ドグマ王国 将軍と側近

 絶対者・帝王テラーマクロの下、一王国として闇に潜み、独自の法(いっちょ前に裁判まで行っている、無茶苦茶だが)と掟の下、光の世界に侵略の手を伸ばす邪教集団である。
 王国と名乗っているにしては小さな組織だが、テラーマクロの王権は凄まじく強く、「ハイルヒトラー」の如く、ことあるごとに「テラーマクロ」の名が組織の構成員によって叫ばれる。怪人達はたった一人の例外を除いて全員が今際の際に「テラーマクロ」と叫んだ(平の怪人が死に際して首領を賛美したのはガランダー帝国のハチ獣人ぐらいである)。
 言い換えれば軍事組織だろうか?親衛隊、将軍、三等兵、と軍事的呼称が多い。そんなドグマは制度としてはともかく、内容的には縦社会である。帝王テラーマクロと将軍メガールの中はお世辞にも良いとはいえない。そこにこの組織の幹部を見る面白さがある。

1.メガール将軍(三木敏彦)

 恐らく悪の組織の大幹部の中ではライダー史上において1、2を争う可哀相な男である。本来なら彼は仮面ライダースーパー1・沖一也に先駆けて惑星開発用改造人間として宇宙開発の第1人者となるはずだったのだから…。
 このメガール将軍ほど経歴がはっきりしている人物はゴルゴムのシャドームーンぐらいである。彼の本名は奥沢真人。国際宇宙開発研究所の若き成年科学者だった。
 池上妙子という婚約者もいて、前途洋々の青年だったが、惑星開発用改造人間に志願したことが全ての悪夢の始まりだった。
 改造技術の未熟から失敗した彼は絶望感に死を望むほどに打ちひしがれた。研究所から姿を消した彼はその絶望に付けこまれるようにドグマに身を投じ、帝王テラーマクロを命の恩人とも仰ぎ、人間への復讐に燃える。
 酷な言い方をすると絶望に負けて人類に逆恨みした惰弱な人間とも言えなくないが、良心を捨てきっていないところに彼の悲惨さがある。その説明はしばし待って欲しい。
 ドグマの将軍となったメガールは帝王の権威をかさに着て作戦の進行にネチネチとケチを付ける親衛隊と反目しつつもテラーマクロの忠実な僕として改造人間達を率いてドグマの為に優秀な人間のみによるユートピア建設を信じて数々の悪事に手を染める。
 人間への不信や親衛隊との確執からか彼は用心深い性格の様で、影武者も何人か持っており、ゾルベゲール博士(ドグマが蘇生させた元ナチスのマッドサイエンティスト)の裏切りと暗殺をかわし、彼を処刑したこともあった。
 用心深さは作戦指揮にも表れており、スーパー1を討ち取ったと有頂天になるカメレキングに死体の確認を問い、怠ったことを叱責していたし、スーパー1と同等の力を持つバチンガルにスーパー1のファイブハンドを奪う命令をした時はファイブハンドの全てを奪うように念を押している(レーダーハンドとスーパーハンドを甘く見て奪わなかったバチンガルはレーダーハンドのロケット砲機能の前に敗れた)。用心深さや戦略着眼点など彼には組織の幹部として参考になるところが多い。
 くどいがメガール将軍の最期は悲劇である。行方不明になった奥沢真人をまだ慕っていた婚約者の池上妙子は奥沢と同じ宇宙開発研究所の人間なら手がかりを知っているかもしれないと考えて沖一也を訪ねて来た。一也は彼のことを知らなかったが妙子に協力して奥沢真人の悲劇を知る。
 そのときメガール将軍は自らスーパー1と戦うことをドグマの神・カイザーグロウに誓っていた。ドグマの怪人墓場で死神バッファローに変身したメガールと戦うスーパー1は妙子に渡されたロケットの中の奥沢の写真や惑星開発改造人間である彼を妬み怒るメガールの敵意から彼こそが奥沢真人ではないかと考える。
 そして戦いの中でメガールの懐から妙子と同じロケットがフォスターの「夢路より」のメロディーと共に零れ落ちた。そこへ谷や草波ハルミ(田中由美子)と共に妙子が駆けつけ、彼女を目の当たりにしたメガールは自分が奥沢であることを認めた。
 妙子が行方不明となってからも彼を愛しつづけたことを訴えるハルミ、技術の進歩から自らの体を証拠に再改造が可能であることを訴えるスーパー1、人生のやり直しを説く谷にメガールは善の心を取り戻しかけた。彼は人間の心を失っていなかったのだ!これまた他の悪の大幹部には見られないことである(少なくともそうだとわかる演出は)。
 だが、ドグマ怪人の頭脳に埋め込まれている服従カプセルはメガールにも例外ではなく、テラーマクロの鳴らす鈴に心かき乱されたメガールは死神バッファローに変身してスーパー1に突っかかり、それを止めようとした妙子に体当たりを食らわし、死に至らしめた……。
 もはや人間の心を失ったか!?とばかりに怒りのスーパー1はスーパーライダー閃光キックで死神バッファローを打ち倒した。「ドグマよ、永遠なれ!!」の叫びをあげてメガール将軍は奥沢真人の姿と死神バッファローの姿を交互にブラウン管の前に見せて爆死した。
 しかし彼が残したロケットには妙子の写真とドグマのアジトを記した地図を見つけたスーパー1はメガール将軍がドグマに身を投じつつも心の奥底で妙子を愛し続けていた彼の悲劇を悲しみ、そんな彼を悪の手先としたテラーマクロへの怒りを新たにし、二人の無念に報いる為にもテラーマクロを討ち果たすことを誓ったのだった。
 悲劇のメガール将軍を演じたのは三木敏彦氏。「はぐれ刑事純情派」と「葵−徳川三代」に出演していたのをシルバータイタンは見たことがあるが、目立つ役ではなかった。
 厳つい面構えの中にどこか寂しさを漂わせる彼の演技は悲劇を演ずるのにうってつけと言える。全くの余談だが、彼は1940年1月17日の生まれで、彼が還暦を向かえた2001年1月17日にヨロイ元帥を演じた中村文弥氏がこの世を去ったのは何かの縁を感じる。
 勿論偶然に対して勝手にシルバータイタンが思いを馳せているだけ、といわれれば返す言葉はないが。

2.親衛隊(河原崎洋夫他)

 帝王テラーマクロの護衛を務める近衛兵である。はっきり言って嫌な奴等である。絶対者テラーマクロの側近くにいる誇りからか、将軍位にあるメガールにも極めて不遜である。
 双方の会話からはメガールの方が上位のようで親衛隊の要請を将軍が平然と無視する一方で、親衛隊がメガールに暴論を吐いたり呼び捨てにすることはない(面と向かっては)。
 だがメガールの事は本当に嫌いだったようで、彼の作戦進行に散々ケチを付け、彼が婚約者との思い出に良心を取り戻しかけたときは即座に裏切ったと決め付けて、メガールを討つ、とテラーマクロに進言した。それを止めたテラーマクロの方がまだ人を信用することを知っていると言える。
 自分達のミスでカニガンニーが服従カプセルを埋めこまれず暴走したときは面子にかけてカニガンニーを捕えてカプセルを埋めこんだが、そこをスーパー1に攻撃され、、「責任は果たしたぞ!」と言って後は知らん、と言わんばかりの態度をとった。
 とかく大きな権威の側にいる人間はこういう態度に陥りやすい例としてこの親衛隊には注目したい。「君側の奸」ならずとも、組織に仇なさずとも、虎の威を借る狐は多いものである。
 親衛隊はスーパー1とドグマの最終決戦において赤少松林拳一派との戦いの中で沖一也に一斉に弓矢を放ち、それを庇おうとした弁慶(西山健司)を討ち取ったが、直後に彼等の師・玄海老師(幸田宗丸)に全員叩きのめされた。
 彼等は大野剣友会のスーツアクター達が演じたと思われる。リーダー格の一人しか殆ど喋らなかったが、その声は紛れもなく河原崎洋夫氏である。彼は直後にジンドグマの鬼火指令を演じているのでそちらを参照して頂きたい。

3.帝王テラーマクロ(汐路章)

 ドグマ王国の帝王で法衣っぽい衣装に身を包み、玉座に腰をかけ、メガール戦死まで殆どそこを動くことはなかった。絶対者として振るまい、幹部ではなく完全な首領である。
 出す指令も単純なものであり、後はそれに許す・許さないがあるのみである。逆に配下の方が美術品や宝刀を献上したり、暗号でもって報告したり、と必然的に多弁になっていた。幹部という存在を考える場合、彼との兼ね合いを同時に見ると参考になるところが大きいだろう。
 最終決戦において彼はドグマの神・カイザーグロウの像から出る液体を全身に浴び、自らがカイザーグロウとして不死身の肉体を作った(どこかで聞いたような話だ)。このとき一羽のカラスが飛んで来て彼の肩に止まった。カラスはドグマにとってシンボルともいえる鳥で、縁起物として肩に留めていた為にそこだけ不死身にならなかった(やはりどこかで聞いたような話である)。
 その為不死身の肉体を誇示してスーパー1を追い詰めたが、玄海老師に右肩が不死身でないことを見破られる。玄海には勝利したものの、怒りのスーパー1のエレキ光線を右肩に食らって怯んだところを(カラスは肝心なところで逃げた)スーパーライダー月面キックを食らい、「ドグマは永遠なり!!」と叫んで爆死した。首領である自分が死んで永遠もへったくれもないと思うのだが…。ちなみにカラスはジンドグマの悪魔元帥(加地健太郎)が放ったもので、それゆえ肝心なところで逃亡したのである。
 帝王テラーマクロを演じたのは故汐路章氏。時代劇で何度もゴロツキの親玉役をやっていた(勿論助さん格さんや岡っ引き達にコテンパンにやられる役である)。
 時代劇では殊更金切り声を上げるヒステリックな親分役の彼がテラーマクロで落ち着いた大物役をやっているのはそのギャップに驚かされるものがある。さすが年の功と言おうか悪役と言っても様々にこなすものだと感心させられる。残念ながら1994年10月29日、肝不全で病没。享年66歳。
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