負け犬のSHOUT!!
作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 AKIRA NISHIHIRA
解説 大黒摩季さんのアルバム『HAPPINESS』の5曲目に収録されているこの曲は「負け犬のSHOUT!!」というタイトルからして聞き手にネガティブなものを連想させるが、その訴えんとする所は多くの摩季ファンが求めているものと言える。
「この「負け犬」め!」と罵倒されて気分のいい人などまずいないだろう。犬という動物に申し訳なくなるぐらい「負け犬」という単語は「犬死」と並んでひどい物である。だが様々な局面において敗者に(面と向かわずとも)そう口にして浴びせ掛ける例は世に枚挙に暇がない。
誰だって「負け犬」より勝者でありたい。そして勝者である時には勝者なりの苦労もあるだろうが、まず気分はハイで、苦難も少なければ、その僅かな苦難も心強さで乗り切れる事が多い。
問題が心ならずも「負け犬」となってしまった事にあるのはこの歌に限った話ではない。この曲に並んで思い出されるのが「真夜中のホイッスル」の「負け犬ほどタフじゃない」という歌詞で、この曲の「"負け犬"とはもう呼ばせない」、「"負け犬"でも鍛えれば強くなる」と比較させるほど深い含蓄が出てくる。
誰だってなりたくない、呼ばれたくない「負け犬」になってしまったとあっては、考えるのはそのステータスからの脱却だろう。そしてそれに伴うリベンジ、捲土重来、見返し、発奮、etcと何とかポジティブに変換せんとするために日々を戦っている人も多いだろう。ましてこの曲の主人公は「終わった恋に そういつまでも 立ち止まっていられるほど現実は甘くない」という状況に置かれている。
端的にいえば仕事が忙しく、そしてその労働環境もいい所とは言い難い。「職場に行けば とりあえずは必要とされる ごろつき局もセクハラ部長も」の歌詞からも一目瞭然である。ではそんな劣悪環境に「負け犬」の烙印を押された(自分で推した?)主人公はどうしようとしているのか?
月並みな言葉で表現するなら次こそは同じ轍を踏むまい、としている、と言うことだろう。「自信のなさが たぶんきっと 受身体質をつかさどっている諸悪の根源と わかっていても ついおざなりにしてきたけど」と原因(=敗因)を見据え、「次の恋は」という目標を定め、「追いかけない 尽くさない 依存しない 焦らない すがりつくような情けない女は卒業よアモーレ 自立しよう 働こう キレイになろう さぁ稼ごう 涙をお金に換えて 本腰入れて生まれ変わって」、「無理はしない 演じない 自分騙さない 堪えない 素のままいられるように"ありのまま"磨くのよアモーレ 買い物行こう 髪を切ろう 引越ししよう 痕跡を消そう 思い出のない場所から何もかも塗り替えて行くのよ」、「ピュアでいたい 癒されたい 浮気されない 嘘もない 心から信じられる信じ合える人がやっぱりいい 次へ行こう 他探そう 別れて正解 間違いない 私は自責の荒みLife あの人は無傷で元サヤGOOD-LIFE」というシミュレーションも欠かしていない。
皮肉っぽい意見を言えば、これだけ反省点が多い恋なら失敗して当たり前、という気がしないでもないが、全ての要素は主人公が自分らしさを失った所にあることを捉えている所に注目したい。
別の視点で語ると、恋について一つ提言したいのだが、惚れた相手、愛する相手のために自分の欠点を改め、相手尽くす事は大切ではあるものの、そこに自分らしさを完全に抹殺してしまう様では本末転倒であるという事である。
道場主は過去において何度かの失恋を経験し、その度に辛い思いをしたが、それぞれの失恋において、単に相手に気に入られるだけならもっともっと演技と言うものを行っていただろう。素のままの自分が受け入れられないのは相手を追う内に見え、受け入れられるためには別人にならなくてはならないことも思い知らされた。そして結論から言うと道場主は根本的な所で自己を変える事を拒否した。相手を愛してなかったからではない。仮面をかぶったり、別人を演じる自分が愛されても自分が愛される事にはならないからである。
「きっと神様が まだ間に合うから 仕切りなおして最後にもう一度 生き直しなさいと この恋を終わらせてくれたのかもね」という風な結ばれない運命を認めるかのような思考は本来は好まない所ではあるが、自分らしさを失ってまでする価値のある恋かどうかを見定める為にはそういう形の見切りが大切なこともある、とダンエモンは考える。
「負け犬」ついでに、この単語にこだわって締めたい。「負け犬のSHOUT!!」ととは言い換えれば負け犬の遠吠えだが、ダンエモンは例え「負け犬」と呼ばわれ続けても「負け犬」なら「負け犬」でも吠え続け、噛み付く牙を持ち続ける所存である。
負けたからと言って今現在持っている咆哮と牙までを放棄する、それこそが本当の「負け犬」ではあるまいか?「"負け犬"とはもう呼ばせない」と「"負け犬"でも鍛えれば強くなる」の歌詞を今一度噛み締めたい。
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