Wの肖像

         作詞 森瑶子 作曲 椎名恵 編曲 戸塚修
解説 椎名恵さんのサードアルバム『W CONCERT』の5曲目。別れの寂しさを歌った曲で、少々うがった物の見方をすると後悔の曲でもある。
 同じアルバムに収録されている「海に消えた砂の翼」の様に別れを決意する椎名ソングは多いが、後悔を滲ませているところがこの曲と対照的である。
 そしてここで考えたいのは後悔と言う言葉である。「強がりの 愚かさにあきて 気がつくと 私はいない」の歌詞は心にぐっと来るものがあり、後悔の大きさを如実に表しているが、昨今の若手歌手が後悔と言うものを否定する歌を歌う事と対照的である。  勿論後悔なんて誰もしたくないし、前向きさは大切だ。前向きな椎名ソングもまた多い。ただだらだら愚痴をこぼすだけの歌なんて聴きたくもない。
 だが、本当は後悔している筈なのに後悔していない振りをして威勢のいい事を並びがなるだけの歌よりは、後悔の根本原因を見つめて、それを繰り返すまいとして向き合う姿勢も大切ではないかと思う。
 この歌の主人公は「強がり」を悔いているからこそ、後悔していない振りをする様な「強がり」を避けているのだろうか?
 そう考えて歌詞を見つめ直すと「だから 嘘をつくの だから 傷つけるの あなたもそうよ 心にもない 言葉のナイフで刺すの」の歌詞が大きな含蓄を持って感じられる。歌詞から類推するに、主人公と「あなた」は互いに相手に対して優位にあろうとする余り、嘘や本当は心にもない相手を傷つける言葉を使い、それがいつの間にか理屈では弁解できない溝を作ってしまったのだろう。
 また同様に「だから 遠ざけるの だから 逃げだすの そうよあなたも」の歌詞も同じ「強がり」に裏打ちされているところが見逃せない。
 主人公と「あなた」が二人して強がる故に「一人は寂しくないわ 二人でいると寂しい」となり、「強がりの 愚かさにあき」る、という悲しい展開を辿った事を考察すると、タイトルの「Wの肖像」「W」とは間違いなく主人公と「あなた」の事だろう。
 「ただ 風が吹き抜けてく 恋は そのくり返しなのね」とは些か救いのない結論だが、せっかく「旅に出る」のならその「旅路」で同じ過ちを繰り返さないための何かを得て欲しいものである。


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