心を抱いて
解説 椎名恵さんの7thアルバム『VOLAGE』のトリである10曲目に収録。トリに相応しく落ち着いた雰囲気を湛えた大人向きの曲である。
背景を見ると恋を失ってから長い時間を経た主人公が過去を振り返って、その時持ち得なかった「素直」さと本当に大切な「愛」の意味を知る曲である。
まず注目したいのが主人公が孤独を通じて一見弱気にさえ見えるほどの「素直」な視点で語っていることである。他の椎名ソングでは「もう何年こんな朝を 数えただろう 私もそんなに若くないわ」という感じの時ほど主人公は意固地なほど強がることが多いのだが、この曲では「弱さ隠して強がり続けて そして自分に疲れてしまった」と続いているのは異例に近い。
そこで注目しい、というか要旨となるのが「今は誰かそばにいて 心抱いて欲しい 孤独を埋める恋じゃなく ただ見守るような 静かな愛が 欲しいだけ」や「傷つくだけの恋じゃなく 認め合えるような 本当の愛が 今欲しい」に見られる、若さや感情に任せた恋ではなく、「素直」さと供にいることで互いたが互いを真に思い遣れる恋の大切さに主人公が気付いているという事である。もっとも若さと時間を代償にしたものであるのだが、それがまた主人公の想いに重みを与えているのも間違いないことである。
サビの間に挟まれた「素直になれと言ったあなたの 言葉の意味がやっと判った」という歌詞がまた一層歌詞全体の意味に重きを為しているのが秀逸である。何かを失って、それを悔いる長い時間を経て素直さを得る、というプロセスは時間というファクターの為にどうしても若さを売りとする歌手には似合わない。椎名さんはデビューが比較的遅い人だが雌伏の時が熟成された美酒の如き味を出しているのがこの一曲にも見えて、大変心地よく酔えるものである。体ではなく「心を抱いて」というタイトルも妙に納得できるものである。
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