避暑地にテイルを向けて

         作詞 麻生圭子 作曲 池毅 編曲 戸塚修
解説 椎名さんのサードアルバム『W CONCERTO』の2曲目に収録。幾つかの椎名ソングに見られる別れの決意の曲である。
 明るいテンポに騙されそうになるが、内容は決して明るくない(当たり前だが)。「これでいいのよ」「あなたと一緒に帰ったら Um がっかりするだけよ」、そして繰り返し出てくる「I have to say Goodbye」の歌詞から別れの決意は明確且つ根強い。
 更に興味深いのはこの歌詞の各所から伺えるこの恋の様々な側面である。
 「幸せな女ならば 何も避暑地に 一人で来ないわ」の歌詞からは少なくとも「この夏の全ての思い出」に未練がある‐夏の間主人公は「幸せな女」であった事が伺える。
 また「哀しみを忘れるため あなたのことを 愛したのも事実」からは主人公が春頃に何らかの不幸(恐らくは失恋)があって、この夏の恋が心の隙間を埋めるべく求めたようなものであることと、主人公自身決してそのような恋が正当なものでないことを認めていることが分かる。
 ダンエモンはこれでも真面目な恋愛を志しているので、いわゆる一夏の恋や、寂しさを埋める為の恋は好きじゃない(十数年前の道場主がタイムマシーンで現代にやってきたら「生涯に何人もの女性を愛するとは何事だ!!」と言って今の道場主を殴りつけることだろう)。
 だが人間は弱いものである。一過性と分かっていても心身を委ねたくなることもあるだろうし、ダンエモンが例外であるとの断言は困難である。大切なのは一過性の中にも人生の一コマとして得るべき大切なものがあるのではないか?との思いだろう。
 恐らくは主人公の中にも忘却の彼方に捨てるべき「夏の恋」にも得るべきものがある、との思いがあるからわざわざ「避暑地に 一人で」訪れ、繰り返し「あなたのことを 愛したのも事実」と出て来るのだろう。
 勿論忘却の彼方に捨てるべき一過性のものにいつまでも囚われる事は好ましくない。主人公の意は決別で固まっている。
 だがそんな中にも「アクセルを無理に強く踏みこ」む様な、どこか無理した仕草がすぐには消せない未練を暗に示していて秀逸である。


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