役名 | 岸田長官 | ||
演じた俳優 | 藤田進 | ||
登場話 | 5・6・13・14話 | ||
分類 | 得意技 | 弱点 | 部下 |
型 | 大量破壊辞さず | 甥の説得 | 佐川参謀 |
◆コテコテの軍人ここに在り◆
岸田長官を語るにおいて、 MAT との関係を語らずにはおけない。
MAT=Monster Attack Teamは国際平和機構の地球防衛組織に属し、本部はニューヨークに置かれ、世界各国に支部がある。
一方でMAT日本支部は日本政府の省庁の一つである地球防衛庁に属する。ニューヨーク本部と日本政府の2つの命令系統がある事も長官の「解剖」において重要であるので踏まえておいて頂きたい(詳細後述)。
つまり岸田長官は防衛庁(現在は「防衛省」)の長官と同様に考えると分かり易いだろう。
ここまで地位があると政治家としての役割も当然重くなるのだが、岸田長官はどこまで行っても軍人なのである。
少し話が重くなるが、それを知るには『帰ってきたウルトラマン』が放映された1971(昭和四六)年という時代背景を見ると分かり易い。
当時は第二次世界大戦の終戦から四半世紀を経る一方で、安保闘争や赤軍テロがようやくにして沈静化する直前の時代背景もあり、かつて実在した軍隊と一線を画す為の配慮に関しても制作陣が頭を痛めたであろう事は想像に難くない。
つまり当時にとって戦前は滅茶苦茶遠い昔の事でもない時代である。実際、作中には岸田長官の兄であり、岸田文夫隊員(西田健)の父は第二次世界大戦中に大日本帝国陸軍で毒ガスの開発に携わっており(史実に即するなら大日本帝国陸軍関東軍防疫給水部=731部隊に所属していたと見られる)、その長男(つまり、岸田長官の甥にして、岸田隊員の兄)はそれを苦にして自殺している、という子供番組にしてはかなりショッキングでそれがリアリティを持たせる設定が存在した。
そんな岸田長官の性格が如実に現れるとともに、今もいの一番に思い出される第一印象となっているのが、『帰ってきたウルトラマン』の第5話・第6話での初登場時である。
地底怪獣グドンと古代怪獣ツインテールのニ体同時にウルトラマンさえも抗し得ず、その姿を消した。そもそもツインテールの卵の処分にミスがあった事と、そこからグドンが誘き寄せられた事もあり、 MAT としても、地球防衛庁としても二大怪獣を一刻も早く倒さない訳にはいかない。そんな緊急時代に佐川参謀を伴なって現れた岸田長官は超高性能爆薬・スパイナーを使用せよ、とのとんでもない命令を下した。
何がとんでもないかと云うとスパイナーは小型水爆並の破壊力を持ち、岸田隊員曰く、「鉄もコンクリートも溶かす」破壊力を持ち、岸田長官は都民に緊急避難を勧告した。夢の島で暴れるグドン・ツインテールにそんな破壊力の爆薬を用いれば破壊力は東京都全域に及び、そこに暮らす都民が危険にさらされる事は明白だった。
まあ、わざわざ触れるまでもないことなのだが、郷秀樹、加藤勝一郎隊長も猛反対した。結論から云えばこのスパイナーの使用は見送られたのだが、それ以前にも岸田長官は二大怪獣の対し、MN爆弾を地下街に5人の人間が閉じ込められている状況で発射する事を命じている。
5人の人間の中に郷の恋人・坂田アキ(榊原るみ)がいたこともあり、この時も郷は猛反対し、「5人を救出してから」という意見したのを、岸田長官の「この際、5人の事は忘れよう。」の台詞に郷は退職まで申し出ている。
つまり、岸田長官とは怪獣を倒す為には数名の生命の犠牲や、都民の財産・都内の建築物が灰燼に帰す事も厭わない人物なのである。
加藤隊長・郷の猛反対はもっともで、最後には身内である甥の岸田隊員までもが‐一応の代替案があったにせよ‐スパイナーの使用を反対した。
何故にここまで、岸田長官は犠牲多き強攻策を命じる事が出来たのだろうか?
その答えは、「怪獣に首都を蹂躙され続けるのは日本の威信に関わる。」であり、その「威信」とやら前には肝心の「首都」に存する都民の生命・財産は二の次で、怪獣(=敵)に蹂躙されるぐらいなら自らの手で壊して「威信」を保った方がマシとの考えだとしたら、岸田長官という人物は旧大日本帝国軍の持っていた凝り固まった悪しきプライドを踏襲する人物と見なさざるを得ない。
勿論これは岸田長官=残虐人間と決め付ける訳ではなく、1つの「解剖所見」として彼を軍人であるとして見る事が第一のポイントである事を抑えさせて頂きたくての意見である。
◆「嫌な長官」の元祖◆
岸田長官を演じる藤田進氏が『ウルトラセブン』のヤマオカ長官と演じた俳優と同一人物である事を知る人の中には二人の長官の別人振りに面食らった人も多いだろう。実際に別人である事を考慮に入れてもだ。
前述した様に端に軍人としての色なら、あそこまでコテコテでないにしても軍人色を持つ長官は他にも見当たる。だが、ヤマオカ長官と岸田長官の相違がここまで大きなギャップを持つのも、長官たる岸田が、部下の目から見て、その地位を傘に着た強権発動振りが露骨に現れているからであろう。
MN爆弾やスパイナーの使用に伴う犠牲に無頓着なのも相当に問題だが、史実にそんな軍人が何人もいた事を思えば、軍人色に染まり過ぎただけの人物とも云えるが、岸田長官は自分の考えに反対するものに対して容赦がない。
強力兵器の使用に反対する郷や加藤隊長には解雇をちらつかし、麻酔弾による攻撃という代替案でスパイナーの使用見送りを認めたものの、失敗時にはMAT解散も幾度か明言している。
MATが何回か解散をちらつかされたのは有名で、後番組である『ウルトラマンA』に再登場した坂田次郎(川口英樹)が然程成長していない(=番組間に長い時間の経過は認められない)事から、最終回でバット星人に基地を壊滅させられた事からMATが実際に解散させられていることも充分考えられる。
そこから岸田長官の保持する権力の強さもかなり明らかだが、そこまでの権力を持つ以上、平の隊員以上に厳重なる公正さが必要とされる。そしてこの公正さに怪しさが見え隠れするのも岸田長官の「嫌な上司」振りに拍車をかけている。
もう一点、はっきり云えば公私混同する人間なのである、岸田長官は。
スパイナー使用に反対する加藤隊長にペナルティーを与えようとするのは権限の範囲内だとしても、仮にも隊長職にある加藤を隊員達の前で解雇をちらつかせ、「君は黙って儂の命令に従えばいいんだ!」との台詞は加藤隊長の面目も権威も丸潰れであり、中間管理職者を使う方法としては感心できない。
緊急事態に対する断固たる処置を示すもの、との見方も出来なくはないが、加藤を庇う南猛隊員(池田駿介)・丘ユリ子隊員(桂木美加)の説得にも耳を貸さなかったが、結局は甥である岸田隊員の加藤隊長への賛意がきっかけとなった。
強権発動・中間管理職者の面子無視・公私混同と三拍子揃っていては岸田長官が「嫌な奴」と見なされるのも止むを得ないだろう。ヤマオカ長官とのギャップがあるだけに。
◆良くも悪くも身内尊重◆
上記で論述した事と被るが、岸田長官は兄が旧陸軍の軍人で、その次男がMATの隊員・岸田文夫である。
岸田隊員本人は「長官が叔父だから何でも無条件に従っている。」と云えば、恐らく「地球防衛庁とMATの規約に従っているだけだ。」と云って否定するだろうけれど、「長官は命令を下された。郷は黙ってそれに従えばいい。」との台詞は旧態然としたものであり、岸田長官が加藤隊長に云った台詞でもある。
旧軍隊の流れを汲む思想とも云えるし、岸田家の思想とも云える。だがいずれにしても岸田長官が岸田文夫の意見を誰のそれよりも重視したのは間違いない。
世の公私混同の全てが悪いとは云わないが、公私混同された結果自分の意見が通らなかった、と考える人間にはしこりが残る。それ故に公私混同は望ましくない。
岸田長官の主義主張は良くも悪くも一貫したものはあったのだが、それが左右した例が正論より公私混同にあったというのはやはり良い例とはならなかったのだろう。以後のウルトラシリーズでは隊員達の身内に防衛軍関係者が見られることはなかった。
冷徹な軍人にも身内の言は大切なのか?それとも冷徹な軍人だからこそ身内の言でもなければ主義主張を曲げ様としないのか?簡単に答えの出る話ではないが、それが分からない内は岸田長官にはまだまだ解剖の余地は有りそうである。
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令和三(2021)年六月一一日 最終更新