泣いていいんだよ

作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 小倉博和

解説 摩季ネェの14thアルバム『MUSIC MUCSLE』Disc1「FIGHTING MUSCLE」の9番目に収録されている。
 歌詞・曲調共に物悲しく、歌詞に心委ねると本当に泣いてしまいそうになる。

 生業・受験・勝負事・恋等、人生において多くの望みを抱いて挑み、それに敗れた経験はない人の方が少ないだろう。道場主なんてそれらの総てに敗北経験があり…………ぐげげげげげげげげげげげ(←道場主の涅槃ツイストを食らっている)………まあ、個人的なことはさておき、その敗北に涙流す姿は多くの人にとって恥ずべきもので、人には見せたくないことだろう。
 だが、同時にそんな姿を置く面なく曝せる相手は大切な人であり、最も心許せる相手だろう。主人公は「君」に対して「泣いていいんだよ わたしの前では」と呼び掛けることで、そんな大切な人たらんとしているのであろう。
 そしてこの部分は、ダンエモンが応援しているアーティストの一人である岡本真夜さんのデビュー曲「TOMORROW」にある「夢の荷物 ほうり投げて 泣いてもいいよ つきあうから カッコつけないで」を連想するのである。
 云い方を変えれば自分の前ではカッコつけたり、遠慮したりすることなく在りのままを曝け出して良いとしている訳だが、決して単純な慰めで云っている訳ではない。

 身も蓋もない云い方をすれば、出てしまった結果に対して慰めは何の役にも立たない。ただ、敗北が悔しければ悔しい程、そしてそこに未練があればある程、人は自分を責めてしまう。主人公は「君は悪くない とても頑張ったね」として純粋にそれまでの健闘を称え、「自己満でいいんだよ それを幸せと言うの」「泣いてしまいなよ 心を殺さないで」と云った歌詞で、勝敗や過程を度外視してどこまでも「君」の味方となり、心の支えとなろうと云う様が、世界の総てを敵に回しても味方する決意を語った「friendship」や、世界を否定してでも想い人を全肯定する「IT’S ALL RIGT」を彷彿とさせる。

 歌詞の上っ面だけを捉えれば、打ちひしがれた「君」を主人公が甘えさせる曲に聞こえるが、「心を殺さないで」の歌詞に注目するだけで、主人公が心底相手を大切に想っていることが分かるし、「諦めることは悪いことでもない 終らせないと始まらないから」の歌詞からも、「君」を前向きにさせよう、未来に向かわせようとの意は充分に感じ取れる。

 歌詞そのものは単純だから主人公の想いは上述文で充分と思うが、二点だけ述べて締めたい。
 一点はこの曲が人間の真理を突いていると云う事。「満たされないわ 決して 人は欲張り 歩き続ける それが生きるということ」の歌詞を見ても、例え「君」が夢を叶えて泣かなかったとしても、その続きで敗れて涙を流したり、更に大きな夢を挑んで挫折したりすることはあり得る。云い換えれば、人間は生きている限り満足せず、挑み続け、悔し涙に暮れる可能性があると云うことをこの曲は端的についている。
 もう一点は、この歌詞が様々な対人関係で成立する汎用性である。摩季ネェが姉御肌の女性で、ダンエモンが年上の女性に甘えるようないちゃつき方大好き野郎であることから(苦笑)、主人公と「君」の関係を自分の大好きなシチュエーションである「チョット年上の彼女と彼氏」においてしまうが、両者の関係を「親子」・「兄弟姉妹」・「師弟」・「先輩後輩」に置き換えても違和感なく成立する。
 詰まる所、この歌は人間誰しもが持っている弱さ、それを曝け出す場の大切さ、それがあって悲しみを昇華して新たなステップが踏めることを静かながらも力強い歌詞で綴ってくれていると思うのである。


摩季の間へ戻る

令和五(2023)年一月二〇日 最終更新