この街は止まらない

         作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 森俊之
解説 5thアルバム『魔法のリングにKissをして』の5曲目に収録。真夜ソングにあって特異とも言えるほど厳しい非難的論調に満ちた曲である。そもそもこの曲の誕生のきっかけとなったのが雨の街中で咥え煙草で暗い顔をした女性の話で、やさぐれた姿に怒りと発破をかけたくなる気持ちが託された歌となっている(だったよな…?確か)。
 「1999魔法のリングにKissをしてツアー」ではダンサー達のパントマイムの後にセットになった港町倉庫の二階の扉のようなところから冒頭からではなく、「心に降る雨 傘をさせるのは自分しかいないんだよ」から歌いながら真夜さんは入場して来た。
 肝心の歌詞だが、「なんか さえない顔じゃん」「自分に いつまでも甘ったれてんじゃないよ」等の歌詞は初めて聞いた時にはかなり衝撃を受けた。詞もさることながら曲調も口調も真夜らしくない辛辣なもので、励ましていると言うよりは、ついて来れない様なら見放す、と言いた気ですらある。
 内容的に開発すると、「この街」とは「東京」のことであり、ある意味「東京」は都会の比喩とも言える。そしてその町で人生に打ちひしがれ、絶望の淵にいる「君」に過去への悔やみが役に立たないこと、苦しみを乗り越えて成功があること、決して「君」だけがそんな思いを抱えているのではないこと、を主眼として叱り付ける様に諭している。
 注目したいのは辛い思いをしているのは「君」だけじゃないことを伝えるのに、自分の例を示していることと、結局は自分がしっかりしなければならないことを巧みに織り交ぜて訴える歌詞となっていることである。そしてその中にも辛辣な論調は遺憾なく存在している。
 「君」の希望をなくした姿は「酒におぼれて ボロボロ」と表され、過去の絶望した自分を語るのに「手首を傷つけた でも 残ったものは みじめな自分と 傷痕だけだった」となっているのもかなりそのカラーはデンジャーである。真夜ソングにおけるアイデンティティは間違いなく最高峰である。
 最後に注目したいのは「つまずきながら もがきながら 皆 必死に生きてるんだ」「人は皆 寂しがりやで もろく儚い生き物だけど 愛を求め 夢を求め 涙 くり返し 生きていかなきゃ」である。描写も強烈だが、それを踏まえた上で皆が苦労しており、生きていく為にやるしかない、という念がビシビシと伝わってくる。真夜ソングらしからぬ攻撃性の繰り返しっぽい解説になったが、それだけ強い個性を持っていること改めて協調し、解説をここで終えるのが適当と思われる。これ以上は蛇足になりそうなので。
 

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