仮面ライダーXの必殺技
指定必殺技:Xキック
仮面ライダーXとXキック
仮面ライダーシリーズ3作目となる『仮面ライダーX』は―蘇生の為とは言え―善人(父親)の手で善人の研究による改造手術を受けたり、武器(ライドル)を持ったり(←ライダーマンのカセットアームは腕の延長とさせて頂きます)、敵組織もそれまでの組織と(表向きは)無関係だったり、恋人に裏切られたり、巨大幹部が登場したり、と様々な試みが為されている。
実際、仮面ライダーXへの改造技術とは、本来、深海開発用改造人間、カイゾーグとなる為のもので、その目的ゆえか、それまでの先輩ライダーと比べてもメカニカル色を匂わせる外観・設定・スペックが多い。
そういった部分に番組における派手さが振られたせいか、Xキックは技としては地味で、他のライダーに比してもキック技のバリエーションも少ない。
まあ、ライドルスティックを鉄棒代わりにして、大車輪で加速させ、空中で「Xライダー」の名乗りの如く「X」の体勢を執る助走段階は派手だが、後述するように『仮面ライダーX』の前半は殆どがXキックで勝負が決まる為、毎回毎回そればかり見ていると、「誰が空中のライドルスティックを固定しているんだよ?!」、「大車輪やっている間に逃げろよ、GOD神話怪人!!」といったツッコミを入れたくなる(笑)。
ともあれ、仮面ライダーXが立花藤兵衛(小林昭二)と出会うまでそれまでのマスカーワールドとの繋がりを感じさせなかった『仮面ライダーX』において、Xキックは、亡き父・神敬太郎(田崎潤)の命名、愛車クルーザーと共に、Xライダーを仮面ライダーの一人として世に位置付けた役割は大きく、番組後半の決め技を占めた真空地獄車にしても、最後の最後はXキックがとどめを刺していたことからも、Xキックがこの番組を語る上で欠かすことの出来ない重要なファクターであることだけは否定のしようがない(否定する気もないし)。
それでは例によって、戦績と共にXキックについて考察したい。
考察1 Xキックの戦績
では、例によって、下表を参考にXキック及び他の技の戦績を見てみたい。
登場怪人 死因 ネプチューン Xキック パニック クルーザーアタック ヘラクレス Xキック メデューサ Xキック キクロプス Xキック ミノタウロス Xキック イカルス Xキック 鉄腕アトラス Xキック マッハアキレス アポロショット プロメテス Xキック ヒュドラー Xキック キマイラ Xキック ユリシーズ Xキック アポロガイスト 自爆 死神クロノス Xキック ケルベロス ライドルロングポール アルセイデス ライドル脳天割り キャッティウス Xキック オカルトス Xキック サラマンドラ Xキック 再生アポロガイスト Xキック ジンギスカンコンドル Xキック ガマゴエモン Xキック サソリジェロニモ Xキック カプト虫ルパン Xキック ヒトデヒットラー Xキック クモナポレオン 真空地獄車 カメレオンファントマ 真空地獄車 ヒルドラキュラ 真空地獄車 トカゲバイキング 真空地獄車 アリカポネ 真空地獄車 ムカデヨウキヒ 真空地獄車 タイガーネロ 真空地獄車 サソリジェロニモJr. ライドルホイップ キングダーク ライドルホイップ ライダーXとの戦闘率 100.00% 決着率 97.14% Xキックによる必殺率 61.76%
第28話でマーキュリー回路内蔵手術を受ける前は「Xキック以外に技は無いのか?」と言いたくなり、術後は、「真空地獄車しかないのか?」と言いたくなる戦績である(苦笑)。
勿論、パニックを倒したクルーザーアタック、ケルベロスを倒したライドルロングポール、アルセイデスを倒したライドル脳天割り、最後の最後にサソリジェロニモJr.と呪博士に留めを差したライドルホイップの存在を無視している訳ではない。
だが、別の言い方をすれば、上記3行で紹介し切れる程、Xキック・真空地獄車以外の技の出番は少ないのである。
上の表にあるように、Xキックは全勝負の内、61.76%の勝敗を決め、第28話以前では82.35%、もし、技の最後にXキックが放たれていることを考慮して真空地獄車による決着をXキックによる決着として数えるなら、Xキックによる決着率は84.00%という驚異的な占有率に及ぶ。
ここまでくると、Xライダーの技のレパートリーの少なさより、たった一つの技にロクに対策し切れなかったGODの情けなさの方が際立ってしまう(笑)。
さて、上記の表以外にXキックの戦績を語るなら、『仮面ライダー(スカイライダー)』客演時にはネオショッカーのトリカブトロンを単独で倒し、特番『10号誕生!仮面ライダー―全員集合』ではバダンのタカロイドを倒している。
知名度は高くても単発で終わった技を次々と紙面に復活させて旧来のファンを喜ばせた『仮面ライダーSPIRITS』さえ、最初に(疑似キングダークの体内にいる)バラロイドを倒したのもXキックだった(後々になれば真空地獄車やライドル脳天割りも出て来た)。
好意的に見るなら、Xキックはそれ程、仮面ライダーXのアイデンティティ確立に貢献したと言えるし、悪意的に見るなら、それまでの番組程には多彩な技を持つヒーローとしての仮面ライダーXを確立できなかったとも言える。
勿論これには制作サイドが何を重視したか?という問題があるので、安直には語れないが、このサイトを見ている皆様方の想いはどうだろうか?
考察2 ライドルの役割
仮面ライダーXのアイデンティティの一つであるライドル。細剣状のライドルホイップ、棒状のライドルスティック、縄状のライドルロープ、竿状のライドルロングポールの四つの形態に変形し、体術やベルトと連動させることで、投擲・電撃・捕縛も可能な万能武器である。
だが、このライドルがGOD怪人を倒した例は僅かに3例に過ぎない。
一例目は5万ボルトの電流を体表面に流して相手の接触さえ許さない難敵・ケルベロスをライドルロングポールで川中に投げ飛ばしてショートさせて爆殺したもの。二例目は空中からライドルスティックを大きく振りかぶってアルセイデスの脳天をかち割ったライドル脳天割り(再生プロメテスも倒している)。3例目は最終回でサソリジェロニモJr.と呪博士をまとめて刺殺してGODを滅ぼしたライドルホイップである(再生ユリシーズを刺突から電流を流し感電死させた例もある)。
それぞれのシーンがライドルのスペックを活かした名シーンだけに使用例が少ないのが非常に惜しまれる。
戦績やXライダーの戦いぶりを見ると、ライドルは明らかに補助技として使われていた。それを証明するように第28話でマーキュリー回路が内蔵されてからはライドルはベルトから抜かれることなく、最後の最後に登場したのみだった。また、『仮面ライダーストロンガー』客演時にはライドルスティックのみが使用され、最終決戦では抜かれもしなかった。
ライドルそのものがそんな少ない出番故にライドルロープ、ライドルロングポールは現役以後、出番さえ見られない。
些か残念ではあるが、シルバータイタンはライドルの補助としての役割は称賛こそすれ、決して非難はしない。
それは仮面ライダーの伝統にある、「とどめは自らの肉体で」という勝負の原則にあるのではないか?とシルバータイタンは見ている。
今でこそ、仮面ライダーが武器を振るうのは珍しくもなんともない(飛び道具さえ珍しくなくなっている)し、初代の仮面ライダー1号にしてもサイクロン号で怪人を撥ね殺した例もある。しかし、原則として第1期のライダー達は補助的に使う小道具や、体内に内蔵された装置を除けば、普通の人間に持たせても充分な殺傷能力を持つと思われる武器を振るった例は少ないし、改造人間に留めを指す際には自らの肉体を駆使した体術でもってした例が圧倒的である。
それはやはり改造人間の悲しみが根幹にあるのだろう。
昭和ライダーは自らが改造人間となり、生身の人間で亡くなったことを後悔こそせずとも、多かれ少なかれ哀しんだ。強力になっていく敵組織の改造人間に対抗する為に特訓を積んだり、再改造を施したりした際も、生身の人間からますます遠ざかっていくという悲しみが伴ったことだろう。
それゆえに仮面ライダーは自らの肉体で止めを刺すことにこだわった。
敵組織の改造人間の中には脳改造まで施された為に改造人間としての自己に疑問を抱かなくなったものも多かったが、中には身体能力や性悪な性分を見込まれて改造人間にされたものの、改造前に泣き叫んで拒絶の意を示した者も少なくない。
原作でも仮面ライダー1号は蝙蝠男の骸を前に、「この男もショッカーの犠牲者。」と述懐する1コマがあり、武器ではなく、体術で止めを刺したスタイルは、せめて肉弾攻撃で人間らしく葬ることで自分と同じく人間の肉体を失った相手に対する、我が手にかけざるを得なくなった相手に対する最後の礼儀を払っているとも言える。
ライドルは万能武器故に、相手を人間として葬るには相応しくなかったのかも知れない。もっとも、決まり技としての座を譲ったからと言って、ライドルの魅力は些かも色褪せはしないが。
考察3 何故にこうも極端か?
前述したように、『仮面ライダーX』は、殆どの決着が第28話まではXキックによって、第28話以降は真空地獄車によって付けられている(第28話以降の真空地獄車の決着率は改造人間の数で77.78%、決着のついた勝負数では87.50%)。
当時の視聴者の中にも、後年再放送やビデオやDVDで観た世代にも、「いつも同じ技ばかりでつまんない!」との想いを抱いた人も少なくないだろう。
一応、第2話で早くもクルーザーアタックをとどめ技に駆使したり、第10話で猛特訓によって編み出された X二段キックがアキレスを戦闘不能に追い込んだり、ケルベロス・アルセイデス・再生プロメテス・再生ユリシーズはライドルで倒されている。
決してXキックだけを技として考えていた訳ではないのは容易に推察出来る。
にも関わらず、結果として決着の多くはXキック・真空地獄車で付けられ、マニアの域に達していない人には、この2つの技しかわからない人も多かろう。
ライドル一つをとっても四つの形態が考案・駆使され、役者のイメージからも多彩な技を駆使してもおかしくないXライダーが何故に―取り分けとどめに関しては―僅かな技の披露に留まったのか?
それはストーリー性の重視にある、とシルバータイタンは見る。
『仮面ライダーX』は前述したように、初っ端では前二作と同じ世界かどうかも分からないスタートを切り、それを皮切りに数々の試みが為された。
実の父による改造手術、婚約者の裏切り(←厳密には違うが)、ギリシャ神話をモチーフにした敵怪人、直接指揮を執らず秘密警察第一室長の名で立ちはだかる好敵手、見上げる程の体躯を持った巨大幹部、歴史上の人物をモチーフにした敵怪人、強力な武器の設計図奪取を巡るせめぎ合い、と数え上げれば切りがない。
勿論、これらを考案し、ブラウン管上に送り続けた制作陣の労苦たるや並大抵のものではなかっただろう。ましてこれらのストーリー性を盛り上げる為には他の要因が目立たない存在としての犠牲を払わなければならないのは必然である。
レンタルビデオで初めて視聴した際に道場主が、同番組の決まり技が殆ど毎回同じ事に物足りなさを感じたのは否定できないが、制作陣は敢えて決まり技ではなく、ストーリー性の重視から後々の番組にまで多様性を持たせる基を作ったと信じたいものである。
総論 つい最近、非常に不愉快な書籍を見つけた(勿論、コンビニエンスストアには申し訳ないが、立ち読みで済ませ、購入していない)。
誹謗中傷になってはいけないのでタイトルや作者名は明かさないが、書籍の内容は特撮番組の裏事情やスキャンダルを綴ったもので、誌面にて仮面ライダーシリーズを呪われたシリーズとしていた。
つまり、藤岡弘、氏が大怪我を負ったり、佐々木剛氏が全身火傷にあったり、山口豪久氏が夭折したり、といった不幸と遭遇した人が多いこと指して、「呪われている」とほざいているのだが、その中で、『仮面ライダーX』と神敬介を演じた速水亮氏を指して、「数々のテコ入れにも関わらず全35話で打ち切りとなり、仮面ライダーシリーズに土をつけた男と言われることとなった」と記述し、同情しているようにも見えるが、暗に『仮面ライダーX』と神敬介を馬鹿にしているようにも見える。
こいつら全然分かっていない。
後作の『仮面ライダーアマゾン』もかつては「TV局の腸捻転」により僅か24話で終了したことを「不人気による打ち切り」と誤解されたことがあったが、そもそも不人気によって終わったのであれば次のシリーズは生まれやしない。
確かに『仮面ライダーストロンガー』のように、全52話の予定が39話に短縮された例もある(原因は不明)が、『仮面ライダーアマゾン』が全24話であることは上層部では最初から決まっていたことだし、『仮面ライダーX』にしてもアポロガイスト(打田康比古)の人気が予想外に高かった為に次の幹部に設定されていたブラックマルスなる大幹部キャラクターの登場が見送られたりしたように、番組の人気は高く、後世の評価を見ても、数々のテコ入れは成功と言えれど、失敗と言えるものではない、と思っている。
また、『ウルトラマンレオ』の様に、放映当時の人気は低くても後から高い評価を得る作品も少なくない。故にシルバータイタンは、TV局の上層部が、『仮面ライダーアマゾン』をいくらなんでも半年に満たない放映期間にしない為、24話分の話数を確保する為に、敢えて『仮面ライダーX』を第35話で終わらせたのではないか?と見ている。
35話という話数は決して多いとは言えないが、最高視聴率が40%を超えた化け物番組『ウルトラマン』が全39話だったことを考えれば、単純に話数を持って、人気・不人気を語るのは全くナンセンスだろう。
殆ど必殺技と関係ない総論になってしまったが、Xキックは数々の新たな試みが為された『仮面ライダーX』におけるアクションの盛り上げを担い、仮面ライダーシリーズの偉大なる先駆けと、後世の発展の橋渡しを務めた、仮面ライダーXの代表的必殺技として長く記憶に留めたいものである。
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平成二一(2009)年一〇月二一日 最終更新