虹をかけよう

         作詞 椎名恵 作曲 羽場仁志 編曲 大友博輝
解説 椎名恵さんの16thアルバム『Tell me』の1曲目に収録されている。逆境にあって力強く生きることの意義を訴える椎名ソングの真骨頂に溢れている曲の多い同アルバムの中にあって、トップバッターに相応しい。
 歌詞の語るストーリーは、強がった別れを悔やみつつも、それに負けまいとして再起を誓う様を雨上がりにかかる美しき「虹」になぞらえているものである。
 誰だって類を問わず、別れは辛い。辛くない嬉しい別れもあるが、別れを喜べるなんてそれ自体が悔やむべきことである。それゆえに別れにあって強がった経験を持つ人は決して少なくないだろう。この曲の主人公も後多分に漏れず「横に誰かが居たならきっと 小さな喜びも二倍に感じるのに」「彼との想い出が時々 心であばれるんだ」といった具合に、時を経ているからというのもあるが、決して辛い思いを偽ってはいない。
 その点を踏まえて歌詞を追うと、「大丈夫、大丈夫 負けてなんかいられない このままじゃ終わらないさと」「大丈夫、大丈夫 遅くなんかないよね」の歌詞の含蓄は倍になる。単純計算で自らの奮起に加えて、辛かった過去を繰り返さず、取り戻す、という素直な心の内が見られるのだから。
 そう、見落としてはいけないのは主人公の復縁への気持ちである。主人公の意は「愛する人の元へいつか 虹をかけよう」の歌詞に現れている。この歌詞だけでは新たなる恋へのチャレンジの意とも取れるが、ダンエモンは「幸せにしてもらうことばかり 考えていた昨日にサヨナラ 恋をはかなくしてたのは 私の方だったわ」という悔恨の歌詞に注目したい。
 悔恨は悔恨に違いないのだが、主人公に自らの落ち度を省みることはできたのなら再起は可能とダンエモモンは考える。勿論世の中には修復不可能な別れもあるだろうけれど「大丈夫、大丈夫」の歌詞の後に続く、「負けてなんかいられない」「遅くなんかないよね」「そうつぶやいてみる」の歌詞に主人公の希望と、それ以上の意思を感じるから、第三者が何をか況やという気すらする。
 主人公には頑張って、幸せだった「クリスマスと誕生日の日と週末の夜」を取り戻して欲しいものである。
 最後に余談だが、「虹」というものに注目したとき、ダンエモンは椎名ファンには大黒摩季さんの「虹ヲコエテ」を、大黒ファンには椎名さんのこの曲を紹介したい気持ちに駆られている。冒頭でも触れたが、「虹」とは雨が上がって初めて美しく空に輝くものである。苦しみを越えた果てに待つものの比喩と思えば、この後の人生に何度でも「虹をかけよう」「虹ヲコテ」と心に唱え続けたいものである。


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