満月
解説 椎名さんのデビュー30周年を記念してリリースされたアルバム『君と僕をつなぐもの』のトップに収録。
作詞 椎名恵 作曲 椎名恵 編曲 恩田直幸
同アルバム収録曲の中では最もライブにて頻繁に歌われており、ライブのトリを務めたこともある。
また、同アルバムはすべての曲にてギターを吉澤秀人氏が、パーカッションを井上“Cico”浩一氏が、バスを池間史規氏が、ピアノを恩田直幸氏が担当しているが、吉澤氏、井上氏、恩田氏は昨今の椎名さんのライブ常連であるとともに、ライブに欠かせないメンバーとなっている。
特にサビの「もっともっとあなたを 知りたい 見てたい 抱きしめたい」、「ずっとずっとあなたの 声も 涙も 受け止めたい」、「きっときっとあなたを 想い 願い 信じている」の歌詞における「もっとももっとあなたを」、「ずっとずっとあなたの」、「きっときっとあなたを」の部分を椎名さんと共に4人で合唱する様は何度聴いても圧巻である。
そんな静かな迫力と、淡くても確かな想いを併せ持つのがこの「満月」の歌詞が持つ肝と言える。
言うまでもないが、満月に限らず、月光の元は陽光である。陽光は時に厳しく、時に温かい。そして昼間であればどんなに天気が悪くても確かな視界を与えてくれる。
一方で月光のもたらす月明りは満月の時であっても陽光には遥かに及ばない。それでいて、あたかも4本ある蛍光灯の内3本が消えれば残り1本が妙に明るく感じるかのような強さも持っている。
闇に覆われている夜中にも、儚げで、朧気でも確かな光を投げ掛ける様が、「愛があるから やさしさを 人は知るのでしょう」や「あわい光のように あなたを包みたい」や「1人じゃないよ 月がほら 優しく見ている」といった歌詞に現れている様に思われる。
現代の夜にて、特に街中ではネオンや街灯の前に忘れられがちだが、電灯が発達していない事態にあって、月光や星明りは貴重な照明だったのだろう。
忘れられがちでも大切で、間違いなく存在するもの。それは人が人に持つ愛情や思いやりにも同じことが言えることだろう。
同時に、明けない夜が無いように、必ず光はやってくることもこの曲の歌詞は比喩している。
「何も聞こえない 愛しい声も 何も見えない 自分さえも けれど違う 明日を待とう」の歌詞はそのことを端的に表していると云えよう。勿論、ただ待っているだけでは癪なので(苦笑)、信じて待ちつつも努力することは大切なのだが。
それにしても「満月」を初め、「月」とは不思議な存在である。
地球との位置関係と陽光の当たり具合の関係で、月は時と場所によってほとんど見えなかったり、真円の姿を見せたり、満ち欠けを見せたりする。
一方で、その引力で海水や人間の血流を引き付けるため、潮の満ち引きをもたらし、古来より人間の精神にも大きく関係すると云われてきた。
ワーウルフ(人狼)を筆頭に、満月の光りで獣に変身するモンスター(ライカンスロープ)の話は世界中に存在し、英語で「精神に異常をきたした」を意味する「lunatic」はローマ神話における月の女神・ルナ(Luna)に由来している。
実際、満月の夜は潮の満ち引きも大きく、血腥い事件が統計的にも満月の夜に多いのも統計的にも古くから云われてきた。
37万キロも遠くにあり、国家が莫大な費用を投じて尚往復は容易ではなく(←いまだにアポロ11号の月面着陸を捏造と主張する者が少なくないことに呆れる)、それでいて人類に優しく淡い光を投げ掛ける隣人でもあった。
日常の中で月明りを意識することは少ないが、月明り同様に、普段意識せずとも、大切で確かなものは折に触れて振り返り、感謝し、信じる人間でありたいものであることをこの曲に教えられた気がする。
恵の間へ戻る 平成三一(2019)年二月二〇日 最終更新