デストロンの大幹部達

 死んだと見られていたゲルショッカーの首領は替え玉を使って生き延びていた。そして最後の組織・デストロンを編成した。
 デストロンがこの首領の最後の組織であると言うことには異論を持たれる方もいると思うが、少なくとも彼(?)は「仮面ライダーV3」の第1話においてWライダーにそう宣言し、「仮面ライダーストロンガー」最終回でデルザー軍団台首領としてそれまでの支配を告白するまで、GODからブラックサタンまでの組織とは表向き無関係であったことは事実である。
 デストロンはドクトルG、キバ男爵、ツバサ大僧正、ヨロイ元帥の四人の幹部が日本占領のために尽力し、その幹部達それぞれに彼等の個性を受け継いだ改造人間達が従っていた。如何なる改造人間を率いていたかはそれぞれの項で語るとして、四人の幹部を一年の放映に盛り込んだのはある意味失敗である。
 「仮面ライダー」は二年で四人の幹部だったが、その半分の期間で同じ数の幹部を出演させた「仮面ライダーV3」ではキバ男爵とツバサ大僧正がそれぞれ五話づつの出番でしかなかった。しかもショッカー同様、デストロンも最初は常駐の大幹部はいなかったから尚更である。
 ともあれ、率いていた軍団の特色からも四人の幹部は性格もリーダーとしての在り様も四人四色である。リーダーとしての彼等の解説を石の森ワールドのアイデアと共に堪能して頂きたい。

1.ドクトルG(千波丈太郎)


 デストロン日本支部大幹部第1号で、それまで常駐幹部不在時同様に、動植物と器具を合成させた機械合成改造人間による日本占領作戦の指揮を取った。ナチス・ドイツの軍人の血を引くらしく、肩書きもドクター(英語)ならぬドクトル(ドイツ語)でなら、Gも「ジー」ではなく「ゲー」と発音する。いかにもドイツ色満載である。
 が、「ドクトル」という肩書きにも関わらず、彼はコテコテの戦士である(勿論「戦死」と同音同義語)。血染めの甲冑と、デストロンのシンボル・蠍を象った兜に身を固め、常に戦斧と盾で武装し、予備の短剣も常時携帯、とRPGの世界にもそのまま戦士として通用しそうな風体である。
 そして必要時には古代悪魔の精霊の儀式を行ない、さまよえる古代戦士や悪霊の力を自身に憑依させてパワーアップする。ある意味シャーマンかソーサラー、ダークプリーストでもある、どこが「ドクトル」やねん
 リーダーとしての彼は残忍さと膂力で指揮を執る、「威圧」で率いるタイプだ。厳しい面構えに豪傑っぽく頬から口を広く追おう髭、そして得物が戦斧である。ここまでして威圧感を持てない俳優なら確実に他の路線に走るだろう。
 ジシャクイノシシが新幹線襲撃作戦を敢行している最中にG(ゲー)作戦でもって日本に上陸した彼はいきなり戦闘員相手に模擬戦闘を演じて膂力を誇示した。その後彼は現場で指揮を執ったり、作戦立案を行なったり、時には改造手術も自ら行なっていたようである。
 実際に執刀する場面はなかったが、カメラモスキートに対して、「儂が全精力を注いで改造した御前だ。」と言っていたことからも少なくともカメラモスキートはGに改造されことが覗える。成る程ドクトルでもあるわけだ。
 性格は残忍で、就任早々ガマボイラーに自己犠牲を強いる作戦を展開しているし、劇場版では再生怪人軍団と1号、2号、V3の乱戦の中にタイホウバッファローに砲撃を命じている。
 「味方にも命中します。」と言ったタイホウバッファローに対し、ドクトルGは「構わん、味方が死んでも仮面ラーイダを倒せばいいのだ。」と言い放った。G以後も作戦の為に部下の命を省みない幹部は多く出てくるが、大量に犠牲を強いたという意味ではGが最初である。
 殉職する部下に対する哀悼の意があるのかどうかは甚だ不明だが、作戦成功の方が重いのは事実の様である。
 Gの性格を見るのに興味深い話しとして第27話、第28話での「日本全滅作戦」がある。この作戦は毒ガス・キラードガンマを用いて日本中で一斉にテロを起こすというものであるが、その作戦を展開するのに、ショッカーのゾル大佐・死神博士・地獄大使、ゲルショッカーのブラック将軍を甦らせて五大幹部総掛かりで行うと言うスケールの大きな物であった(作戦の崩壊そのものはあっけなかったが)。
 前組織の四人の幹部達はかつて組織の幹部を務めていたプライドからドクトルGに対しても露骨に対抗意識を見せていた。地獄大使に至っては甦らせてもらった理由を「ドクトルGに代わってデストロンの指揮を執れとの御意志ですかな?」と首領に言っていたし、Gが「何を馬鹿なことを!」と言えば死神博士が「有り得る話だ。」とやり返した。
 また、地獄大使が囚われのV3を見に地下牢に行ったときも「地獄大使は?」と問うGにブラック将軍は「地下室に言ったようだがと言い、ゾル大佐は「あいつは我々と違ってそそっかしいところが有る。」と言い、死神博士は「充分注意するんだな。」と嫌味ったらしく言った。案の定、周知の地獄大使のそそっかしさのためV3に逃げられることになったが、そこまでわかってんなら止めろよ君達!!一方、忠告を受けたGの返答は「指図は受けん!」だった。
 首領も作戦規模の為に五人の幹部を用いるのは結構だが、チョットはチームワークを考えた方がいいのではと思わされる。現役幹部であったためか、結局は五大幹部の中ではドクトルGがリーダー的な行動をとっていたが、それならそれで少しは他の四人の幹部の過去の立場を慮るのが善悪に関わらず組織の幹部の在り様だと思うがどうだろうか?
 数々の作戦をV3の妨害の前に失敗に終わったGは日本全滅作戦の失敗で首領に最後通告を突き付けられた。その作戦もカメラモスキートをV3に倒され、首領には口も聞いてもらえなくなり、自らの出陣を決意した。
 ここに至ってドクトルGは「戦士」に戻る。悪魔の精霊の儀式を受け、パワーアップしたGに対し、首領も黙殺を解き、激励した。立花藤兵衛、珠純子(小野ひずる)・茂(川口英樹)姉弟、その他少年ライダー隊の面々を人質にしたドクトルGはV3を海岸に誘き出し最後の決戦に挑んだ。
 佐久間ケン(川島健)の活躍で人質は開放され、ドクトルGは風見志郎がV3に変身中を襲う、と言う誰もが思いつきながらしないことをしてなかなか変身させなかったが、結局海に落したために変身されてしまい、ドクトルGもカニレーザーに変身して戦った。
 カニレーザーの容姿は頭部をレーザーランプを乗せたカニに変じたのと、腕の一部が蟹の甲羅に覆われた以外殆どドクトルGの姿と変わらなかった。普段のスタイルからしていかに彼が「戦士」であったかが覗える。
 錐揉みキックと反転キックを複合させたV3きりもみ反転キック(←まんまやんけ)を受けたカニレーザーは致命傷を受けてドクトルGの姿に戻った。「V3、潔くこの勝負俺の負けとしよう。しかし偉大なるデストロンは永遠に滅ぶまい。さらばじゃ、仮面ラーイダV3…。」これが大幹部ドクトルGの遺言である。この後Gはの体は爆発、炎上した。
 ドクトルGを怪演したのは千波丈太郎氏である。書籍を調べたところ、悪役でならした俳優らしいが、残念ながら、シルバータイタンは「水戸黄門」で逃亡する殺し屋を演じた以外にはドクトルGとしての千波氏しか知らない。俳優として活動されているようだが、具体的な活動状況は未確認である。つまりシルバータイタンは俳優としての彼をよく知らないわけだが、一つ、彼のこだわりと言うものが気に入っている。
 デストロン大幹部ドクトルGとしての出演が決定したとき彼は独自性を演出するのにいろいろと考えたと伝えられている。「ドクトルG」というキャラクターは言ってしまえば「仮面ライダーV3」の世界の中では四人いる悪の幹部の一人に過ぎず、キャラクターや性格は設定なり、シナリオなりが決めるわけだが、千波氏はそこに自分の演技の産物を盛り込むことにこだわった。
 良い心掛けだとシルバータイタンは思う。役割の重要性の大小に関わらず、キャストはその世界に生きる紛れもない存在である。作られた人物であっても決して人形ではない。それに「心」を込めるのは俳優自身であり、その為にも「個性」を盛り込むことをこだわった千波氏の心掛けは立派と言えよう。
 そしてそのこだわりが生んだのが、独特のイントネーションから繰り出される「仮面ラーイダ」という独特の呼称である。

2.キバ男爵(郷治)

 デストロン首領はドクトルGの死を確認するとV3にデストロンの第一次攻勢の終了と第二次攻勢の開始を宣言した。具体的には機械合成改造人間による攻勢を結託部族による攻勢に切り替えたと言うことになる。
 その結託部族とはキバ一族、ツバサ一族、ヨロイ一族と言った動物の物つ武器を強化した改造人間を率いる部族的色合いの濃い集団である。その尖兵がキバ一族であり、そのリーダーがキバ男爵である。後出の二人の幹部と比べても大幹部と言うよりは酋長と言いたカラーが強い。
 長大な牙を持つ動物の頭蓋骨を兜に、豹皮を袈裟懸け状に身に纏い、双方が牙になっている穂先の槍を持ち、数本の牙の首飾り、これがキバ男爵の出で立ちである。
 とても「男爵」に見えないのは製作陣も理解していたのか、初登場の第31話の終わりと第32話では首から下がタキシードになっていた。成る程「男爵」である。
 結託部族は一族のカラーが随所に現れている。キバ一族の戦闘員達も牙状の武器を持ち、配下の改造人間も、ドクロイノシシ、鬼火セイウチ、ユキオオカミ、原始タイガー、吸血マンモス、と牙を持つ動物がベースになっており、原始タイガーの乗り物は中にバイクを仕込んだ一本の牙だった(はっきり言ってカッコ悪い)。兎に角何から何まで「牙」である。
 族集団性の強い結託部族・牙一族内ではデストロン大幹部・キバ男爵は幹部と言うより、頭領か親分と言った感じで、首領が口を挿まなければ王と言っても通じるだろう。また彼は1号ライダー曰く、「恐るべき魔法使い。」であり、ドーブー教(ゾンビで有名なカリブ海のブゥードゥー教のパクリですな)の教祖でもある(教義は不明)。
 ショッカーからデストロンに至るまで、その戦力及び技術は殆どが最先端の化学に裏打ちされていたのだが、このキバ男爵にはあまり見られず、宗教や呪術的な技術が目立つ。かつて地獄大使やドクトルGも精霊や悪霊を召還する技術も行なったことがあったが、それも僅かである。が、キバ男爵は呪術の力で風水害を起こしたり、人を呪ったり、とかなり中核を占めている。
 また、四番手の原始タイガーの正体は牙を持つ獣の全ての母なる祖先、スミロドーン(サーベルタイガーの学名がスミロドーンである)であり、これまたキバ男爵の呪術により太古より召還されたもので、改造人間なのかどうか疑わしくさえなる(最後に爆死したから改造人間と言うことにしておこう)。
 何か検証している内にキバ男爵そのものがデストロン離れしてきたが、それが彼の個性だろう。呪術者としての彼が目立ち勝ちだが、戦士としての見せ場もある。
 何せ彼は1号、2号とも干戈を交えており、これは贅沢である。三人以上のライダーと干戈は交えた幹部なんてマシーン大元帥、ヨロイ騎士、魔神提督、ジャーク将軍ぐらいである。2号ライダー相手に白兵戦を演じるキバ男爵が様にならないのはあの巨大な兜のせいでバランス悪いアクションが展開されたからだと思う(苦笑)。
 さて、リーダーと言うより族長としての彼はまずまず可も不可もなくであろう。如何せん僅か5話の出演でしかないので、見えるものが少な過ぎると言わざるを得ない。ユキオオカミや原始タイガーも個性が強く、半ば独立した行動をとっている。
 そこで最初のドクロイノシシとキバ男爵で推測するとキバ男爵は改造人間にとって精神的な拠り所と見える。危機に陥ったドクロイノシシは自身を鼓舞してきたドーブーの太鼓の音が聞こえなくなったことに動揺し、キバ男爵に太鼓の音を求めていたことから覗える。
 キバ一族の母なる魔女スミロドーンを三人ライダーに倒されたキバ男爵はドーブーの祭壇を破壊し、最後の攻撃に出た。日本政府の要人を誘拐して脳改造を施し、デストロンに都合の良い政策を取らせようという、キバ男爵らしからぬ政治的な作戦に出たが、例によってV3に邪魔され、吸血マンモスもV3回転三段キックに倒れた。
 ここで初めて吸血マンモスがキバ男爵の正体である事が明らかになる。瀕死のキバ男爵は「キバ一族終に滅ぶ。キバ一族の名誉もここに…。」といって爆死した。
 キバ男爵を演じるは東映悪役一筋の故郷B治氏。主に時代劇の悪役として活躍していた。実兄宍戸錠氏、細君ちあきなおみ女史ほどに著名とは言い難いが、兄に比べて精悍な顔つきと鋭い眼光は悪役の素養申し分無しである。
 残念ながら既に故人で1992年9月11日肺癌で逝去。享年55歳。俳優としての郷氏は有名ならずとも、夫としての郷氏はちあき女史の深い愛が随所に見られる。
 郷氏の逝去以来ちあき女史は歌手活動を完全に停止し、今尚一日も欠かさず郷氏の墓参りをしていると言われている(情報源:道場主の父)。ちあき女史の復活を望む中年諸氏は女史が一日も早く最愛の夫・郷治の死の悲しみから立ち直ることを望んでいるというから、これほど妻に愛されるとは夫冥利に尽きるといえよう。

  

3.ツバサ大僧正(富士乃幸夫)

 デストロン日本支部三代目幹部としてチベットより赴任、率いる結託部族はツバサ一族である。キバ一族同様、名前の通りにツバサを持つ改造人間と戦闘員で構成されている。また、ツバサ一族は卍教という宗教集団でもあるのだが、その教義はドーブー教動揺全く不明である。
 さて、このツバサ大僧正であるが、他の三人のデストロン幹部に比べてかなり見劣りする。たった五話しか出番がなかったのはキバ男爵も同様なのだが、どうもぱっとしないと言うか見せ場がない。配下の改造人間も火炎コンドル(コンドル)はともかく、木霊ムササビ(ムササビ)、バショウガン(植物)、ドクガーラ(毒蛾)と厳密には翼を持たない連中がいるのである。得に植物であるバショウガンについては何と言って言いかわからない。設定のいい加減さも無視できない。
 が、しかしツバサ一族が弱かったかと言うとそんなことはない。一番手の火炎コンドルからしてV3を苦しめ、最後の死人蝙蝠までV3は苦戦のしっぱなしだった。単にできが良い、と言うわけではない。空を飛べると言う有利点を発揮してのことだから戦い方をちゃんと心得ていると言える。これがツバサ大僧正の指揮に依存するものであるなら大幹部としての彼に見るべきもの有り、と言えるが詳細は不明である。
 V3もすっかり弱気になったこともあり、その体たらくに藤兵衛がキレたほどだ。それほどツバサ軍団はV3を苦しめた。まぁ、それがためにツバサ大僧正の見せ場を奪っているとも言える。
 リーダーとしての彼は何を書いていいのか困るほどこれと言ったものがない。が、首領との絡みを見るとどうも信頼されていたとは言いがたい。最後の出番となった第40話でははっきりと「今度失敗すれば死だ。」と断言され、その背後には既に後任のヨロイ元帥が控えていた。どうやら首領は半ば以上ツバサ大僧正に期待していなかった様である。
 それでも最後にツバサ大僧正は死人コウモリに変身してV3を苦しめた。前述のV3が弱気になった話はこの死人コウモリとの戦いによるものである。
 結局猛特訓を遂げてカムバックしたV3のV3マッハキックに敗れた。のた打ち回りながらツバサ大僧正に戻り、その正体を顕わにすると「死が来た…。」と呟いていつのまにか用意した棺桶に身を横たえると「デストロン首領…永遠に栄えあれ…。」と言って爆死した。
 ツバサ大僧正を演じたのは通常の俳優ではなく、仮面ライダーシリーズの殺陣やスタントを演じた大野剣友会の一員の故富士乃幸夫氏である。仮面をつけ、ローブを纏ったツバサ大僧正の姿からは富士乃氏の素顔は掴み難いが、大野剣誘拐の一員として彼は「仮面ライダー」から「仮面ライダーストロンガー」まで戦闘員や端役とし関わっており、本郷猛を病院に運んだり、城茂の改造手術を執刀したり、こそ泥をしようとしてマシーン大元帥に殺されたりしている。
 体格のがっしりした強面の人物である。だみ声と言い悪役として立派に通用する人物と見え、出きれば翼シリーズを後数本見たかったものである。断っておくが、シルバータイタンはツバサ大僧正を活かし切れなかった意味においてツバサシリーズを酷評しているが、一つ一つのストーリーとしては誉めている。ツバサ大僧正をもっと活かしたストーリーなら尚良かったと言いたいのである。

4.ヨロイ元帥(中村文弥)

 デストロン日本支部四代目幹部にして最後の大幹部である。率いる結託部族はヨロイ一族、勿論最後の結託部族である。同じ結託部族でも前任の二人の幹部に比べて存在感がかなり強い。それは取りも直さず、彼が仮面ライダー4号・ライダーマンを生むきっかけを作ったからと言える。
 ヨロイ元帥―設定によると征服者として名高いジンギスカンの血を引く残忍な幹部とのことである。名前の通り赤褐色の鎧で身を固めた彼はモーニングスターを右手に嵌め(鎖で振り回すことも可能)、改造人間、戦闘員を威圧している。
 その性格は残忍を通り越して陰湿である。少しストーリーを追いながら彼のリーダーぶり及び性格を見てみたい。
 ヨロイ元帥は同じ結託部族でも族長色は強くなく、従来のデストロンと言う組織内での幹部としての色合いが濃い。最高幹部会議の議長も務めており、その決定は首領でも無碍に覆せないと言うからかなりの権力を有している。科学者グループのトップ・結城丈二の処刑を決定したのもその会議である。
 また彼の信条は「結果が全て。」であり、当然の事ながら部下にも厳しい。また一個人としての彼はかなり猜疑心が強く、謀略を好む性格である。結城丈二に濡れ衣を着せて処刑せんとしたのはその幹部としての地位を奪われることを警戒しての物であるが、当の結城には全くその意志がなかったのだから、猜疑心の強さが明白と言うものである。
 とにかく彼には自分の身の上が第一なのである。首領に対しても裏切ったり逆らったりしないものの、心底から敬意を払っている様子はない。
 結城を処刑しようとした方法が彼を逆さ吊りにして硫酸のプールに沈めようとしたものであるのは有名な話である。部下の科学者達の妨害で結城は救出されたが、結城は右腕を失い、ライダーマンとなったのは周知のことである。
 勿論ヨロイ元帥は結城丈二抹殺に躍起になるが、単に殺すことだけを考えるわけではないのが彼らしいところである。デストロン首領への恩義を捨て切れず,すぐにはV3と打ち解けられなかった彼を利用してV3と戦わせたり、変装の名手・シーラカンスキッドを結城丈二に変装させ、V3に対する裏切りを演じさせたり、尚且つ自分達のテロを結城のせいにしようとしたり、誠に陰湿極まりなく、見ていて腹立たしい、理想的な悪役である(←誉めているのだ)。
 謀略を好むヨロイ元帥だが、決して膂力において劣っているわけではない。正面切っての白兵戦でもライダーマンに負けたことはない(自慢になるわけではないが…)。謀略に長けているため頭が悪いわけでもない。本当に理想的な悪役である(←くどいが誉めているのである)。
 第51話においてプルトンロケットで東京全滅を図ったデストロン、その実験を目撃した城南大学山岳部のパーティーのリーダー西岡保(打田康比古)はライダーマンの妨害で取り逃がしたものの、調査に来た風見志郎は部下の偽医者を使って捕えることに成功する。
 が、偽医者は東京にいる自分の妻子の身を案じて風見を逃がした。ヨロイ元帥がこれを処刑したのはまあ悪の幹部として当然の行動としても、これを晒し者にし、不憫に思って葬ってやろうと風見と結城が近付いたところに爆薬を仕掛けておくのだから恐れ入る。結果、抹殺には失敗したものの風見と結城は分断され、結城は単身アジトに潜入し、デストロンの悪を確信し、ライダーマンに変身してプルトンロケットに乗り込むと東京を守るためロケットと運命を共にし、大空に消えた。
 またも作戦に失敗したヨロイ元帥は最後の大攻勢に出るべくV3を罠に嵌めると少年ライダー隊に襲撃をかけ、彼等を海岸で逆さ吊りにし、満潮を利用して溺死させようとしたのだから念のいった事である。
 結局最後の作戦もV3の妨害にあい、ザリガーナに変身して戦うも散々にぶちのめされ、V3フル回転キックを受け、重傷を負った。ここでヨロイ元帥の姿に戻ったるも死ななかったのは流石だが、彼はこの後信じられない行動に出る。
 重傷の身で逃げるのは良いのだが、当然V3は追走する。追われていることを百も承知で彼が駆け込んだのは首領のアジト……阿呆である。そして彼が言ったのは「首領…私を見捨てないでくれぇ…お願いだ首領…。」 ………俺が首領でも彼は処刑しただろう。
 当然の様に「未練者め!!御前に用はない!!」と言って首領はヨロイ元帥を爆殺した。情けない悲鳴がヨロイ元帥最後の声である。
 総括するとヨロイ元帥は大幹部失格と言わざるを得ない。否、大幹部のみならず組織の一員としても失格であろう。性格が悪いことや陰湿なのが問題なのではない。保身に走るのも人間誰しも我が身がかわいいことを考えればそれ自体が悪いと一概には言えない。
 が、それがために新たなる敵を作り、その始末を出来ない様では最悪と言うものである。
 仮面ライダーの悪の幹部達の中でもっとも外道な奴は?と問われて、迷うことなくヨロイ元帥の名を出す人は多いだろうし、シルバータイタンも同感である。ヨロイ元帥を演じたのは富士乃幸夫氏同様、大野剣友会の一員・中村文弥氏である。彼抜きに仮面ライダーを語れないほどマスカーワールドの深く関わった人物である。
「仮面ライダー」の第1話から既に素顔で登場しているし、マニアの間では2号ライダーアクションで有名である。ライダーアクションでは仮面ライダー1号からスーパー1まで演じた大野剣友会の中屋敷鉄也氏が有名だが、2号のみは中村氏の独壇場だった。
 中村氏はそれ以外にも十面鬼ゴルゴス(後述)の顔の一つを担当したり、デルザー軍団岩石大首領の中に入ったりと後々の幹部にも関わり、ガランダーの黒ジューシャや落武者の亡霊役をこなしたりもしている。作品の演技に対する貢献度は計り知れない。
 幼くして母親に死なれ、苦労した若き日の努力によるところも大きいと思われる。とまれ、先のツバサ大僧正と言い、スタントマンがそのまま大幹部を演じた先駆けが非常に興味深いのは明らかであり、製作陣の配役は正解したと言えるであろう。誠に残念ながら平成13年1月17日悪性リンパ腫のために逝去。享年55歳。早過ぎる死を悼む声の多さは書くまでもない。ただ御冥福をお祈りするのみである。 

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平成二一(2009)年一一月一六日 最終更新