花瓶

         作詞 真名杏樹 作曲 岡本真夜 編曲 小川知司
解説 アルバム『Pureness』収録曲6番手であるこの曲は岡本真夜本本人ではなく、「TOMORROW」「サヨナラなんて言えないから」を彼女と供に作詞した真名杏樹が単独で作詞しているのだが、その悲痛とも言える歌詞は寂しさを歌った真夜ソングの中にあってさえ異彩を放っている。
 一言で言えば別れを悔いる曲だが、その一方で別れ以上にそうせざるを得なかった想いと思い出に苛まれる様が美しい花を裂かせる花瓶にオーバーラップさせて綴られている。
 自慢じゃないがダンエモンは恋人と別れたことがない(それ以前の問題としてつきあったことがないので)。それゆえ別れを悔いる曲―特にこの曲のように自分から選んだ別れ−を聴くと「なら別れなければよかったじゃないか!」と声を荒げたくなる時があるが、そうそう思い通りにならないのが人生なのだろう。
特にこの曲をして悲しいものとしているのは「あんなに欲しがってた 自由」「もう二度と会えない 言葉を告げたから」といった歌詞に見られる強引な別れをしながらその時の思いを捨てきれない「あの日の あなたがいとしい」「あなたと私の きれいだった恋」といった歌詞である。
真夜ソングらしくない視点から見ると「こなごなに砕いて この胸の花瓶を」が挙げられる。暗い曲や悲しい曲は真夜ソングには珍しくないが、能動的な破壊(しかも物理的)が書かれている歌詞は他にはチョット見当たらない。意味するところは未練を断ち切ろう、払った犠牲を無駄にしない新たな人生を送ろうとする意志の表れはよくわかるが、表現として異彩を放っているところを挙げておきたい。
もう一つ同じ男の立場から見ると、「あなた」の諦めははや過ぎる。「別れて君の夢が 見つかるのなら 止められるはずないよ…… 目をふせて つぶやきましたね」とあるが、ダンエモンが諦めの悪い男であることを考慮しても、この男の行動・考えは潔さより、意気地のなさが目立つ。自分の目で確認したのだろうか?主人公は未練たらたらなのだから。
形ある物はいつかは壊れるわけだが、この「花瓶」の様に孫権の赤壁の戦い前の机切りや柴田勝家の甕割りの如く壊されるものは大いなる決断に伴う犠牲である。美しくも哀れな定めを次に購入される「花瓶」には味わって欲しくないものである。


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