手紙

作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 建部聡志


解説 岡本真夜さんのミニアルバムWonderful Colorsのトリである第6曲目、ベストアルバム『My Favorites』の5曲目、デビュー20周年記念アルバム『Mayo Okamoto 20th anniversary ALL TIME BEST〜みんなの頑張るを応援する』の9曲目に収録。
 Wonderful Colors収録曲の中では「君へ帰ろう」に並んでアットホームな一曲である。
 この曲は元はデビュー30周年を迎えた岩崎宏美さんの記念シングル第1弾として楽曲提供されたものである(その時の編曲担当は青柳誠氏)。

 歌詞の流れの中から主人公と「あなた」が日々の生活をともにしている事からも夫婦であるか、或いは結婚という形をとらなくても何年も夫婦同然の同居を続けているカップルと見るのが妥当だろう。

 ダンエモンが注目している一押しの歌詞は「あたりまえの優しさに 慣れてしまわないように 失ってから気づかないように」である。
 人間は労せずして満たされているものはそれを「あたりまえ」と捉え、感謝の念も忘れ勝ちである。否、「あたりまえ」である事はわざわざ意識しないと言った方が正しいかも知れない。
 ともあれそんな「あたりまえ」が生まれるほど親密さが自然にある同居を二人は続けているのだろう。

 直前に「永遠なんて ないけど 明日も あさってもずっと ふたり一緒にいれたなら こんな幸せないと思うの」という歌詞があるが、だからこそ「あたりまえの優しさ」に感謝する事の大切さを説く歌詞が光る。
 道場主の信仰する仏教は「永遠」を否定している(「諸行無常」・「諸法無我」・「会者定離」・「盛者必衰」)。だが、否定されればこそ求めたくなるのが人情、「ないけど」と分かっているからこそ「こんな幸せないと思う」のである。
 ある意味破戒と思いつつもダンエモン(=道場主)は「永遠」を求めて生きている。命に果てはあっても名に果てはないとも思う故に。

 さてここで考察したいのが、何故に主人公が日々をともにしている「あなた」にその意を伝えるのに「手紙」という手段をとっているのか?についてである。
 「教えてあげたいと思った どんな小さな事も」とあるのと矛盾する気さえするが、最も簡単に示している歌詞は「「愛してる」って 今さら 恥ずかしくて言えないけど」だろう。
 「あたりまえ」であるが故に反って口にできない事柄は往々にして存在する。余りにも「あたりまえ」過ぎて、わざわざ口にするのがはばかられ、それゆえに形になりにくく、「失ってから気づ」く事が多いから、敢えて近い距離にあって「手紙」という回りくどい手段を使って形にしようとするのだろう。

 ダンエモンの次の恋がいつかは分からないが、「"いてくれてありがとう"」「愛してる」の言葉は恥ずかしがらずに何度も使おうと思う。
 「あたりまえ」であるがゆえに形に残す大切さを同時に重んじて。

 

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平成二七(2015)年八月八日 最終更新