マリンタワーに着くまでに

作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 徳永暁人

解説 摩季ネェの14thアルバム『MUSIC MUCSLE』Disc2「RESTING MUSCLE」の3番目に収録されている。
 デートスポットである「山下公園」「元町」「マリンタワー」や、そこに至る「海岸Higway」を含む横浜を舞台に、刹那的なデート気分を楽しみつつ、本気に至るか否かを迷っている曲と云えようか。

 「きっかけはSoアドバイス MamaのBirthday年上の私」「彼女の前の君はもっと 我儘なのかな 笑うのかな」という歌詞が、年下の自分を頼ってくる想い人(彼女持ち)に先輩・上司・姉御的な立場で様々な相談に乗ったり、協力的な行動を取ったりしつつ、内心ではわがものにしたい気持ちを抱く様が「IT’S ALL RIGHT」を彷彿とさせる。
 ただ、「君」への想いは、アドバイザー・応援者に徹していた「IT’S ALL RIGHT」よりも明らかにこの曲の方が強い。

 「恋のスイッチをONしちゃいましょう」「ハートのホックを一つ外して」「よろけたフリして抱き着こうかな」と云った歌詞にそれらの想いが現れている。
 ただ、迷いはあるのだろう。「頭の中で 理屈の中で 何でも解決しちゃ ダメね トラブルやハプニングが 新しい君と 頼りたかった私に 気づかせてくれるから」とあるから、元々は姉貴分として頼られる存在であったことが、恋人同士ならずともいい関係を築いていたと見られ、一線を踏み越えることですべてを失うことだって有り得る。また、「彼女の前の君はもっと 我儘なのかな」の歌詞から、「君」はまだ主人公の前では本音の自分を出してはいないのだろう。

 そんな迷いを滲ませてはいるが、ダンエモン的に見て、主人公の気持ちははっきりしている。まず一線を踏み越える=「恋のスイッチをONしちゃ」うのは間違いないだろう。何せ主人公は重要な決断をしようとしている訳だが、そこに迷いがあれば、「マリンタワーに着くまでに」という短い時間で決められる話ではない。

 海辺の町を背景にした爽やかな曲調に比すれば、略奪愛一歩手前の歌詞は悪い云い方をすればかなりドロドロしている。別の云い方をすれば恋が理屈ではないことを教えてくれる。
 告白し、「恋のスイッチをON」することで、男女の関係は必ずそれまでとは異なるものになる(例え表面上変わらないように見えても、だ)。歌詞中で繰り返される「Chu Chu Chu〜」の掛け声(?)の様に軽いノリで出来るものでは無い。
 うちの道場主も告白したことでそれまでの関係が完全に崩壊した経験がある。ただ、それでも一線を乗り越えなければ達成できないとなると、それこそ近場迄のドライブという短い時間で決断しなければならない時が人生には間違いなくあることをこの曲は教えてくれる気がする。
 確かに恋の始まりはそういうものかも知れない。

 余談だが、25周年記念ライブにおいてこの曲が歌われた時、背景のスクリーンにはデビュー後数年を経ていないと見られる頃の摩季ネェが海岸沿いをオープンカーで運転する映像が流されていた。
 歌の終わりに摩季ネェはかつての自分の映像の側に立ち、両者を比較させていたが、摩季ネェらしさを貫く歌詞と生き様に、今も昔も無いことを感じさせられたひと時だった。


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令和五(2023)年九月一五日 最終更新