彼を忘れていく日

         作詞 椎名恵 作曲 羽場仁志 編曲 大友博輝
解説 椎名恵さんの11thアルバム『Lovers』の3曲目に収録。簡単に言えば失恋から立ち直る曲だが、そこに生活臭を漂わせている所がこの曲の個性である。
 まず注目したい歌詞は「だから泣くのはやめて」である。丸で他者に話しかけるような口調だが、勿論自分自身に呼びかけているのである。直後の「悲しみなんていつかきっと無くなると 信じてみよう」「私の肩をいつか抱いてくれる人」を見れば明らかである。
 更にこの歌詞は見ようによっては「大好きだった彼」にも呼びかけていると取れる。直前に「一人になったのは私だけじゃないから」とある個所がそれである。
 ここで冒頭にも書いた生活臭に触れたいが、「予定をたくさん作って 忙しくしていなくちゃ」とある様に、主人公は別れた「彼」その人より、「彼」との生活を失った寂しさの方が耐え難い様である。「一人の生活にあとは慣れるだけだわ」「彼と恋をした事も 消えていくはず」と出てくるのもその表れだろう。
 寂しさを忘れるのは何か(例えるなら、仕事や趣味)に熱中するのが一番である。主人公も「読みかけの小説」「私の肩をいつか抱いてくれる人」とその対象を求める一方で、「並んだ歯ブラシの片方」「思い出になる物全部」を片付けて以前の生活臭を消そうともしている。
 逆を言えばそういう目に見える物がある内は思い出を無くした辛さを思い出してしまうのがこの曲の主人公であり、忘れるためには思い出の品々を消す必要がある、というのはある意味の弱さでもある。だが、そこでダンエモンは「でも顔を洗って無理に笑ってみたら 涙は止まったから」に注目したい。
 「笑う門には福来たる」でもないが、人間の精神が沈みこむ事で表情が暗くなる様に、それを逆用して、無理にでも笑うことで精神を明るい方向に持っていくことは充分意義のあることで、大切な事でもある。
 数々の思い出を捨ててまで新たな人生に視線を向けている主人公は目先の事物に囚われる様でも根の部分で強さを持つ女性、とダンエモンは信じたい。


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