作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 Yohey
解説 摩季ネェの15thアルバム『PHOENIX』の5番目に収録されている。
曲調こそどこか気怠い感じだが、その歌詞は本音や夢から目を背けただらだらした日常への反発・抵抗心に溢れている。
凡そ、すべてが順調で、失敗や傷害と無縁な順風満帆人生を送っている者等皆無に等しいと思われる。そして失敗や挫折や敗北を味わい、世の現実を知る中で概して夢も希望も矮小なものとなり易い。
所謂、「現実を知る」という奴で、あたかも「夢見る」ことが甘い感傷を捨て切れない小児病発症的に揶揄する傾向を産んだりもする。それゆえに夢見ることをカッコ悪いと考えたり、叶いそうにもないことを端から期待しないことで無難ながらどこか満たされない時間が人生には存在してしまう。
そんな傾向に強烈な皮肉を利かせ、本音から目をの逸らさないことを発破するのがこの曲の妙である。
「一生に一度は すべてを懸けて 闘うべき時がある」、「理想を下げても 救われはしない やり抜かなきゃ 終われもしない」の歌詞にそれが端的に現れている。
一国の宰相になるとか、アスリートとして世界一になるとか、世界を揺り動かす程の巨万の富を得るとかいったことを為せるのは世に生きるほんの一握りの者で、才能と運に恵まれた上に相当な努力も要する。だが、そこまでいかずとも、一企業・一店舗の長になる、とある分野の第一人者になる、小金持ちになる程度なら決して目指せない話ではないし、程度の大小はあれど望の無い人間もいない。
結局、夢が無いように振舞っても、本当の望みは自分が一番分かっており、自分を偽ることは出来ない。それゆえ、この曲は「GET YOUR WAVE GET YOUR WIND 邪念よ 消え去れ 研ぎ澄ますのは本能 SEIZE THE DAY SEIZE YOUR CHANCE 熱い風 捉まえて 最上級の波に乗れ THAT’S ALL RGHT!!」と呼び掛け、やるだけやった果てに満足と成功があることを「もがき続けた先に 必ず答えは見つかる」、「あるもの全部 巻き込んで 超絶BIGな波になれ THAT’S THE WAY!!!」の歌詞で説いている。
夢を見なければ、端から期待を抱かなければ、失敗したり、がっかりしたり、傷付いたりすることは無いかもしれない。下世話な例えを持ち出せば、惚れた女に告白しなければフラれることは無い。だが、一方でその女が自分のものになる可能性は必ず0%である。何せ自分自身で決して成功しないことを決定付けているのだから。
そんな本当の望みから目を背けた安全志向を批判し、決して望みが叶わないことの決定付けに納得出来るのか?と問い掛けているのが、「只 RIDE ただ FIGHT 流されるだけ FLY 気づかないうちに消耗して HIGH 愛や希望や夢までも RIDE 奪われ 失くしても FLY いいの?いいの? HIGH」の歌詞で、それに対する答えが「私は、嫌だわ」である。
正直、問い掛けている段階でかなり痛烈で、これに対して「Yes」となるのは余程の平和主義者か、とんでもない無気力人間だろう。或いは、それまでの人生に完全に満足して何も望みがない人間かである。余程無気力に生きている人間でも、ここまで挑発的とも云える問いかけを投げ掛けられれば「No」と返すだろう。
当然、この歌でもそれが当然と云わんばかりに「私は、嫌だわ」と締め括っている訳だが、「私は」の部分が聞こえるか聞こえないかのようなかすれ声故に、直後にきっぱりと告げられる「嫌だわ」が際立っている。
とは云うものの、人生は単純でも簡単でもない。
戦うことが大切と云っても、戦うことの意義も重んじず、誰かれなく敵視して噛み付くばかりの狂犬野郎ではいつか多くを敵に回して滅ぼされる。本当の望みを重視すればこそ、屈辱や挫折に耐えて、軽挙妄動を慎み、雌伏を余儀なくされる時もある。その判断を誤れば無駄な戦いに果てることになる。
一方で、勝敗を度外視してでも挑まなければならない時もある。だが、戦う以上、勝つことを望んでいる筈である。可能な限り力を蓄え、手段を揃え、戦機を見極めなくてはならない。その辺りは「愛情も自然も つかみきれはしない どうにも出来ない時がある 強引に捻じ曲げれば 反動に吹き飛ばされる じっと待つか じっくり叩き上げるか BET OR QUIT?」に見事に歌い上げられていると感じる。
ダンエモンの人生も失敗の少ないものではない。それどころか、成功の方が極僅かで、中には戦う前から白旗を挙げたものもあり、「こんなしょーもないことの為に生きているのではない!」と思いながら屈辱を噛み締めながら目先の戦いから逃げたものもあり、成功したものの、望みを下げた満足とは程遠いものも散見される。
一方で意地から退くに退けずに当たって砕けた敗北も多い。今一度、本当に戦うべきこと、本当に戦うべき時、を見据え、本当に勝利したいことの為に何が必要かを振り返ることの大切さをこの曲に教えられた気がする。
摩季の間へ戻る 令和六(2024)年一〇月一五日 最終更新