ともだち

作詞椎名恵
作曲吉澤秀人
編曲恩田直幸

解説 椎名さんのデビュー30周年を記念してリリースされたアルバム『君と僕をつなぐもの』の2曲目に収録。作曲を吉澤秀人氏が、編曲を恩田直幸氏が担ったという贅沢な陣容で作られた一曲だ(笑)。
 一言で言えば別れを惜しむ歌である。

 世に別れを悲しみ、惜しむ歌は星の数ほどあり、別れに対して心の整理をつける為に永遠の別れや独り身を貫く覚悟を語る曲は多いが、「ともだち」という立場を強調するものは有りそうでなかなかない。
 そもそも、愛情を抱いた相手はもっとも「ともだち」になり得にくい存在であるとダンエモンは考えるし、そう考える人は少なくないと思う(大黒摩季さんの歌にはその想いを語る曲が数曲存在する)。
 ただ、憎み合って別れたのでなければ、互いを「ともだち」という立場に置き合っているカップルは多いだろう(気持ちの中ではそう認識できなくても)。

 それゆえ、この曲の主人公「僕」は元恋人である「君」としっかり話し合って現在の立場を認定しているから、「どんな事も話し合える ともだちでいい」という歌詞が含まれるのだろう。
 ただ、気持ちに整理をつけているのは分かっていても、やはりこの歌は切ない。その理由は間違いなく恋人同士として付き合った過去があり、それに対する惜別と後悔が溢れているからである。
 「もう 僕は君を 抱きしめない キスもしない」の歌詞を見れば、過去を惜しんでいるのは明白で、「小さな声で「サヨナラ」と つぶやいた君の 涙こらえた横顔を 忘れることはない」「「愛してる」なぜ言えなかった ちぎれた言葉が風に舞う どこにも届かず」の歌詞からは別れの瞬間に対する哀しみと後悔が見て取れる。

 殊に、ラストの「そう 僕は君を この場所から 見守るだけ 幸せにはできなかった ともだちだから」には現状を受け入れた気持ちの整理と、為せなかった過去に対する悔しさの両方が垣間見える。
 なかなかに複雑な心境で、歌詞の状況的にも「僕」「君」が元の鞘に収まることは有り得なさそうだが、それが一番いい関係ならそれもありかとも思わされる。

 この曲に描かれた「ともだち」という関係について考察するなら、「恋人以上」の歌詞と比較するとより意味深くなるだろう。
 両曲とも、何でも話し合える友人関係が互いの最もいい関係と位置付けて切ない思いを抱えつつその立場を受け入れんとしているところが共通している。だが、「ともだち」では主人公は相手と付き合っていた過去を持ち、「恋人以上」では、主人公は想い人への想いを伏せたまま、相手と一貫して変わらない関係を保っている点が異なる。

 異なる立場と、同じ想いとの比較もまた一興と言えるだろう。


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平成三一(2019)年二月二三日 最終更新