栄光の金バッチ

作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 西平彰

解説 アルバム『POSITIVE SPIRAL』の11曲目に収録されたこの曲は本来、トリを務めてもおかしくない曲である。否、「START LINE」の存在と、同曲の意義への尊重がなければ、間違いなくこの「栄光の金バッジ」がこのアルバムを締め括っていた筈である。それだけネガティブをポジティブに転ずる意義を歌ってきた同アルバムに相応しい一曲である。

 実の所、ダンエモンはアルバム『POSITIVE SPIRAL』リリースの一年以上前に2006年〜2007年にかけて行われた15周年記念前倒しツアーでこの曲を聴いている(この房に訪れる程の摩季ファンなら多くは同様だと思う)。
 さすがに初めて聴いたその時にこの曲の真意を理解し切るのは不可能だったが、静かな曲調、大人し目の歌詞ながらも強い信念と愛する人の為に何かをしてあげたいとの想いは確かに受け止めることができた。


 冒頭の「あなたに出会うまで 愛を知るまで なんとなく生きていた私だけれど いつしか目の先に 光りが射し 何か一つ誇れるものが欲しくなったよ」から推測するに、この曲の主人公は現代人に有りがちな、無気力とまでは言わずとも目標のない、「取り敢えず」の人生を送っていたのだろう。そこから始まる想い人への想いから気力を発揮する様はダンエモンの一押し摩季ソング「LOVING’ YOU」
と似ているのが嬉しい(笑)。

 この曲のタイトルでもある「栄光の金バッチ」とは一言でいえば「証」なのだろう。何の証かと言えば、直後の歌詞に連なる「輝かしい自信」「ユートピアへの地図」「永遠に燃える火を」に表れているのは言うまでもないが、大切なのはそれらが「欲しくなった」もの・「したくなった」ものであり、同時に「諦めず成し遂げた人」「明日を信じて 歩み続けた人」への「神様からの贈り物」であるという二面性を持つ点、とダンエモンは考える。

 少しややこしく思われるかもしれないので補足説明すると、「栄光の金バッチ」とは自らが動くことで手に入れるべくして手に入る物で、動かなければ手に入らずべくして手に入らない物だということである。
 聖書の「天は自らを救うものを救う。」じゃないが、自分が動かずして結果は伴わず、努力した人が勝つという、究極の自力本願で、それゆえに自らが動かなくては、との意見を連ねつつ、「神様からの贈り物」という歌詞が矛盾なく現れる様は秀逸である、の一言である。
 言い換えれば、「栄光の金バッチ」とは未だ手に入れていないものでありながら、心掛け次第で手に入れる日が決して遠くない物であるのだ。

 二昔前のとあるベストセラー本(←タイトルも内容も物騒な書物なので名前は伏せます)に、「元々この世とは、ひどい所なのだ」という記述があったが、成程この世には様々な嫌なもので溢れかえっている。
「行きたい場所もなく旅に出れば わけもなく迷うことも仕方がないさ やるせないニュースや世情 萎縮したまま ふいに着く 箱舟さえも乗ろうとしなかった」の歌詞に象徴されるように、過度の期待も抱かず、それなりに平和な経済大国で単に食っていくだけなら何とかなる日々の中、それでも矛盾・理不尽・満たされぬ何かにつまらなさを覚え、時折耳目にする凶悪犯罪・庶民を無視した暴政・下手な暴力より傷つく言葉の暴力の横行に失望に似た無気力を突き付けられているのが多くの日本社会に暮らす人々の認識ではなかろうか?
 だが人間は必ずしも弱き存在にはあらず、「険しい坂道も激しいどしゃ降りも どんな道を歩いても降りかかる試練」があることを認識し、それを乗り越えんとする意思は多かれ少なかれほぼ全ての人に存在する。

 本当は全ての人が認識していること、だからこそ「険しい坂道も激しいどしゃ降りも どんな道を歩いても降りかかる試練」を乗り越えながら、「明日を信じて 歩み続け」「諦めず成し遂げた」時にこそ、「愛するすべて守れるような 強さ」を手にいれ、愛する「あなたに尊敬されるような 生き方」が可能となるのだろう。


 同アルバムの初回特典DVD 収録の「セルフライナーノーツインタビュー」によると摩季さんの知人である男性が「やんちゃ盛りの息子に男親としてかっこいい所を見せてやろう」と思ったことと、摩季さん自身がデビュー15周年の指針となる曲を作りたい、との想いがリンクしたとのことである。
 愛する人への様々な想いと、その想いゆえに成し遂げたい何か………それは決して大きな事・難しい事・世に数える程しか存在しない偉業とは限らないのである。そう考えると、15周年記念前倒しツアーでこの曲を歌ってい摩季さんをに投影されたミラーボールからの数々の光が極めて輝かしく思い出されるから不思議だ。



余談 15周年記念前倒しツアーで摩季さんの口から歌われた「栄光の金バッチ」の歌詞を聴いて、「Guts My Mind!!」を思い出した人、手を挙げて♪(笑)


摩季の間へ戻る

平成二〇(2008)年三月一日 最終更新