海に消えた砂の翼

         作詞 麻生圭子 作曲 椎名恵 編曲 戸塚修
解説 椎名恵さんのサードアルバム『W CONCERT』の九番手に位置する曲である。野球ならのラストのポジショニングである(←何のこっちゃ)。
 一言で言うなら別れの曲で、ある種の決意を秘めているところが同アルバムに収録されている「Wの肖像」と似ている。
 だが、多くの別れの曲と一線を画す面がこの曲はある。それは主人公が「あなた」との「あの夏の日」の思い出との決別に寂しさを滲ませてはいるが、「あなた」その人には余り執着しているように見られない。
 冒頭の「もう逢わないわ どうしても そうさよならよ 受話器を置き」から、別れを決意したのは主人公の方で、「あなた」には未練がありそうである。
 また「そう別離れてと 彼女から電話があった」という事から自分の恋人を他人に譲ってしまっている面も窺える(「何故だか憎めずに」とあるから嬉々として譲った訳ではないだろうが)。道場主なら奪おうとした事はあるから、逆に奪われそうになろうものならキレてそれを阻止…ぐえぇぇぇぇえぇぇぇ…(←道場主のキャメル・クラッチ炸裂中)。
 ゴホゴホ…。また振り返る過去が「あなたが 砂の翼つくった」に集中しているところからも思い出の方が大きいようである。
 もっとも、主人公は強がっているだけで本当は寂しさや悲しみに打ちひしがれているのかも知れない。わざわざ「わたしならその哀しみ 紛らわす仕事がある」と述べている所にも「哀しみ」を感じている事と、別れを決意した筈の「あなた」への気遣いが表れていると見える。
 さて、タイトルにもある「砂の翼」が何を比喩しているのかがいまいち分かり辛いのだが、「背中から夏の愛が さらさらと雫れていく」とある様に、脆く、儚い様と時の流れにも例えられる事を含んだ消え行く愛への比喩ではないかと思う。
 ともあれ惜別の時に限って楽しかった思い出が優先して頭の中に浮かんでしまい、それが一層の辛さを深める事を分かっていても止められない様が良く表れた一曲である事を述べて締めとしたい。


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