夏が残した2、3の事情

         作詞 麻生圭子 作曲 平野孝幸 編曲 戸塚修
解説 椎名恵さんのセカンド・アルバム『Le Port』の3番目に収録されている。妙な形で「借りたままの八月」とは対照的な曲である。
 「借りたままの八月」では夏に約束があり、それが果たされそうにない状況に対し、この曲では約束は果されそうとしているのに主人公は違和感を感じている。
 また「借りたままの八月」の主人公が恋に見切りをつけようとしているのに対して、この曲の主人公は苦悩しながらも何とかかつての良き状況を取り戻そうとしている。
 その苦悩を表すのが「何かが違う」という歌詞の連呼だが、椎名さんファンであると同時に大黒摩季ファンでもあるダンエモンには摩季さんの「永遠の夢に向かって」が思い起こされる歌詞である(笑)。
 先の見えない苦悩の中で妥協やぼんやりとした理解したフリに走りそうになる度に、自分の中の偽れない部分が偽りの納得を強烈に否定する経験はダンエモンにもよくあり、その度に吐く台詞でもあるので、随分ドキリとさせられる。
 注目したい歌詞と言うか単語が「Puzzler」である。「泣かないで」にも見られるように、椎名さんは恋をパズルに例える事があるが、この「Puzzler」とは「困らせる人」という意味で、直前の「投げやり」と相俟って、状況の変化からの戸惑いを前にして暴発しそうな感情を表す様が秀逸である。
 そしてこの歌詞がラストの命令形の英文での締めをより一層盛り上げるのに一役買っている。
 結局の所、タイトルにも使われている「事情」の内容ははっきりしない。「真剣な嘘を つく気になれない 私 尋かれれば多分 答えてしまいそう」という歌詞から何がしかの約束が反故なされそうな雰囲気だけは伺える。
 そして恐らく主人公にとってその約束の反故は痛くはあるが、それ以上に致命的なのは「あなた」に責任なり、誠意なりのある態度が見られれないからであろう事をダンエモンは「例の約束も 話題にならない 二人 投げやりなPuzzler」の歌詞から類推した。
 「あなた」には主人公の求める問いにはっきり答えて欲しいものである。ダンエモンはかつて横恋慕の折に、相手に対して諦めがついたことを伝えて、不安から解放しなければという義務感を抱きながら、つまらない意地を張って彼氏の前で敗北を認める事ができず、その後も相手に不安を与え続けた事を悔やんでいる。
 非情の宣告でも、うやむやに片付けるよりはマシであることをこの歌は暗に教えてくれている気がする。


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