憂いの恋
解説 椎名恵さんの9thアルバム『ガラスの月』の4番目と15thアルバム『S』の5番目とに収録されている。ある意味人間の心の満たされれば満たされるほどその喪失への恐怖が増すという、満たされる喜びと失うかもしれない恐怖に揺れ動く葛藤の曲である。
タイトルには「憂いの恋」とあるにもかかわらず、具体的な「憂い」の種は見当たらない。強いて言えば「止まらない時」の裏に隠れた未知の別れ時ぐらいで、仏教的に言えば「諸行無常」と言える概念的なものである。
「例えどんな暗闇が来ても」と、心は決まっているのだから何を脅える事がある?と言いたくなるのだが、これは恐らく愛情が強過ぎるゆえに抱き合う腕一本を力を弱める事さえにも喪失感を感じる様な、究極なまでの執着が見て取れ、それこそ「憂い」を感じてしまう。
「言葉さえ惜しむ様に 見つめ合い」、「ただ愛だけを」見る様な想いの強い愛だから、逆に満たされたときに「行き先をわざと忘れたまま」と言うけったいな現象が起きるのだろう。
人間の欲望には際限がない。それは欲望が膨張するものだから。しかしながらこの歌の主人公と「この男性」は欲望の根源をがっちり押さえている。逆に余りに根源でがっちりしているゆえに満たされた後の進むべき道を見失っている様にも見える。
だが何だかんだ言ってもこの「二人」は幸せである。満たされたゆえに始まる「憂いの恋」なのだから。皮肉っぽい言い方をすればいついつまでも「数え切れぬ程 愛している とつぶや」き合って、「憂い」を具体化させずに居て欲しいものである。
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