風物語
解説 椎名さんのサードアルバム『W CONCERTO』の7曲目に収録。別れを惜しむ曲だが、未来や次がある、との声を敢えて聞き流して佇んでいる所にこの歌の妙がある。
まず注目すべきは主人公は主人公なりの惜別の感情の中にいる、ということである。「ただひとりで あれた庭に 立ちすくむ」主人公は思い出を懐かしみつつも、過去に回帰しようとの意はなく、「過ぎた日の あのときめきの 激しさはもう忘れるのよ」としており、恋愛に対して「愛はいつか終わる 思い出だけが 日毎につのり 躰が揺れる」と捕らえている。
類推するに、周囲の「明日はまた明日の 風が吹く」や「いつかまた出逢う 愛がある」と言った声を取り上げているところから、主人公は前の恋を終えてからはいまだ一人の様である。
だが、主人公本人には現段階ではその声に従うつもりはない様で、「でも今はひとり 立ちすくむ」方を選んでいる。虚無的な空気の中に身を置く主人公の心情は周囲の歌詞から類推するしかないのだが、ダンエモンの推測では「やがてくる 幸せの日」の為に主人公なりの決着を思い出に対してつけようとしているのではなかろうか?
別れから時を経ないうちに次の恋を迎えれば節操と言う観念において好ましくなく思われがちである。勿論それを計る長さは千差万別だが、主人公は思い出に浸りたい気持ちがある内は次の恋に踏み出すのを適切でないとしているのだろう。
道場主も失恋を重ねる度に、次に愛する相手に対して、過去の記憶の中に引き摺る女性の数が多い分、相手に抱く自分の愛情が純粋さを失いはしまいか、その度に頭を痛めてきた。その度に杞憂だった気がするが……ゴキッ!(←道場主の踵落としが炸裂したらしい)…イテテ、ともあれ「ゆく川の流れは絶えずして元の水にあらず(鴨長明:『方丈記』)」ではないが、風もまた常に流動し、留まらざる物である。
しかしながら、留まらざる物だからこそ、過去の一転に思いを馳せる妙があることを言及してこの「風物語」の締めとしたい。
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