八階のアパートメント

         作詞 椎名恵 作曲 池毅 編曲 戸塚修
解説 椎名恵さんのフォースアルバム『29〜Twenty nine ダブルコンチェルト』のトップバッターにして8thシングル「29 Twenty-nine」のC/W曲でもある。なくした恋を昇華して人間としての成長のバネにする決意が、そのために用意した「八階のアパートメント」という新たな環境と相俟っていい味を出している一曲である。
 背景を見るとどちらが切り出した別れかは断言できないが、「どこかに持ち続けた 小さなこだわりなんて 捨ててしまえる気がして」「許す事とあきらめる事は 同じじゃないと 信じたかった 生き方」という歌詞から主人公は相手を想いつつも苦しんできた事もうかがえる。少なくとも「自分だけを見つめ返すなら」とあるわけだから、自分自身を見るゆとりはなかったのだろう。
 「まだ風は冷たいけど さえぎる物もないから」という歌詞から主人公は「八階の部屋」に引っ越して間がなく、家具も充実していない―別れからさほどの時間を経ていない様に見える。しかしながら自分自身を見つめ返すことを始めた事により主人公は着実に成長に向かっている。歌詞内容的に「想うこと……」と似ている面を持つ。
 主人公の成長として注目したい歌詞は「落としてきた事が多いだけ やさしくなれる そんな言葉に 頷いてみる」である。痛みや苦しみを知り、本当に助けるべき事を認識しないと真のやさしさは生まれないものであり、そのいは多くのミュージシャンが歌ってきたところでもある。これも主人公がただ相手を負うだけでなく自分を見つめるゆとりをもっと事から冷静に自分を見る事で生まれた成長の証といえるだろう。
 「いい男性だった すべての事に」と振り返る男性をなくした主人公の心の痛みは決して小さなものではないと思う。しかしそんな過程を経て主人公が得るものもまた決して小さなものではないと確信して解説を締めたい。


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