人生こそ寂し過ぎる。「「これでいい」」に妥協して選ぶ「merry-go-round」は決められたルートを抜け出せずにただ回るだけのマンネリズムに終始するが、「「これでいい!」」と敢闘の果てに選んだ「merry-go-round」ならその道、その空間を誰にも奪われる事のない自分だけの夢を乗せた「地球」にも匹敵しよう。どちらの「merry-go-round」を選ぶか?この歌を聞いて尚迷う人はいないだろう。
 最後に真夜ソングを愛する者として、この唄への誤解を抱く人が出ないために蛇足を承知で一つ解説を加えたい。それは「かっこ悪くても 楽しけりゃいいのさっ」である。
 決してエゴイズムや身勝手・好き勝手と取って欲しくない。自由や自分だけの価値観の尊重を呼びかけてはいるが、そのために他者のそれを侵害したり、自らの行動に派生する義務や責任を無視していい、とは一言も書かれていない。
 自由は大切で、尊く、何物にも代え難い。それゆえに人と人の間にあって互いに尊重し合い、大切故に悪用する事のないことを最後に訴えたい。


真夜の間へ戻る

平成二三(2011)年三月八日 最終更新