サヨナラなんて言えないから

作詞 岡本真夜、真名杏樹 作曲 岡本真夜 編曲 小川知司


解説 セカンドシングル「FOEVER」のC/W曲で、アルバムでは同じくセカンドアルバムである『Pureness』の9番目に収録されている。作詞が「TOMMOROW」「これからだよ」同様に真名杏樹さんとの共同になっている。
 語弊があるのを恐れずに書けばこの曲は猜疑心に苦しむ曲である。「あなた」が別の女性といるところを目撃してしまう。そしてその時の「あなた」の表情は「私」といる時よりも楽しそうな顔をしている。振られたのかどうか?「あなた」「彼女」はどこまで本気なのか?だが「私」の気持ちは二人の仲がどうあれ「あなた」を忘れること、嫌いになることは出来ない。だから「あなた」の確かな言葉が欲しい…。ここまでストーリー的な解説が出来るのも珍しい(笑)。

 まず注目したいのは、信じられない、信じたくないシーン―「信号で止まった あなたの赤いクルマ 横顔のきれいな隣の彼女は 誰」「あんなに笑ってる あなたを見たのは はじめて」―を見てしまった主人公と、楽しい思い出の方を信じ込みたい気持ち―「「好き?」と聞くたび 溶けてしまいそうな瞳で まっすぐ私を やさしく見つめてくれたのに」―とで揺れ動いている様である。

 実際信じたくないものでもはっきりと目で耳で見聞きしたもの、しっかりと五感で認識したものを自分の望むべからざるもの、ということで都合よく拭い去ることは出来ない。
 ダンエモンも好きな女性が彼氏と腕組んで歩いているところを何度となく目撃し、「見なかったことにしたい!」と思いつつも、その光景は今も脳裏に焼き付いている。
 勿論その女性と彼氏は正当な恋人同士なので、ダンエモンがどう思おうととやかく云われる筋合いはないし、ダンエモンもまた口を挟むことは出来なかった。だが、この歌の主人公の場合は裏切り好意に直面した訳である。遣り切れなさはダンエモンが経験したそれ以上だろう。

 そんな時、不安に揺らぐ人は何を求めるか?その答が「今すぐ 肩をそっと抱いて なんでもないと言いきかせてよ」であろう。浮気現場を見てしまった記憶は消えないが、「嫌いになんてなれないから なれないから……」が主人公の本音である以上、「あなた」の確かな言葉があればやっていけるのである。一言で云うなら「惚れた弱み」であろう。
 歌詞のストーリーとして「あなた」「彼女」と仲の詳細、その後日譚が語られることはない。だが、タイトルにあるように「サヨナラなんて言えないから」とある以上、他人事ながら「あなた」には「私」の元に帰って欲しい。そして同じ男として愛する相手を不安に陥るような状況は慎みたい、と感ずるのである。


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令和五(2023)年九月一五日 最終更新