作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 Yohey
解説 同名である摩季ネェの15thアルバム『PHENIX』の8番目に収録されている。タイトルと同名であると同時に、収録曲を代表していると云って摩季ソングらしい摩季ソングである。
「PHOENIX」とはずばり、不死鳥のことで、東洋の鳳凰とも準えられるが、神話において死んでも炎でその身を焼き、炎の中から生まれ変わり永遠に生き続ける存在とされている。
個人的な記憶で語ると、かつて道場主は「PHOENIX」と云う存在を少年頃に週刊少年ジャンプに掲載されていた様々な漫画で目にして覚えた。
『キャプテン翼』では怪我をしても立ち上がり、ミラクルシュートを放つ大空翼が不死鳥に例えられ、『聖闘士星矢』 (せいんとせいや)では鳳凰星座の聖闘士・一輝と云うキャラがいて、鳳凰星座に「フェニックス」の字があてられ、その名乗りの通りに何度死んでも何の説明も無しに生き返るキャラクターだった。
だが、『キン肉マン』に登場したラスボスとも云えるキン肉マン・スーパーフェニックスがド腐れ野郎だったので、「PHOENIX」という単語に余り良いイメージを持っていなかった。まあ、それから何十年もの時を経て、このキャラは改心を経たかなり良いキャラとなっていたのだが(苦笑)。
そんな数々の「PHOENIX」をも塗り替える勢いで、この曲は強烈な印象をダンエモンにもたらしてくれた。それは取りも直さず、この曲が世の不条理に対する義憤、それも燃え上がる程の激しさ、そして愛とその為には如何なることにも耐えられる不死身の如き強さに裏打ちされているからと云えよう。
冒頭、「あとどれくらい手放したら 自由な日々にたどり着くの? 不満ばかりのあの頃だったけど それも幸せだったの」とあるが、これは退屈でも不自由な平和と、自由ゆえにそれと引き換えに何かと戦ったり、失ったりする日々のどちらを取るか?と云う人生の難しさが提唱されている。「ネッ〜女.情熱〜」や「負け犬のSHOUT!!」でも、多少の不満を抱きつつも取り敢えずの日常にぬるま湯につかる如くだらだら過ごすことへの疑問を呈していたことがあるが、それと似ている。
続けて、「あなたに出会うまで私は抜け殻の様に 自分を殺し続けて モノクロのCPU」とあることから、主人公は「あなた」と出逢うまで、希望も期待も抱かず、色の無いワンパターンな指令を繰り返すプログラムの如き日々を送って来たのだろう。
それが「一途な瞳が色をくれた」とあるように、正に「モノクロ」がカラフルに変わる如く人生が一変をするような出会いを経たのが分かる。恐らく、物凄い純粋さを持った人物に感化されて人生に目標を得たと思われるが、正に地獄の業火でそれまでの生を焼き捨て、新たな生を得て甦った「PHOENIX」の姿である。
そして歌詞的に心地良いのは、主人公が「あなた」を「PHOENIX」としつつ、「あなた」の為に自らも「PHOENIX」であらんとしているところである。サビの「I wanna be your PHOENIX.」=「あなたの不死鳥になりたい」とし、「無邪気な笑顔を あなたを守」る為に「I will be your PHOENIX.」=「私は不死鳥になる」とし、「その為ならば 火の中だって怖くない 何度でも生まれ変わる」とする愛は壮大且つ純粋で、そんな愛され方をすれば最高だと思わされる。
そして2番の歌詞では、その「あなたを守りたい」という想いがより強く歌われている。
「なぜ正直な人ばかりが 大切なもの奪われるの 汚れた同士で奪い合えばいい」と云う歌詞には、狡賢い者が正しき者、純粋な者、正直な者、弱い者を食い物にして暴利を貪っている社会の悪しき一面に怒りを振るわせており、そんな醜さから大切な「あなた」を守る為に「ここから先は通さない」としているところが何とも云えない。「Let’s ☆ Go!! Girls💋」の解説でも触れたが、「ROCK YOU,ROCK ME」とも相通ずるものがあるし、良い人ほど早々に世を去ってしまうことを憤った「Pray for you 〜7月のélégie〜」とも通じるところがある。
殊に個人的に想うところが強いのは、「汚れた同士で奪い合えばいい」の歌詞である。
話が大きく逸れるが、道場主の最も好きな漫画家・宮下あきら先生の代表作に『魁!!男塾』があり、この漫画の舞台である男塾は時代を担う真の日本男児を育てることをモットーとしている。上っ面だけを見れば軍国主義的な漫画に見えるが、さに非ず。教育カリキュラムこそ武を尊んでいるが、無駄な暴力を厳に戒める描写は幾度も出て来る。
その男塾の夏合宿にて、主人公達は金鬼島なる孤島で乱坊少佐なる共感の指導を受けるのだが、この乱坊、「戦場こそ男を鍛えるのに持って来いの場。」という理屈の下、塾生達に軍事訓練に託けていびりまくるというクソ教師だった。話の終盤、当然の様に乱坊は主人公・剣桃太郎に一泡吹かせられるのだが、合宿の終わりに際して塾生達は乱坊に、「戦争そんなに好きならてめえひとりでやっとれやーっ!!」との罵声を浴びせていた。
回りくどくて申し訳ないが、「汚れた同士で奪い合えばいい」の歌詞に連想したのは正にこの台詞である。一般市民を巻き添えにして抗争を繰り広げる暴力団、自分は安全な場で無差別テロの指示を出すテロリストの親玉、戦場に出ず官邸奥深くで訳の分からん大義を振りかざして宣戦布告する独裁者、本当に、「汚れた同士で奪い合えばいい」とか、「戦争そんなに好きならてめえひとりでやっとれやーっ!!」とかを怒鳴り付けたくなる。
実際、平和な日本に生まれても海外で傭兵になって戦場に出ることは出来る。戦うことでしか熱くなれないならそうすれば良いし、格闘家や自衛官になる道もあるし、物騒なこと云うなら、やくざ共ももやくざ同士で殺し合うなら勝手にすればいい。
しかしながら悲しいことに世の中には自分の欲望を満たす為に暴力を振るい、そこに関係な弱者を巻き込む者共が少なからず存在する。本当に、平和を願う人々だけでの安全地帯を作り、「ここから先は通さない」と云いたくなる。
思うに、そんな嫌なことが多過ぎる世の中故に主人公は単調で、良いことはなくとも、悪いこともないワンパターンな平和の中に居たのだろう。それが「あなた」と出逢ったことで、共に歩む人生に大きな夢を馳せ、それを守りたく、その為にはどんな苦難も恐れず、倒れても何度でも立ち上がるとする様は誠に凛々しく、惚れ惚れとする。
「未来などいらない と思っていたけど あなたが主人公のStoryなら 輝かせたい」の歌詞には出逢いによって抱いた期待の大きさに溢れている。ファンタジー小説『ロードス島戦記』の舞台であるフォーセリアでは、フェニックスは炎の上位精霊とされている。この世界では炎は破壊と再生を司っており、破壊をもう一つの上位精霊エフリートが、そして再生をフェニックスが司っているとしている。主人公にとって期待を持つようになった未来は正にフェニックスによってもたらされた再生なのだろう。
最後に触れておきたいのは、「あなた」に対してである。
ここまでの解説で、ダンエモンはこの歌に出て来る「あなた」を彼氏の如く書いたが、取りようによってはこの世に生まれ出てきた我が子とも取れる。特に「I wanna be your PHOENIX. 無邪気な笑顔を あなたを守りたい I will be your PHOENIX. その為ならば 火の中だって怖くない」の歌詞には強烈な母性愛を感じる。
まあ、ラストの歌詞に「I can be just reckless. 貌あるものは もう何もいらない」とあることから」、我が子を守る母親が「reckless」=無鉄砲を求めるとも思えないので、この曲を母の立場で歌うとするのは少し無理がある気もする。無気力な社会人生活を送っていたOLが投げやり的な結婚生活に身を投じていたのなら出産を機に希望溢れる人生を志す様になったと取れるかも知れないが、続く「I wanna it to be endless. 瞳に見えなくても 確かな愛があるなら 何度でも生まれ変わる I’m your PHOENIX.」との整合性がつかない(苦笑)。
やはり、この曲で歌われている「あなた」は彼氏なのだろう。容貌の「貌」と云う字を当てて、「かたち」と読み、「貌あるものは もう何もいらない」という歌詞を繰り広げているところから、下衆の勘繰りになるが、主人公は容貌で男に惚れ、哀しい結果に終わる恋を繰り返して来たのではあるまいか?
そしてそれまでの相手になかった純粋さを「あなた」に感じ、諦めていた恋愛に取り組む気持ちを取り戻し、「I wanna it to be endless. 瞳に見えなくても 確かな愛があるなら 何度でも生まれ変わる I’m your PHOENIX.」と締め括っているのだろう。
人間歳を食えばなかなか純粋ではいられない。しかし、心のどこかに「火の中だって怖くない」という想いと、人生にそう想い続けられる対象となる存在を持っておきたいものである。
摩季の間へ戻る 令和六(2024)年一一月一日 最終更新