TAKE OFF

作詞 大黒摩季 作曲 大黒摩季 編曲 河野圭

解説 摩季ネェのアルバム『すっぴん』の6曲目に収録。ダンエモン個人的には「季節感のない「BLUE CHRISTMAS」に摩季ネェらしさを濃縮・熟成された曲」と想っている

 曲のあらすじは、何処か自信喪失し、愛する人が(形ははっきりしないが)去って行ったのを見送っていた主人公が、己が気持ちと決意に正直になり、自分が目指す未来と愛する人を追って旅立ち=「TAKE OFF」するものである。

 冒頭にて「時を待った鳥達が 光に煌めいて横切って行く」様を見守りながら、後々の「TAKE OFF」に擬えているのが意味深である。
 それを見守る主人公の自信喪失した様を著した歌詞が、「色褪せてるMy Way 見つめるのがつらかった 私いつ頃から輝きなくしたんだろ」な訳だが、実態よりも、直後の歌詞にて触れられている「愛を知って 無力悟って 深く傷つかないように 熱い衝動 抑える魔法 心にかけたの」といった心理描写の方がかなりひどいものがある。
 しかし、摩季ソングがそんなウジウジした気持ちのまま終わらないのはこのサイトをご覧になるような方には周知だろう(笑)。

 どんな詐欺の天才でも自分自身を偽ることは出来ない。「無力悟って 深く傷つかないように」と言いながらも、自らに「熱い衝動」があることは誰よりも主人公自身が自覚しているのである。
 それを示すように主人公の本音は直後の「でも 空を見てると 夢が舞い戻る 世界中の海を見てみたい・・・ 幸せを諦めたくはない・・・ やっぱりあの人に逢いたい・・・」の歌詞にこれでもか、という程表れている。
 二番になると特にその想いは増大されていると言って良く、「胸の奥に熱い何かが込み上げてくる」「堪えたって 嘘ついたって いつの日か悔やむなら 最善じゃない 美談にもならない 浅いひとりよがり」「何か一つを極めてみたい そして自分を好きになりたい やっぱり未来を変えたい」の歌詞に偽れない本音が溢れかえっている。

 これ以降はタイトルでもある「TAKE OFF」を連呼しつつ、思いの丈がシャウトされる訳だが、注目したいのは「TAKE OFF TAKE OFF 今」とあるように、タイミングを捉えた描写である。
 「飛び立つのなら「今」」、という想いが「光が呼んでいるわ」「熱い思いを消してしまう 前に」「ここまで生き抜いてきたんだもの 強い子よ」「もうリスクなんかに負けない」等の歌詞にも表れている。
 全くもって、ここまで様々な描写で前進の意を示す摩季ネェのボキャブラリーには頭が下がるし、どんな障害も物ともせず突き進みかねない力強さを歌った歌は数あれど、様々な辛さを受け止めた上での前進はなかなか表現出来るものではない。アルバム『すっぴん』収録曲ではこの「TAKE OFF」「ROCK&SHOUT」が二大双璧といえるだろうか?

 尚、アルバム『すっぴん』初回限定盤付属Disc2に収録されている「セルフライナーノーツインタビュー」によると、きっかけはゴルフをしに木更津に行く為にアクララインを発している時の海の綺麗さに対する憧れにあったとのことである。
 その時のイメージは摩季ネェにとって「海というのは悲しみを捨てに行く所」と思っていたのが、「海から希望を貰ったのは初めてかもしれない」となり、「あらゆる経験が作品になる」と語っていた。

 歌詞に対しては、自らの弱さに向かい合い、認めることの辛さを語りつつも、それが大黒摩季のトランディショナル・スタイルであることに触れ、「自分救済、自分への交換日記、自分へのラブレター」と表現し、「人に見せることは余り意識されていない」ことの妙を主張してもいた。

 最後に触れておきたいのは、摩季ネェの単語に対するこだわりと、それに関連した編曲者・河野圭氏への感謝の念である。
 歌詞の中には「海」という言葉は出て来ないのだが、「空と雲と風が好き」 (ベストは「風」)とのたまう摩季ネェは、河野氏に「飛行機が離陸して、雲を抜けた時の、何かが広がる感覚を音で表したい。」と語り、そこに貢献した河野氏に最大限の感謝を述べ、「もやもやしている人に聴いて欲しい」と締め括っていた。
 恥ずかしながら、当分この曲を手放せそうにないな(苦笑)。


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平成二三(2012)年二月二六日 最終更新