この作品は光栄の『爆笑三国志』の「軍師を解剖」のコーナーのパクリです。

長官を解剖

 ウルトラマンシリーズに必ず登場する正義のチーム。彼等が自らの手で怪獣を倒すことは稀で、そうでなくてはウルトラ兄弟の出番は無い
 まあ、そう云ってしまっては身も蓋もないが、本来地球は地球人自らの手で守るべきとの考えは常在し、主人公の人間体が常日頃服務することもあり、その設定にはかなり力が入れられる。
 ところが、その正義のチームを政府高官として管理する長官の評判がすこぶる悪い。特に第二期ウルトラシリーズでは戦前の軍人色も色濃い高飛車な人物にして、主人公が所属するチームの邪魔者に見えて仕方が無い時も多い。

 リアリティを追求するなら武器を持つ参謀・隊長・隊員を率い、地球人を上回る身体能力・科学力をもって侵略してくる未知の存在と戦うのが商売である防衛組織の長官が時として非情の言動を取る事があるのは止むを得ない話である。
 だが、地球を守るのが彼等の任務なら、明らかにその判断・統率・言動がにおかしな点が長官達に見られるのもまた事実である。
 単純に軍団の長として、異星人や怪獣との戦いに命懸けで趣く兵卒を率い、一般市民の生命・財産・居住地を守る事に「何考えてんだ?」と云いたくなるのである。


 例えば、考えが読めないにしても、以下の例ならまだ分かる。
 『ウルトラマンメビウス』第38話「オーシャンの勇魚(イサナ)」ではGUYSオーシャンの隊長である勇魚洋(村上幸平)は、 GUYSジャパンにウルトラマンメビウスがいると推測していて、自分の推測が正しい事を確信しながらもその事実を伏せておいた方が GUYS の為と判断し、推測の正誤を問う部下に「あれは冗談だ。」と云い、「隊長って何を考えているかさっぱり分かりません。」と呆れる部下に、「読まれる様じゃ隊長は務まんねーんだよ。」と返していたが、この例は隊長職にある勇魚が数多くの軍事機密を担う立場にあることを思えば、視聴者にはその意が伝わった上で、部下には−或いは、部下だからこそ−考えを読ませない言動を重ねるのはもっともである。

 だが、第2期ウルトラシリーズの長官を見ていると、「何を考えているかさっぱり分かりません。」を通り越して、「荒唐無稽」と云わざるを得ない。
 まあそれも「良識に従えば」という意味においてのことで、連中の「くだらんプライドに凝り固まった点」に注目すれば分からないでもないのだが。


 というわけで第2期ウルトラシリーズの長官達を解剖してみる事にしたのだが、例として第2期ウルトラシリーズ直前に登場した『ウルトラセブン』ヤマオカ長官で例えてみたい。

Sample:ヤマオカ長官

役名ヤマオカ
演じた俳優藤田進
登場話1・5・25・49話
分類得意技弱点部下
毅然放任型毅然拒否&参謀信任「史上最大の戦略」マナベ参謀・タケナカ参謀
◆大物はでしゃばらず◆
   地球防衛軍(TDF)は前作『ウルトラマン』科学特捜隊同様、パリに本部を置く国際組織で、名前の通り、宇宙からの侵略に対する迎撃を担い、日本を含むアジアは極東基地の管轄下にある。
 その極東基地の最高責任者がヤマオカ長官である。55歳で長官というのは、フルハシ・シゲル(石井伊吉、後のシリーズでの芸名は毒蝮三太夫)の例(放映時に隊歴7年・29歳時に平隊員、隊歴33年・55歳時に隊長、隊歴37年・59歳時に参謀)を平均として比すると優秀な人物のようである。
 もっとも、キリヤマ・カオル(中山昭二)が隊歴16年・38歳で隊長、マナベ(宮川洋一)(隊歴不明)が42歳で参謀、タケナカ(佐原賢二)(隊歴不明)が40歳で参謀(後に71歳で長官、79歳で最高評議長)、平隊員のカジ(影丸茂樹)(隊歴・年齢ともに不明)が僅か5年後に参謀になっていることを思えば誰を平均とするかでその優秀性にもかなりの幅が出ると思われる。
 少なくともカジの参謀職が年齢的にかなり異例と見られていることと、放映時期と設定年齢から、ヤマオカマナベだけが戦時中の軍事教育を受けていることを失念してはならないから、自分で云い出しておいてなんだが、単純に隊歴と階級だけで個人の優劣を推測し様というのは無謀だった様だ(苦笑)。

 ともあれ、作品全体を見て、後々の隊長にも云えることだが、長官であるヤマオカはそう頻繁にはウルトラ警備隊の前にその姿を見せない(隠している訳でもないが)。それは取りも直さず、マナベタケナカという二人の名参謀が大抵の事は片付けてしまうからであり、一般企業でも大企業ほど頭は少々のことでは出張らないものである(第13話でアイロス星人に人質にされたフルハシアマギ(古谷敏)を見捨てられないキリヤマ隊長と、部下を皆殺しにされた怒りの納まらないクラタ隊長(南廣)の二人に対するマナベ参謀の指揮は見事である)。
 道場主が人生指南書としている『菜根譚』でもトップとは、中間管理職を上手く使いこなし、チョットした事には口を挟まず、しかしながら重要ポイントではしっかりと睨みを効かす事を理想としている。
 口喧しくなく、しかしながら甘えや手抜きは看過しないトップとは、適度に頼られ、適度に恐れられる理想のトップとなり得るのである。後年、平成版である『1999ウルトラセブン最終章6部作』タケナカ長官が登場するまで、大抵の決定事項は参謀のみで行われ、最重要機密であるオメガファイルの公開に際しても参謀達がかなり強い論調で反対しつつも、長官の一声が鶴の一声であったことからも、長官たる大物が重要時以外にでしゃばらないのは地球防衛軍の体質かもしれないし、それを作ったのがヤマオカだとしたら、理想の組織体制に近づけた功績は果てしなく大きい。


◆重大時の毅然とした指揮◆
 そんなヤマオカの出番は、数年前から地球に潜伏していたクール星人の本格侵略始動時(第1話)、「地球の頭脳」と呼ばれるユシマ博士の基地訪問時(第5話)、極東基地完全凍結時に原子炉と隊員の安全を天秤にかけなければならない状況下での陣頭指揮(25話)、世界主要国首都が地底ミサイルによって次々と壊滅的打撃を受ける中での「史上最大の戦略」との対峙時(最終話)、といったものが挙げれれる。
 数こそ多く無いものの、第5話を除けば極東基地がかなりの危機か、地球防衛軍にあってかなり重要な作戦展開を担わなくてはならない時である。
 そんなヤマオカ長官は、「侵略者に対し毅然とした態度で臨む一方、現場の隊員に対しては常に理解を示す」人物と見られている。それゆえにシルバータイタンは第25話と、最終話に注目する。

 第25話では地球防衛軍極東基地は地球に三度目の氷河期をもたらしにやって来たミニ宇宙人ポール星人と、その眷属である冷凍怪獣ガンダーによって凍りつかされ、動力炉も停まり、極寒地獄に陥った極東基地において隊員達は凍死を覚悟で襲撃者と戦うか、隊員達の生命を尊重して撤退するかの二者択一を迫られる。
 当初は動力炉の復旧を進めつつ、ガンダー迎撃を命じたヤマオカ長官だったが、サブタイトルにある様に、「零下140度」の世界で隊員達は一人、また一人と倒れ、督戦し続けるヤマオカに対して遂には「自分には長官のお考えが分かりません……いえ、分かりたくありません!!」と詰め寄る隊員(幸田宗丸)まで現れ出した。
 そしてとうとう無念の涙を飲みつつ、ヤマオカも撤退を命じた。
 結果的にはその直後に間一髪でフルハシが動力炉の修理に成功(←原子炉を電気ドリルとスパナだけで修理したことが時としてネタにされている−笑)、基地には電気と暖が戻ってきた。
 ウルトラホークの発進も可能となり、ミクラスを時間稼ぎとしてガンダーと戦わせている間に太陽エネルギーをチャージしたウルトラセブンと合流し、ガンダーは倒れ、ポール星人も自己満足とも負け惜しみともつかぬ捨て台詞を残して地球を去った。
 ともあれ基地の最高責任者として、「侵略者から地球を守る」という任務と「隊員達の命を守る」という義務の狭間で苦悩するヤマオカの姿は「長官」という立場の人間を考察する上で必見である。

 もう一つの最終話はもっとスケールが大きく、これまたサブタイトルにもある「史上最大の侵略」の前にヤマオカに重大な決断が突き付けられる。
 空と海の守りが堅い地球人に対し、幽霊宇宙人ゴース星人は宇宙ステーションV3の警戒網を突破(←モロボシ・ダン(森次晃嗣)の体調不良により、V3と極東基地の連携が取れなかったのに助けられた)し、地底基地を築いて地底ミサイルでもって、ワシントン・モスクワ・パリと云った主要都市を壊滅させた。
 地球の言葉を発音できないゴース星人は前話で捕えたアマギを媒体に空・海の守りの堅い地球人の地底に対するそれが極めて無防備であることを指し、地底ミサイルの発射を脅迫材料に地球人に対する降伏を迫った。
 降伏の暁には地球人の生命を保証し、火星の地底都市に住む事を許可する、としたが、勿論誰一人賛成しない。
 「火星の地底でモグラの様になって生き続けるぐらいなら死んだ方がマシだ!」というフルハシの台詞を筆頭に、誰一人降伏を口にせず、地球人の誇りを懸けて戦うことを誓い合った。
 そして極東基地内が侵略への抵抗戦に気勢を上げる発端となったのが、ヤマオカ「これは地球人類30億に対する史上最大の侵略だ。」との台詞である。
 このヤマオカの台詞が突き付けた重要性は、ゴース星人に囚われの身となっているアマギの身を案じるソガ(阿知波伸介)にアマギの犠牲も止む無しと思わしめた(直にそう告げたのはクラタ隊長だったが)。
 前述の第25話で極東基地とそこで地球防衛に従事する隊員達の命の両方を守り、時に各々を天秤にかけなければならない事があることに触れたが、この最終話ではヤマオカが天秤にかけたのは地球と地球人類30億の命で、全てのスケールが桁違いなのである。
 勿論一建造物内で、建物の中にいる全員が自分の部下であるという第25話のケースと異なり、30億の人類のことを一人一人の意思など到底問うていられない状態で決断を間違えば、文字通り地球が滅ぶのである。
 誇りと命を天秤にかける事には賛否両論あると思うが、少なくともヤマオカが常日頃から侵略者に屈しない意識を極東基地所属の軍属全員に与えている事と、「地球と地球人30億の民」という重過ぎる物を背負った状態で徹底抗戦の口火を切るという言動は切羽詰った選択の余地なき状態でも簡単ではないところにヤマオカ長官を観察する重要ポイントがあると云っても過言ではないだろう。


◆後々に影響した縦ライン◆
 『ウルトラセブン』が放映された1968(昭和43)年とは第二次世界大戦が終結して四半世紀を経ていない時代である。当然侵略者と戦うという現実の軍隊と同じ任務を帯びている地球防衛軍には軍事カラーが極めて濃い、とうかそこは明らかに軍隊内である。
 とはいうものの、余りに悲惨な体験の果てに敗戦をもって(建て前上)戦争と軍隊を放棄した日本では軍国主義への反動ともいえる風潮が随所に見られ、それは平成の世とも無縁ではない。
 それゆえにウルトラシリーズでは明る過ぎる彩色による隊員服、コミカルな雰囲気を持つ俳優の起用、描かれることのない体罰シーン、といったかつての大日本帝国軍とは一線を画す存在であることを暗に知らしめる描写が為されている。
 同時に子供番組である事から、余り雑多な階級や軍組織としての描写も避けられたのだろう。現実の大日本帝国軍に、「元帥‐大将‐中将‐少将‐大佐‐中佐‐少佐‐大尉‐中尉‐少尉‐曹長‐軍曹‐伍長‐上等兵‐一等兵‐二等兵」といった階級区分があったのに対し、地球防衛軍では「長官‐参謀‐隊長‐隊員‐職員」といった階級が確認できるのみで、極めてシンプルである。
 そしてこの図式はその後のウルトラシリーズでも(多少の差異は有るにしても)踏襲され続けた事から、子供番組という立場で過去への懲りから軍隊色を極力排せんとの背景のもと、
 「長官(ヤマオカ)‐参謀(マナベタケナカ)‐隊長(キリヤマ)‐隊員(ソガフルハシアマギアンヌ(ひし見ゆり子)・ダン)」
 という後々の組織体系までをも定義付けたヤマオカ長官の存在意義は今から見ても、否、今から見るからこそ極めて大きいと云えるだろう。


 と、まあこんな形で第2期ウルトラシリーズの長官達を次頁以降で「解剖」させて頂きます。



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令和三(2021)年六月一一日 最終更新