未来が私を呼んでいる…

作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 葉山たけし


解説 8枚目のシングル「夏が来る」のカップリング曲で互いに恋人を捨てた者同士が一緒になり、その罪悪感に苦しみつつも信じた道を進もうとする決意を表した、凝ったシチュエーションの歌である。

 曲全体の感じはどこか物寂しく、歌詞と共に力強さに欠ける。内容的にもどこか隠者的なところがあるからだろう。歌詞にもあるように「あなたも私も愛した人 傷付けて 始まった恋だったから 手放しではしゃげない 今はまだ」という事情からも明るい歌詞になり得ないのも当然だろう。
 しかし意志の強さは感じられる。その最も強い気持ちが「さようなら二度と言わない」だろう。都合三回出てくるこの歌詞は主人公の一番の望みであり、繰り返したくない過ちへの戒めとも取れる。

 興味深いのが、不安や寂しさに陥った時の主人公の行動で、「伝えたい気持ち言えないほど 掃除する淋しい癖」「不安で確かめたい時ほど シャツをたたむ淋しい癖」「戸惑い抱き締めたい時ほど グラス洗う淋しい癖」と、三つの「癖」を歌っているが、掃除も衣類や食器の整理もごく日常的なことだが、そんな日常的な行動にスポットを当てることで、決して綺麗とは云えない経緯を経て得た二人の生活に固執したがる姿が見えるようで秀逸である。
 この歌の歌詞からは罪悪感と共に現在の恋に対する強い執着も感じる。一度失っているだけに、それも綺麗な終わり方ではなかっただけに繰り返してしまう恐怖が付きまとっているのだろうか?

 過ちとは一度も犯したことがないのと、一度でも犯したことがあるのとの差が大きいこともまた教えてくれる一曲であり、不幸を礎に築かれ、不幸を引き摺る中での幸せの姿が胸に訴えてくるものは摩季ソングの中でも独特のものがあり、好きな曲であるのもそうだが、そう表現するよりは様々な意味で胸に染みる曲と云いたい。

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令和四(2022)年六月三日 最終更新