早花咲月〜さはなさづき〜

作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 西垣哲二&岡本真夜

解説 岡本真夜さんの10thアルバム『Close To You』の11曲目に収録。レパートリーで言えば12曲目に「Close To You〜Reprise〜」があり、アンコールトラックとして13曲目に「Beautiful Days」が収録されているのでトリではないが、もともとは事実上のトリだった。
 また、宮地真緒さんに楽曲提供された物でもある(その時の編曲は武部聡志氏が担当)。

 時が経っても色褪せない(恐らくは)学生時代の淡い恋への想い出に、「偶然」の再会がブレンドされた中に、ほんのりとした嫉妬が内包されながら全体を通じてかなり清らかな曲である。
 タイトルの「早花咲月〜さはなさづき〜」が旧暦三月の異称であることから、主人公は「卒業」を最後に「あなた」とは会っておらず、「季節が巡」る度に「あなた」を思い出し、想っていたのだろう。

 興味深いのが、「「元気だった?」懐かしい声 でもあなたの隣には かわいい人」「胸にしまっていた恋 何ひとつ 伝えられなかった」「もう会えないんだね こらえてた涙 溢れた」と言った歌詞で想い人の交際相手に対する嫉妬・告白出来なかった悔恨・会うことの敵わない惜別感を見せながら、「“大好きだった人”」「募っていた想い 今 風になった」「あなたが好きでした」といった歌詞では「あなた」は過去形にされ、思い出として整理されていることである。
 完全な当て推量だが、思うに、「胸にしまっていた恋 何ひとつ 伝えられなかった」の歌詞からも、主人公は「あなた」に想いを伝えること無く「卒業」しており、「あなた」は全く気付いていないゆえに、主人公にとって、この恋は勝負に出なかった故に表に出されることはないのだろう。つまりはこの歌詞も誰かに伝えるものではなく、「卒業」の季節が来た時にだけ、主人公が心の中に想うのだろう。
 その点、この歌と同じく過去の想い人との再会を描いた物でも、愛し合いながら別れた事実を持つ「Destiny」とは違った形の残酷さがあり、その想いを共有するものは誰もいない。

 それでもこの歌に清らかさが漂うのは曲調もさることながら、心の中に決して消えることのない永遠を誓っているからだろう。冒頭であり、サビでもある「季節が巡っても この先 恋をしても あなたを忘れないでしょう いつまでも“大好きだった人”」はいつまでも主人公だけのものであり、三月にだけ思い出されるのだろう。過去形であり、現在進行形であり、永遠の未来でもある不思議な想いが集約されているからラストの「あながた好きでした」歌詞は爽やかでありながら、非常な不動性をもって聳え立っているようですらある。

 道場主にとっても初恋の記憶が消えることはなく、毎年振られた日が来る度に未練がましく思い出しているが、次の●月は一つ、この曲の主人公と同じ同じ想いで迎えて見るとするか(笑)。


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平成二四(2012)年一月一三日 最終更新