I know,I'm crying

         作詞 佐伯智子・椎名恵 作曲 羽場仁志 編曲 Hiro
解説 music39.comの「ミュージック・グランプリ」から作詞でグランプリを受賞された2名の方々と椎名恵さんのコラボレーションCD「涙の代わりに 〜X'mas in Snowflakes〜」のC/W曲。人間の基本感情である「喜怒哀楽」の内、「哀しみ」が好きな人はいないが、その「哀しみ」感じる事で素直な心に気付いた自分に気付く意味深な曲である。
 いきなりではあるが、それを端的に表した歌詞は「初めてやっと泣いて 初めてやっと泣けて」だろう。直前の「どんなにごまかしても 気持ちは隠してても 涙はなくならないものね」という自分で自分を偽れない人間の本性を語る歌詞と相俟っている所が何とも秀逸である。
 他の曲の解説でも何回か触れたが、どんな詐欺の天才も、黒を白と言いくるめる詭弁家も自分で自分の本音は決して偽れない。主人公は自分の本音をとっくに気付いていたからこそ、それがタイトル通りに「I know,I'm crying」という目に見える自覚を伴った時に「心を思い出した私」と安堵したのである。
 ストーリー的に見ると「VIDEOのワンシーン」「あなたに似てる」だけの俳優が主人公ではない架空の世界の人物に向けた、決して主人公に向けたわけじゃないその「微笑」に、強がっていた自分―「涙をしまいこんでいた」自分が涙をこぼした事で崩壊し、「本当は泣きたかった 本当に泣けなかった 心を忘れていた私」から脱却したわけである。
 人間は人生において強さが必要だ。だが、強さがいつもいつも都合よくあるわけではない。そして不本意ながら強がる。歌詞中の言葉を借りるなら「平気と言い聞かせ」「ごまかし」「気持ちは隠し」、と言ったいわゆる偽りに裏打ちされた好ましかざる行為で、つまりは「涙はしまいこんで」に繋がる。
 だが、強がりは決して強さではない。傷付いてないように振る舞えても間違いなく傷付いているのである。そう考えると泣くことで本来の自分の素直な気持ち通りに感情を出せた事に偽りではない本当の自分に戻った安堵の涙が含まれているであろうことを考えると「I know」の持つ幅は果てしなく広いと言えよう。


恵の間へ戻る