神様、あるいは魔法使い

         作詞 椎名恵 作曲 ブラームス
  解説 クラシックをカバーした椎名恵さんのアルバム『toy box〜Classical〜』の7曲目に収録。元曲はブラームスの「交響曲第1番第4楽章」である。
 同アルバムの歌詞カードによると、椎名さんは「ブラームスの「交響曲第1番第4楽章」という曲を明るい感じにしたくて作ってみました。他の曲とのコントラストを付ける為に、よりポップ感を出しています。ファンタジックな詞の世界も新しい椎名恵として楽しんで下さい。」とコメントしている。
 リズムの軽快さでは同アルバム収録曲の中では「まだ、まだ・・・」に匹敵するこの曲の歌詞が語る所は、「あなた」の別れを阻止する器用さが「ガラスの月」を彷彿とさせる。
 言い換えれば惚れた弱みを感じさせる歌詞内容である。どういう理由があって「「さようなら」の切り札」を主人公が使いたがるかは、深刻さ共々歌詞からはうかがえない。が、「日が変わる5分前」というタイミングで「Telephone Call」でもって「誕生日おめでとう」の一言を送る絶妙さで主人公の気持ちは見事に繋ぎ止められ、その見事さは「魔法」の如く例えられている。
 しかしながら結局は主人公はその気持ちは嬉しく、はなし難いものであることがはっきりしている。「Kiss」が主人公を「助ける」ものであり、それを送る「あなた」「神様」と称している点からも、この曲のタイトルが「神様、あるいは魔法使い」となるのも納得が行くものである。
 惚れた弱みを明らかにしている歌詞をもう一点挙げれば、「どうしたって私の負け」であろう。それに続く「神様に逆らえないわ」にしても「あなたという恋の魔法」にしても随分従属的、且つ諦めが早い。本当に嫌な対象の為には考えられない台詞である。
 日々道場主が主張していることに、自由には何物にも縛られない自由もあれば、望んで何かに縛られるのもまた自由、というものがある。この曲の「惑わされて、捕まって、逃げられない」という諦観じみた歌詞は軽快なリズムとは対照的で、凡そ聞き手に深刻さは伝わらない。結局は魔法であろうと、神の導きであろうと主人公の「あなた」とともに在りたい意志ははっきりしている。故に最後に「My God!」と叫ぶ理由も、「My」とわざわざ付く理由も、自ずと明白になるというものである。


恵の間へ戻る