愛しい人よ〜remember me〜

         作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 Tetsuji Nishigaki&岡本真夜
解説 岡本真夜にとって結婚・出産後初リリースにして初のマキシシングル「ハピ ハピ バースディ」に収録。アルバムでも同様に結婚・出産後初にして6thアルバム『Dear…』の10曲目に収録。多くの真夜ソングに比してプラトニックな意味でアダルティーな雰囲気漂う曲である。
 一言でいうなら別れた相手を懐かしみ、惜しむ歌である。勿論その手の曲は他の歌手も多く歌い、真夜ソングにも幾つもあるが、この曲の個性としてあげたいのは、「そもそも人は別れてしまった相手に何を求めているのだろう?」と考えさせられたことである。単に俺が勝手にそう想っただけかもしれんが…(苦笑)。その根拠となるのは「ずっと 泣きたかった ずっと 泣けなかった」という歌詞である。
 そもそも真夜ソングには呆れるほど「泣く」という行為が出てくる。曲の中の主人公が自分を「泣き虫」ということもあれば、エッセイ集でも真夜さん自身が「泣き虫」とも言っており、ダンエモンも泣いている真夜さんを目の当たりにしたことがある(『2000RISEツアー』)。正直、多くの人々がうれし泣きでない限り「泣く」という行為を好まないだろう。真夜ソングにもうれし泣きより苦悩泣きの方が遥かに多い。それゆえに「ずっと 泣きたかった ずっと 泣けなかった」の歌詞には考えさせられるものがある。
 推測するに、「二度と 会えない人よ」とあり、また背景に「知りたくなかった 彼女とふたり 暮らしてること」あることから主人公は二股をかける「愛しい人」を自分から切り捨てたのだろう(←「文字通りだったら怖いな…。」by薩摩守←「アホか。」by道場主)。そうなると主人公は「愛しい人」に弱い姿を見せるわけにはいかなくなる、過去・現在・未来の三世(←仏教的表現)を通して…。
 だが、実際には主人公は「愛しい人」にベタ惚れで、弱さも含めた自分の全てを曝け出したかったのである。「涙 枯れるほど泣いて いっそ 忘れてしまえたら… やさしかった笑顔 守れなかった約束 そして 愛の言葉も」といった「苦しいほど あたたか」いものが主人公の胸を締め付ける様からも未練の程が窺い知れるだろう。「愛しい人」とは良くも悪くも二人の女性を同時に愛せる人だったのが物の見事に仇になっている。それが主人公にとってと言うところが許せないが…。主人公が優しさに言及していなければ「ケンカ売ってんのか、貴様」第三弾である(笑)。
 ここで話が少し前に戻る。本当に愛しいがゆえに二股かけられている状態に我慢ならず、意地を這って「愛しい人」を切り捨てた主人公が最後に望んだもの、それが「どうか思い出だけは そっと 胸の中に」であり、ラストの「remember me」である。ダンエモンも幾つかの叶わなかった恋を経験してきたが、中には相手の未来の為に自分の事など忘れて欲しい、と思った恋もあるが、基本的には初恋の人を初めとして忘れられたくはない、例えそれが我が侭だとしても…。
 恋は恋で決して綺麗でない終わり方をするものや、後で振り返ってその実態に嫌な思いをするものも確かにあるが、せめて相手を真底愛した心だけは綺麗なものであって、そのときの気持ちは生涯忘れたくないものであることをこの曲は「remember」させてくれた。


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