泣かないで

作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 建部聡志
解説  岡本真夜さんの7thアルバム『再会〜君に綴る〜』収録曲の二番手。「会いたくて」がかぶる曲調と「サヨナラ」張りの切なさに溢れ、何とも真夜さんらしくてダンエモンは同アルバム収録曲の中でも特に大好きである。
 まず注目したいのはタイトルにも使われ、歌詞中に何度も出てくる「泣かないで」に反して主人公が思い切り泣いている、という事である。だがその偽れない気持ちこそがこの歌の歌詞が持つ重大なファクターであり、その重要性は「掛け違えたボタンは サヨナラを選んでた」「がまんしてた想いが 止めどなく溢れ出すの」にも通じている。
 背景を考察するに、主人公は別れた直後で、今尚「あなた」を想い、惜しみつつも「サヨナラ」が止むを得ない選択である事を嫌というほど実感しているのだろう。そしてその背景を踏まえた上で提起したい矛盾が1点ある。
 それは「嘘」についてである。「今だけでも 嘘が上手なりたいよ」とあるように、今の関係を保つだけなら偽りを駆使すれば何とかなる状況にあるのだろう。そして主人公は決して「嘘」をつかない人間というわけでもない。
 「あなたの声が 体中に響いて離れない 悲しくて泣いてるんじゃない あなたが恋しくて 泣いてる」という気持ちでいる一方で、「あなた」のこれからの人生への出発を想い、また自らのプライドからも「最後までやさしいあなたに 笑ってサヨナラしなくちゃ」「弱い自分を あなたには見られたくない」といった気持ちを持ち合わせた果てに「泣かないで」と呼びかけている様が「嘘」に対する矛盾と愛情の狭間で何とも切ない。
 そもそも、ダンエモンに言わせれば簡単な「サヨナラ」なんて存在し得ない。何の感情や辛さを感じる事もなく出来る「サヨナラ」なんて「サヨナラ」であって「サヨナラ」にあらず、恋そのものが真実のものでなかったと考える。本気で愛したからこそ、「サヨナラ」の中に相手を思う気持ちと相手を惜しむ気持ちが心の天秤に載っかっているのだろう。 
 「あなた」を想うがゆえの涙があり、「あなた」を想うがゆえに見せるわけにいかない涙があるから、「泣かないで」「あなた」と主人公の双方に呼びかけている様が秀逸である事に触れて解説の締めとしたい。


真夜の間へ戻る

平成二三(2011)年三月八日 最終更新