笑ってるあなたがいい

         作詞 岡本真夜 作曲 岡本真夜 編曲 Tetsuji Nishigaki&岡本真夜
解説 岡本真夜にとって結婚・出産後初にして6thアルバム『Dear…』のトリである12曲目に収録。なくした恋を惜しみつつ、別れた相手に元気で笑顔で暮らしていて欲しい気持ちを歌ったものである。
 いきなり無関係なところに話が飛ぶがそもそもダンエモンは成就しなかったかつての恋の相手に対して「元気でいてくれ」と考えているだろうか?基本的にはその回答は「Ja(注:ドイツ語)」なのだが、悔しさ紛れだったり、いたずらに相手に不快な思いをさせてしまった後ろめたさから「せめて元気で」というものだったり、全くの不透明さから来るものや、当人の将来が余りにも愚行を重ねるので不安で堪らず「元気でありさえすれば」と思うものだったりでこの歌の主人公に比して誠に恥ずかしい限りである。
 ここで本来の解説に戻るが、冒頭に「綺麗な別れ方できなかった」とあることが余計に「あなた」を案じる心情を迫真にしている。そして心配事の内容が「洗濯できてる? ちゃんと食べてる?」という日常生活にかかわるものであることが平凡な様でそれが余計に真実味を帯びさせている。一人暮しを続け、お世辞にも家事が出来ていると言い難いダンエモンを実家の両親が心配するのもやはりそんなところである(苦笑)。
 注目したいのは過去を振り返る中で正負が一方的なものでなく、入り混じって回想されている様である。正としては「いつの日か一緒になる その気持ちは嘘じゃなかった」「優しかったあなたの笑顔は 勇気をくれたから 心から愛した人」「楽しかった思い出も たくさんあるから」があり、負としては「何度ふたりでやり直しても 感じる寂しさ 変わらなかった」「最後の最後まで 待っていたの そばに居る自信を持てる言葉を」「切なくて 苦しくて あなたとの恋はいつも 泣いてたけど」が挙げられる。
 そしてそれら正負を通して、結局は別れてしまった結果をも通り越して「心から愛した人 会うことできなくても 夢 追いかけて 輝いている 笑ってるあなたがいいと想い振り返れるのはある意味羨ましくすらあり、しかしながら同時にそんな人を失ってしまった主人公に同情の念を禁じ得ない。
 せめてその誇りだけでも永遠なれ、とエールしたい気持ちを述べて解説を締めたい。

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 菜根譚に「去った友の悪口を言わず」という言葉がある。その戒めの根拠は二つ。
 一つは古来より中国の人達は「人を見る目」を重視した。つまりそういう悪口は自分に人を見る目がなかったことを自ら暴露する行為に他ならず、自らの恥となるのである。もう一つは悪口は結局は当事者の耳に入り、大小の程度の差はあるが要らざる報復を呼び、憎しみ合いが続く素となってしまう、という事である。
 同じことは男女の中や退職した会社についても言えるだろう。

道場主



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