仮面ライダースーパー1の必殺技

指定必殺技:スーパーライダー月面キック


仮面ライダースーパー1とスーパーライダー月面キック
 正直、必殺技の印象がすっかりファイブ・ハンドに食われてしまっている仮面ライダーである。この作品を制作する為に調べてみるまで、仮面ライダースーパー1が勝負に決着をつけた技ではスーパーライダー月面キックスーパーライダー閃光キックではどっちが数多くの敵を屠っているか把握してなかった。

 正直、自問自答せずにはいられなかった。『仮面ライダー(スカイライダー)』『仮面ライダースーパー1』とはリアルタイムで見る初めての仮面ライダーシリーズに毎週毎週胸を躍らせた番組である。
 実際、大学生時代にレンタルしたビデオを観た際にも、過去に確かに観た時の記憶が甦り、『仮面ライダー』『仮面ライダーストロンガー』までのビデオを観る時にはあり得ない感動があった。にもかかわらず、スーパーライダー月面キックスーパーライダー閃光キックの技名をろくに覚えていなかったのである。
 しかしこの疑問に対する答えはあっさり出た。
 早い話、ファイブ・ハンドや赤心少林拳を基本とした修業に目を奪われていたからである。

 しかしながら、放映当時のカンフーブームもあり、当時の子供達は空手・ボクシングよりも少林寺拳法を一段上の格闘技と見ており、ムエタイやテコンドーといった強力な格闘技の存在を知らず、相撲の真の強さを理解するには幼過ぎたこともあて、拳法ライダーのアクションに惜しみない快哉を叫んでいたのも事実である。
 まして、見た目一発にはファイブ・ハンドの方が派手だったとは言え、ファイブ・ハンド自体は繋ぎの技で、それ自体がドグマジンドグマの怪人を倒した例は極めて稀で、殆どすべての決着は仮面ライダーの伝統ともいえるライダーキック、つまりは仮面ライダースーパー1の放つキック技が着けて来たのである。

 歴代仮面ライダーシリーズにおいて、紛れもない決着技でありながら印象の薄い仮面ライダースーパー1の蹴り技とそのステータスについて考察したい。
考察1 スーパーライダー月面キックの功績
 前述したように、仮面ライダースーパー1ドグマジンドグマ怪人との戦いはその殆どすべてが蹴り技によって決着がつけられてきた。
 その中でも全編を通じて多用されたのが、スーパーライダー月面キックスーパーライダー閃光キックでそれ以外の蹴り技は単発登場が多い。
 では例によってまずはそれぞれの決着を下表に手参照して欲しい。

登場怪人死因
ファイアーコングスーパーライダー旋風キック
エレキバススーパーライダー閃光キック
カマキリガンスーパーライダー閃光キック
カメレキングスーパーライダー閃光キック
スパイダーババンスーパーライダー閃光キック
アリギサンダースーパーライダー日輪キック
スネークコブランスーパーライダー月面キック
カニガンニースーパーライダー閃光キック
バクロンガースーパーライダー月面キック
ジョーズワニスーパーライダー閃光キック
ライギョンスーパーライダー旋風キック
ギョストマスーパーライダー梅花二段蹴り
ムカデリヤスーパーライダー月面キック
ライオンサンダースーパーライダー閃光キック
オニメンゴスーパーライダー稲妻落とし
ロンリーウルフスーパーライダー閃光キック
ヤッタラダマススーパーライダー月面キック
カセットゴウモルスーパーライダー月面キック
ツタデンマスーパーライダー月面キック
バチンガルエレキ光線
死神バッファロースーパーライダー閃光キック
カイザーグロウスーパーライダー月面キック
キラーナイブスーパーライダー月面キック
ジシャクゲンスーパーライダー十字回転キック
火焔ウォッチスーパーライダー旋風二段蹴り
グラサンキッドスーパーライダー月面キック
ビデオンスーパーライダー稲妻旋風キック
アマガンサースーパーライダー旋風キック
マッハローラースーパーライダー月面キック
スプレーダースーパーライダー稲妻閃光キック
ツリボットスーパーライダー月面キック
ラジゴーンスーパーライダー旋風キック
レッドレンジャースーパーライダー閃光キック
イスギロチンスーパーライダー月面キック
ハサミンブラッドスーパーライダー月面キック
コマサンダースーパーライダー月面キック
コゴエンベエスーパーライダー閃光キック
フランケンライタースーパーライダー反転3段キック
シャボヌルンスーパーライダー月面キック
キーマンジョースーパーライダー閃光キック
ドクロボールスーパーライダー月面キック
ゴールダースーパーライダー月面キック
ハシゴーンスーパーライダー月面キック
ショオカキングレーダーハンド
オニビビンバスーパーライダー水平線キック
サタンドールスーパーライダー水平線キック
ゴールドゴーストスーパーライダー天空連続蹴り
マジョリンガ稲妻電光剣
サタンスネーク稲妻電光剣
スーパー1との戦闘率100.00%
決着率100.00%
スーパーライダー月面キックによる必殺率36.73%

 スーパーライダー月面キック、またの名をスーパーライダー月面宙返りキックによる決着率36.73%は決して高い方ではないが、もう一つのメインキック技であるスーパーライダー閃光キックを加えれば決着率は65.31%に昇り、総合的な蹴り技による決着率は89.80%に達する。もはや『仮面ライダースーパー1』における戦いの決着はキックによって付けられると言いきっても過言ではないだろう。

 メイン必殺技となるスーパーライダー月面キックはジャンプ1番、両腕で一定の構えを取り、空中にて名前の通り月面宙返りを繰り返して上空からの蹴りを繰り出し、18体の怪人を死に至らしめた。
 闇の王国ドグマの帝王テラーマクロ(汐路章)の正体であるカイザーグロウを葬ったのもこの技である。
 もう一方のメイン技であるスーパーライダー閃光キックは番組初期を始め14体の敵を倒し、有名所ではメガール将軍(三木敏彦)の正体である死神バッファローを直前に殺した恋人の元へ送った。

 ここまで考察すると見えてくるものがある。
 そう、主要所を討ち取った回数が少ないのである。最初の敵ファイアーコングスーパーライダー旋風キックで、初めてスーパー1を破ったギョストマスーパーライダー梅花二段蹴りで、ファイブ・ハンドを奪った難敵・バチンガルエレキ光線で、視聴者公募で生まれたジンドグマ最強クラスのショオカキングレーダーハンドで、鬼火指令(河原崎洋夫)の正体であるジンドグマ超A級怪人・オニビビンバ妖怪王女(吉沢由起)の正体であるジンドグマ超A級怪人・サタンドールスーパーライダー水平線キックが二体同時に、幽霊博士(鈴木和夫)の正体であるジンドグマ超A級怪人・ゴールドゴーストスーパーライダー天空連続蹴りで倒し、最後の敵である魔女参謀(藤堂陽子)の正体、マジョリンガ悪魔元帥(加地健太郎)の正体であるサタンスネークは稲妻電光剣の斬撃で倒している。
 もう少し大物を倒していればスーパーライダー月面キックの存在感は大きかっただろうに。

 スーパーライダー月面キックは多くの怪人を一撃で倒した必殺技である。少なくともこれをまともに食らって生き残った者はいない(ま、それは他のキック技も同様だけれど)。仮面ライダースーパー1の代名詞ともいえるファイブ・ハンド以上の戦果を挙げ続けた。
 一撃必殺のこの技をもっともっと注目するべき場があってもいいのでは?と思うのはシルバータイタンだけではあるまい。


考察2 ファイブ・ハンドの陰に隠れて
 実際の所、仮面ライダースーパー1を代表する能力と言えばファイブ・ハンドだろう。『仮面ライダースーパー1』放映当時、幼き日の道場主は幼馴染と「来週はどのハンドが出てくるのか?」、「パターンから言えば、エレキハンドだろう。」という会話をよくかわしたものである。それだけに形状からレーダーハンドがロケット砲になっていることに気付かず、スーパー1に敗れ去ったバチンガルの間抜けぶりは昨日の事のように覚えている(笑)

 ともあれ、幾多の勝負に決着をつけた筈のスーパーライダー月面キックがその戦果に比して印象が薄いのはファイブ・ハンドの陰に隠れているのは間違いない。そしてそれを証明するかのように、『仮面ライダーZX』『仮面ライダーBlackRX』で客演した際には、冷熱ハンドが登場したものの、スーパーライダー月面キックを初めとする技は出て来なかった。
 『仮面ライダーZX』での阿修羅だにでの最終決戦では1号ライダーライダーキックがバラロイドに炸裂するや、ライダー達の代表的必殺技が次々にバダン怪人達に炸裂し、1号ライダーにとってのライダーキックライダーマンにとってのロープアーム Xライダーにとっての Xキック仮面ライダーストロンガーにとってのエレクトロファイアー(劇中での呼称は「電ショック」だったが…)が代表的必殺技に該当することが分かる。
 そしてその戦いで仮面ライダースーパー1冷熱ハンドより超高温火炎を発してカマキリガンを焼殺していた。やはりスーパー1らしさを出す、ということはファイブ・ハンドを出すということだったのだろうか……。
 カンフーライダーに憧れた身としては拳法アクションが重視されないのは些か寂しくはあるのだが…。

 とは言うものの、シルバータイタンの価値観はアクションに対してはともかく、仮面ライダースーパー1の成立過程を考えれば、ファイブ・ハンドに重きが置かれる方が正しい。
 その昔、『仮面ライダー(スカイライダー)』が終了し、新番組が始まるに当たって、そのタイトルを聞いた時、幼き日の道場主は、「何で9号ライダーなのに今更『スーパー』なんだ?」と疑問に思ったが、元々戦う為ではなく、惑星開発用改造人間となった沖一也(高杉俊价)の変身体は恩師・ヘンリー博士(大月ウルフ)より、「コードネーム、『スーパー』」と呼ばれて納得した。
 そう、スーパー1の改造人間としての能力は戦う為ではなく、惑星開発の為のものであり、ファイブ・ハンドは本来武器ではなく、道具だったのである。

 かつてシルバータイタンは『仮面ライダーSPIRITS』の第15話「流星の神話(前編)」を読んだとき、スーパー1は「惑星開発用改造人間S-1(エスワン)」と呼ばれ、時に巨大貨物を運搬したり、時に工事用電気工具に充電したり、とファイブ・ハンドを活用し、すっかり便利屋さんになっていることに笑いそうになったが、元々こういう目的の為に自らの肉体を改造の為に供した沖一也にとっては本望であり、理想とした平和利用で、笑いかけた自分を恥じた記憶がある。

 正義の味方は悪と戦ってくれる存在ではあり、人智を超えた戦闘能力を持つ存在ではあっても、戦闘マシーンでは決してない。そもそも一也が赤心少林拳の門を叩いたのも、変身の呼吸を身につける為であって、戦闘能力の向上は二の次だった筈である。
 こう考えると、拳法ライダーとしての存在よりも、本来の惑星開発用改造人間としての沖一也の心を重んじるなら、スーパーライダー月面キックファイブ・ハンドの陰に隠れることはむしろ歓迎しなければならない、と言える。


考察3 影の薄い派生技
 多くのドグマジンドグマ怪人を倒してきたスーパーライダー月面キックスーパーライダー閃光キックでさえ、陰の薄い存在となっている。となるとキック技のバリエーションの中でも、単発の登場で終わった技は更にその影を薄くしている。

 技の名前を列挙すると、スーパーライダー旋風キックスーパーライダー日輪キックスーパーライダー梅花二段蹴りスーパーライダー十字回転キックスーパーライダー旋風二段蹴りスーパーライダー稲妻旋風キックスーパーライダー稲妻閃光キックスーパーライダー反転3段キックスーパーライダー水平線キックスーパーライダー天空連続蹴りといった蹴り技があるが、これらの技はスーパーライダー梅花二段蹴りを除いてその名前が挙がることが少ない。
 これは奇妙な話である。『仮面ライダーV3』ではデストロンの幹部達を倒した特殊なキック技は有名である。しかしながらジンドグマの幹部達を倒した筈のスーパーライダー水平線キックスーパーライダー天空連続蹴りはたいした知名度を得ていない。
 何故にスーパー1の他の蹴り技はこうも影が薄いのか?

 考察するに、これはドグマ編とジンドグマ編における赤心少林拳の存在感にある、とシルバータイタンは見ている。
 上記の特別な蹴り業の多くはジンドグマ編に入ってから登場している。特撮マニアの中には同じ番組でありながらドグマ編とジンドグマ編とを丸で別番組を見るような眼で見る人も珍しくない。それぐらい両者の作風・背景は異なる。
 第23話でドグマとの最後の戦いで玄海老師(幸田宗丸)と兄弟子・弁慶(西山健司)が戦死したことで番組から玄海老師主導による修業シーンが消えた。これにより、スーパー1が繰り出す強力必殺技から「血の滲むような特訓によって身につけた技」とのイメージがかなり薄弱化した。
 実際、ジンドグマ編で繰り出された特別な蹴り技は何の脈絡もなく登場しているし、それらのバリエーション技を食らったジンドグマ怪人達が従来の蹴り技を破った訳でもない。それに対してドグマ編ではまだ実戦慣れしていない一也が何度なく危機に陥り、玄海老師や弁慶と共に特訓に挑んでいる。

 事実、直接ドグマ怪人を倒したものではなくても、一也が特訓の果てに見つけた技は、ロンリーウルフの妖刀ドグマンの斬激を防いだ赤心流真剣白刃取りや、スパイダーババンの姦計に落ちて巨大扇風機の待つ奈落に落とされた際に、扇風機の中心に降り立った着地を観た瞬間は昨日の事のように覚えているし、何よりギョストマに敗れた悔しさから草波ハルミ(田中由美子)の心遣いさえ踏み躙る程強さに飢えたのを老師に戒められた中から生まれた梅花の型は『仮面ライダーSPIRITS』でも、メインのキック技とファイブ・ハンドに続いて登場した。
 上記の蹴り技群の中でもスーパーライダー梅花二段蹴りだけが知名度が高いのも頷けるというものである。

 ともあれ、あれだけアクションにこだわったライダーだけに、豊富な技の一つ一つに印象が薄いのは些か残念ではあるが、単純に戦績や破壊力だけが見られている訳ではないのは嬉しくもある。何とも難しい問題だ。


総論 かように考察すると、仮面ライダースーパー1にとって必殺技とは何なのだろう?勿論ヒーローは悪と戦うだけが仕事ではない。直接の描写が会った訳ではないが、仮面ライダースーパー1沖一也ドグマジンドグマとの戦いの中、戦うことに躊躇いなくとも、悲しみがあったことは想像に難くない。

 敵の中にはメガール将軍のような悲劇的な経緯をもって悪に走った者もいれば、脳に埋め込まれた服従カプセルのために歴代悪の組織でも稀な組織への崇拝・忠誠を強いられて者達もいた。そんな者達との殺し合いが心躍る筈がなく、惑星開発に戻る日を夢見て、その為には悪の組織を根絶やしにしなければいけない皮肉とも戦い続けていたスーパー1の苦悩には同情の涙を禁じ得ない。

 また、個人的なことだが、『仮面ライダースーパー1』に対する印象を考えた時、放映時間の変更と、道場主の年齢的背景もあった。
 当時小学生の低学年から中学年に差し掛かろうとしていた道場主は両親より、「いつまでそんな幼稚な番組を見て喜んでいるんだ?」、「そろそろウルトラマンや仮面ライダーは卒業しないさい!」と言われた年頃であった。
 そして当時は一般家庭にビデオデッキが普及するにはまだ早い時代だった。道場主にとって、『仮面ライダースーパー1』の結末は長年謎だった。
 それでもファイブ・ハンドの斬新さ、拳法アクションのカッコ良さ、渋過ぎる脇役達、重厚感溢れる前半のストーリーは記憶の中で全く色褪せなかった。
 仮面ライダースーパー1と言う存在は、武器(ファイブ・ハンド)・格闘術(改造前から優れていたアクロバットもこなす身体能力・赤心少林拳)・装備(二台のマシーン・高性能チェックメカ)に優れていたライダーだからこそ、単純な戦闘マシーンとならないためにも、必殺技にステータスを持たない事を本望としたライダーかも知れない。


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平成二二(2010)年三月二六日 最終更新