作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 西平彰
解説 アルバム『POSITIVE SPIRAL』と同名のこの曲は収録曲のトップバッターにして、2008年ツアーのタイトルでもある。
「Negative(消極的)」に対する「POSITIVE」(積極的)が「SPIRAL」(螺旋)を描いて進むが如く、意欲的な前進とどこまでも自己を貫かんとする姿勢に溢れたこの曲は、「SPIRAL」が決して一直線じゃない大回りを描きつつも着実に進んでいく様に相応しく、単純に「POSITIVE」の一言で括れない収録曲を見事に代表していて、摩季さんが同アルバムの初回特典DVD 収録の「セルフライナーノーツインタビュー」で語っていたように、タイトル以上にタイトルを語っている曲である。
冒頭の「舞い上がれ 風よ吹け 空よ晴れ渡れ 悲しみよ 微笑みになれ」た、「湧き上がれ 迸れ 光よ降り注げ その涙 プリズムになれ」といった号令に等しい決意はどこか「BRAND-NEW DAY」を彷彿とさせるが、かつて「大黒摩季版天上天下唯我独尊」と評した「BRAND-NEW DAY」よりも「あの日」の「あなた」が大きく関わっており、「CHAIN OF SMILES」(微笑みの連鎖)が「SPIRAL」を形成している様に妙なまでに納得させられるものである。
歌詞の流れの中にあるコアとして取り上げたいのは、主人公と「あなた」の間に「あの日」から「今」にかけて交わされた「元気」・「希望」のギブ&テイクである。
「今」の主人公が「あの日あなたがくれた希望を届けに」や「もしあなたが自分のこと信じられなくても 私は信じられるわ」と過去の恩に報いるように見える歌詞は、「一緒にいるとなんだか 元気がでるねって言ってくれるけど もともと前向きなんじゃない 私がツライ日も支えてほしいから ポイント稼いでいるだけよ(笑)」とあるように、下世話な言い方をすると、主人公には思いっきり下心を未来に持っている(笑)。
単純な恩義のやり取りではなく、主人公が「あの日あなた」に貰った物が本当に大切で、嬉しく、かけがえの無いものだから、時の流れを経て増幅させた自分の手で返したくなるところに互いが与え合ったものの美しさが際立つ。
改めて恋愛とは一方的であってはいけない、愛とは与え合うものであることを再認識させられた瞬間の感情はまさしく「POSITIVE」・SENSEの温故知新である。
恋愛の形態は人それぞれだが、恋愛のベースに主従関係を置きたくないと考える方々にはこの曲の歌詞を熟読することをお勧めしたい。
「POSITIVE」を代表する歌詞として取り上げたいのは「黄昏に落ちる陽は地球の裏側じゃ 燃え盛り昇る朝陽よ」である。
杓子定規な見方をすれば、「日本の夕暮れはブラジルの夜明け」という地理学の話になるが、「negative」と「POSITIVE」の対称的概念でありがなら背中合わせの概念でもあることが見事に比喩されており、この歌詞には究極のマイナスを究極のプラスにしてしまう強さが裏打ちされていて気分がいい。
同時に、誰だって「negative」より「POSITIVE」を願う一方で、「negative」を知らずして「POSITIVE」もまた知りようが無いという現実と共に人生の厳しさと面白さを教えられた気もした。
最後にこの曲の最も好きな歌詞としてあげたいのは「すべてが無駄に思えて 無償に寂しくてふと空っぽになる そんな時いつもあなたは 何も言わずに 髪を撫でてくれたね 救い一つで人は立ち上がれる」である。
饒舌漢・ダンエモン(苦笑)にはなかなか言葉を使わず真心を伝えるのは至難の業なのだが(再度苦笑)、この歌詞を最初に聴いた時、乏しい恋愛経験の中に孤独と体調不良に打ちひしがれていた元カノに髪を抱え込むような抱擁で感情のすべてを伝えたン年前の一コマを思い出し、一人街中で照れ臭さに悶えた(ああぁ!ヒカないで下さい!)。
チョットしたことで落ち込んでしまうのも人間なら、チョットしたことで立ち直るのもまた人間。そのチョットしたことが最愛の人からのものならそれが極限のパワーを引き出せることもあれば、逆に極限のパワーを相手に返せるということでもある。
何より「すべてが無駄に思え」てしまったのが、 「救い一つで立ち上がれる」ようにされる様はダンエモンがもっとも好きな摩季ソング「LOVIN’ YOU」の最も好きな歌詞にも通じるので、この歌詞は間違いなく「POSITIVE SPIRAL」の中のダンエモンの一押しである。
「NEGATIVE SPIRAL」と言われる時代だからこそ求められた「POSITIVE SPIRAL」だが、単に醜いもの、辛いもの、疎ましいものから目を背け、「negative」から逃げるだけでは、真の「POSITIVE」は生まれないことを心に刻みつつアルバム『POSITIVE SPIRAL』を聴けば、そこから得られる意義は二乗にも、三乗にもなるとダンエモンは信ずる。
摩季の間へ戻る 平成二〇(2008)年二月一一日 最終更新