作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 徳永暁人
解説 摩季ネェのデビュー30周年記念ベストアルバム『SPARKLE』Disc.1「New Songs」の4番目に収録されている。
歌詞中に出て来る「君」という単語は、時としてそれが想い人を差しているのか、友人を差しているのか詳らかでない時があるのだが、この歌に出て来る「君」が誰なのかははっきりしている。それは平成19(2007)年5月27日に急逝したZARDの坂井泉水さんであることが何度も摩季ネェの口から明言されている。
つまり天に召された泉水さんを「君」として、まさに泉水さんの元に「届け」と念じて作られた曲である。
摩季ネェと泉水さんとの生前の熱き交流については、ダンエモン如きが語るのは「野暮」を通り越して、「おこがましい」とさえ映りかねないのでごくごく簡単に触れたいが、両者は誤解を恐れず云えば、「盟友」であり、「ライバル」であり、「悪友」でもあったと見ている。
両者の所属していたBeingの方針から同社所属アーティストはメディア露出を極端に少なくすることで神秘性を持たせんとしていた(度が過ぎて摩季ネェの実在が疑われた話は有名)。そんな中年齢も近く(泉水さんの方が2歳年長)、バックコーラスにも参加していたことで摩季ネェと泉水さんが仲良くなったのは必然で、和泉さんは時折、摩季ネェを事務所から禁じられていた外出に誘い、摩季ネェは「小悪魔的な笑顔(摩季ネェ談)」で見つめられると断れず、その後何故か誘われた筈の摩季ネェが事務所から怒られていたとのことだった。
勿論摩季ネェはバックコーラスに満足する性格ではない(社長から、「大黒、(写真に)映っているぞ。」と云われて、「消して下さい。」と云った程である)。それ故泉水さんに対抗する気持ちもあっただろうし、20代の若い女性同士のやり取りは常に良好だった訳でもないだろう。
冒頭の、「どんなに 悲しいことがあったとしても 空は 青く澄み渡って ケンカして 全然 目を合わしてくれなくても 冷たい君の Coffeeはあたたかい」には、切っても切れない絆の中で、例え表面的に険悪になっても常に温かい心で通じ合っていた両社の友情が感じられる。「悲しいこと」は泉水さんが今この世にいないことが最大だろうけれど、二人が共に力を尽くして来た世界は「青く澄み渡っ」た「空」として、想い出に昇華されて今も美しくあり続けているのだろう。
同時に両者は体に病を抱え、互いの道を極めんとする中で充分な時間を持てなかったのだろう。「生きてくことに 追いかけられて 愛することを 後回しにしてたね」とは持ちたくて持てなかった時間が滲み出ている様に思われてならない。
これらに続く、「大好きな街だけど 時々出たくなる 新しい自分を見てみたい」や「世界は広いね なのにちっぽけな悩み」という歌詞には摩季ネェにも、そして生きていれば泉水さんにもまだまだ切り込んで行きたかった世界があるのが感じられる。個人が対象なのでどうしても話題が暗くなるが、「君には自由な羽がある」や「一緒にいれば 飛べる気がした 優しい君は羽ばたくこと 躊躇して…」と云う歌詞からは、まだまだ二人でやりたかったことがあったであろう摩季ネェの悔悟と無念が感じられる。
だが、摩季ネェは生きている。
そして摩季ネェが生き続ける限り泉水さんの魅力を語り継いでいくだろう。「好きだったところ 思い出してみよう 涙こぼれた 言葉たち」の歌詞は哀しいが、「忘れてただけ 失くしてはない やり直せる 明日があるから」の歌詞には生きている限り失われない希望を再認識させられた。
「伝えたいのに 伝わらない 想いを今 歌に込めて」の歌詞は「熱くなれ」の一部にも通じるが、相手は故人ゆえに直接話をすることが出来ず、だからこそ「歌に込めて」とあるところに重いものを感じる。
泉水さんがなくなって二〇年近い歳月が経とうとしている。自身のデビュー15周年記念ライブ(←ダンエモンも参加していた)の最中に泉水さんが逝かれたことにショックを受けた摩季ネェはデビュー記念日をファースト・シングル「STOP MOTION」がリリースされた5月27日から、6月1日に改めた(シンガーソングライターを目指して摩季ネェが憧れのマリリン・モンローの誕生日に合わせて故郷を発った日である)。
泉水さんがなくなられてからこの曲がリリースされるまでの十数年間に摩季ネェも様々な想いがあったことだろう。この「君に届け」がデビュー30年のタイミングでリリースされたのも、デビューからの15年と、和泉さんの急逝からの15年を対比させての事と思われる。
改めて、坂井泉水さんの御冥福をお祈りしてこの解説を締めたい。
摩季の間へ戻る 令和七(2025)年七月八日 最終更新