作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 Yohey
解説 摩季ネェの15thアルバム『PHENIX』の11番目に収録されている。何とも悲しい曲で、ジレンマに溢れた一曲である。
主人公はタイトルにもされた「純粋な人」である「彼」がその純粋さを初めとした理想的過ぎるほど理想的な存在故に自分がその人に相応しい女性になれるとは到底思えず、それが為に側にいることが却って苦痛になり、哀しい別れを決意する内容となってる。
主人公が「彼」にべた惚れしている様は、歌詞中に何度もその純粋さを讃える歌詞として現れている。「ストレートなSmile 自然光みたいクリアな明るさ 素直なMotion That’s something I can’t have」や「彼は優しい 会話も楽しい そう あなたにだけじゃない 誰にでも そこが良い所」がそれ等である。
そして、「That’s something I can’t have」とあるように、主人公はそれらを自分には持ち得ないものと自覚している。
そんな自然体で良い人である「彼」は主人公に対しても自然と優しく、それを基に友人関係という、それなりの近くにいながら決して接触出来ない関係に押し留め、主人公は「親友というなら察してね fu uh… 純粋な人は嫌い」、「期待を踏み荒らすの いつも Talk about it. Think about me I sway」等と苦しんでいる。
そんな主人公を説くに苦しめている要素は2つ。
1つは「彼」が主人公の想いに全く気付いておらず、ごく普通にいい人として接しているところである。「順番待ちしてる私すり抜け ねだって」、「私が匍匐前進でやっと築いた信頼感 笑顔ひとつで You’ll just smile and get it through」とあるように、主人公はそれまでに2人の距離感を詰める努力をしたものの、下手に接近することでそれなりのいい関係を壊したり、場合によっては「彼」を「彼」でなくしたりすることを恐れ、決定的な接近を躊躇したのだろう。
「Rrturn To My Love」にもある様に、一度恋愛関係に陥ったら、友達という以前の関係は戻れない。そんな関係になれない片想いでも「風に吹かれて」にもある様に惚れただけでもうその人間の中では相手は友達ではない。
もう1つの要素は主人公が「彼」の様な人物に、「彼」に相応しい女性になれないことを嫌と云う程自覚していることである。その苦悩を最も端的に表した歌詞が「私の武器はSilence Coolなキャラで守る Weakness 好きになればなる程Cry 変わりたいTry 似た者同士じゃない 大人のキャッチャーでもない 妥協と打算 器用なんかじゃない」であろう。
そして、「純粋な人は嫌い」と「憎めなくて 憎らしくて」と「もう譲れない もう譲らない」と云った相反する想いやジレンマに苦悩した果てに主人公は「純粋な人 傷つけるような 毒蛾には なりたくないから」として、切り捨てるように「彼」の元から離れることを決意したのだろう。その結論が冒頭に掲げられた「純粋な人よ 無邪気な人よ ねぇ どうかもう私の側に 気軽に近寄らないでよ」なのだろう。
恐らく「彼」は意図的に主人公に迫ったりした訳ではないのだろう。しかし自分では到底持ち得ないその純粋さに魅せられ、心奪われた相手を主人公は「Thief」(=泥棒)としている様に、二度と取り戻せない程の惚れようがより一層主人公を苦しめている、正に「憎めなくて 憎らしくて」である。
そんな「彼」は当然の様にモテるのだろう。カノジョがいるか否かは分からないが、主人公同様に「彼」に惚れている「あなた」がいて、恐らくは主人公と友人にして恋敵、そして「あなた」もまた「彼」をものにしてはいないのだろう。
「あなたにだけじゃない 誰にでも そこが良い所 でも切ない所 順番待ちしてる私すり抜け ねだって」や「あなたの応援や思い遣りは 思い上がりだと言わせないで」という歌詞が主人公と「あなた」の微妙な関係を仄めかしているが、これらを見ても、理想的過ぎて、鈍感過ぎる男のなかなかに罪作りなものだと思わされる。
閉めに述べたいのは、この曲が摩季ソングにおいて珍しく後ろ向きな姿勢にあることである。
勿論摩季ソングには悲しい別れを唄ったものも多いが、その多くは次の恋へのステップとして心の整理を付けたり、いつか訪れるかも知れない復縁に思いを馳せたり、別れは別れとして相手を激励したりするものが殆んどだが、諦観が強く、物凄い断腸の思いで振り切ろうしているこの曲はなかなかに稀有である。
叶わない恋の相手を自分には適さない程素晴らしい相手であることを「純粋な人」として称賛しているのか?それとも、それとも想いを告げられぬまま引くことを決心せざる程相手のことを想う気持ちと悲しさを唄いたいのか?
一度摩季ネェ本人に尋ねてみたいものである。まあ令和6(2024)年11月7日現在、摩季ネェと直接会話は数回したことあるが、歌詞について話し込めるほど長時間の会話はしたことがない。勿論そんな時間が持てればこの曲だけに留まらず、時間がいくらあっても足りないとは思うが(笑)。
摩季の間へ戻る 令和六(2024)年一一月七日 最終更新