夜を往け
解説 椎名恵さんの13thアルバム『GAMBARE』の8曲目に収録されているこの曲は同アルバムの中で「昨日、今日、明日」と並んでもっとも大好きな曲である!
何と言ってもこの曲の特徴としてあげたいのが現実の厳しさを重視したうえで、無謀な勝負に会えて挑むが如きの叱咤が持つ魅力である。歌詞にも「眠らないこの都会にさまよう偽りを ただ暴いたとしても何にもならない」や「夜を往く人の波、逆らえば傷になる」や「どこに居ても必ず冷たい夜は来る」と歌われている。
そしてそんな厳しい現実をつきつけつつ、力強く進むべしと訴える様が魅力であると同時に、現実を踏まえている分大きな説得力とリアリティを持っている。それらを示す歌詞が「嘆きは 捨ててしまえばいい」や「でも流されるだけじゃつまらないだろう」や「立ち止まるくらいなら、そうさ夜を往け」である。
逆境に奮起して進むことを訴える歌謡曲は枚挙に暇なく存在する。だがそれらの大半は残念ながら精神論で終ったり、落ち込みから脱却する為に心の傷や厳しい現実よりは夢やまだ来ぬ未来に目を向けただけのものが多い。勿論これは贅沢である。立ち直りが何のきっかけもなしに出来るなら誰も苦労しない。
だがこの曲は救いのない現実をしっかり踏まえつつ、それでも「往け」と励まし、その支えとして主人公自身がいることを「あなたの胸に耳をあてたなら かすかな声がするよ 逃げたい時も確かにあるさと 心が泣いている」や「その手を きつく握りしめ 願いは 決して離してはいけない」という歌詞に現していることも秀逸である。
考えてみれば人生は「夜を往」くようなものかもしれない。先行きも見えなければ、いつ明けるか分からない苦難も多い。だがダンエモンが考察した末に訴えたいのは「夜」と闇は似て非なるもの、という事である。「夜」には必ず明ける時が来て、それは万人に平等なものである。つまり「夜」とは誰もが抱え得るものである。また、暗いからと言って「夜」とは決して忌むべきものではない。人間には休息−眠りの時も必要で有り、派手な演出を楽しむために夜の闇の中でこそそれが可能であったりすることが多いのもまた事実である。
逆説的なものの見方かもしれないが、順調な時にもまた「夜を往」くときのことを考えるのも大切なのかもしれない。
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