ウルトラマンの必殺技

指定必殺技:スペシウム光線


ウルトラマンとスペシウム光線
 20〜50代の方々なら、さほど特撮に詳しくない人でも、両腕を十字に組んで、「シュワッチ!!」と叫べば、それがスペシウム光線か、ウルトラマンの必殺技であるかを察する程、スペシウム光線という技は特撮界に確固たる存在感を保持している。

 意外にも技の名前は地球人がつけたもので、第1話で宇宙怪獣ベムラーを倒した光線を分析した科学特捜隊ムラマツキャップ(小林昭二)はウルトラマンが放つ光線が地球には存在せず、火星に存在するスペシウムという物質を含む光線であることを述べ、それに対してフジ隊員(桜井浩子)が「スペシウム光線」と呼んだのが始まりである。

 ウルトラマンの代表的必殺技となった様に、第1話でベムラーを倒し、第2話では宇宙忍者バルタン星人が露骨に苦手としたことで、地球を襲う怪獣・宇宙人に対する極めて有効な武器との位置づけが為され、同時に様々な形でマニア及び子供達の話題に上り、殊に『ウルトラマン』をリアルタイムで見た世代の多くはこの技に対して、「腕を十字形に左右の手刀を交差させて、右腕に蓄えられたマイナスエネルギー、左腕に蓄えられたプラスエネルギーがスパークさせて発射される。」と語ることが出来る程、当時の子供達の記憶に浸透した。

 また、以後のウルトラ兄弟達のメインウェポンも「○○ウム光線」の名で、スペシウム、エメリウム、メタリウム、ストリウム、サクシウム、といった物質による光線が受け継がれ、スペシウム光線がウルトラ兄弟必殺光線技の先駆けとなったことも見逃せない。
 それゆえにスペシウム光線のウルトラマンシリーズを越えた特撮界随一の存在感は敵を倒すだけではなく、敵を倒せなかった場合でも大きな意義を持ち、第7話、第13話では勝負として殆ど大きな意味を持たないにも関わらず、磁力怪獣アントラー油獣ぺスターに対して、丸でスペシウム光線が一作に一度は登場しなくてはならないお約束の如く無理矢理使用された

 では、具体的にスペシウム光線が作中、どのような存在感を放ってきたかを以下に考察したい。
考察1 スペシウム光線の戦績
 まずは以下の表を参照して頂きたい。

登場した怪獣・宇宙人死因
宇宙怪獣ベムラースペシウム光線
宇宙忍者バルタン星人スペシウム光線
透明怪獣ネロンガスペシウム光線
海底原人ラゴンスペシウム光線
怪奇植物グリーンモンススペシウム光線
海獣ゲスラ触覚もぎ取り
磁力怪獣アントラー青い石投擲
どくろ怪獣レッドキングウルトラ一本背負い
友好珍獣ピグモンレッドキングに殺される
有翼怪獣チャンドラー逃亡
地底怪獣マグラー科特隊に倒される
怪奇植物スフラン科特隊に倒される
ウラン怪獣ガボラ首投げ
エリ巻恐竜ジラースウルトラ霞み切り
脳波怪獣ギャンゴ消失
ミイラ怪獣ドドンゴスペシウム光線
ミイラ怪人ミイラ人間科特隊に倒される
油獣ペスタースペシウム光線
汐吹き怪獣ガマクジラ体当たり
二次元怪獣ガヴァドン宇宙送還
宇宙忍者バルタン星人(二代目)八つ裂き光輪
四次元怪獣ブルトンスペシウム光線
凶悪宇宙人ザラブ星人(にせウルトラマン) スペシウム光線
青色発泡怪獣アボラススペシウム光線
赤色火焔怪獣バニラアボラスに倒される
高原竜ヒドラ消失
毒ガス怪獣ケムラー科特隊に倒される
地底怪獣テレスドンボディースラム
地底人光に耐え切れず悶死
棲星怪獣ジャミラウルトラ水流
深海怪獣グビラスペシウム光線
どくろ怪獣レッドキング(二代目)八つ裂き光輪
冷凍怪獣ギガス科特隊に倒される
彗星怪獣ドラコレッドキングに倒される
古代怪獣ゴモラスペシウム光線
三面怪人ダダスペシウム光線
黄金怪獣ゴルドンスペシウム光線
伝説怪獣ウー消失
吸血植物ケロニアウルトラアタック光線
灼熱怪獣ザンボラースペシウム光線
悪質宇宙人メフィラス星人逃亡
宇宙忍者バルタン星人(三代目)消失
凶悪宇宙人ザラブ星人(二代目)消失
誘拐怪人ケムール人(二代目)消失
メガトン怪獣スカイドン体当たり
亡霊怪獣シーボーズ 宇宙送還
変身怪獣ザラガススペシウム光線
怪獣酋長ジェロニモン科特隊に倒される
友好珍獣ピグモン(再生)再生ドラコに倒される。
彗星怪獣ドラコ(再生)科特隊に倒される
地底怪獣テレスドン科特隊に倒される
光熱怪獣キーラウルトラサイコキネシス
砂地獄怪獣サイゴ科特隊に倒される
宇宙恐竜ゼットン科特隊に倒される
変身怪人ゼットン星人科特隊に倒される
ウルトラマンとの戦闘率69.09%
決着率78.95%
スペシウム光線による必殺率53.33%

 『ウルトラマン』全39話中、55体の怪獣・宇宙人が登場し、科学特捜隊に倒されたり、怪獣同士の闘争に敗れたりした物を除くと内38体がウルトラマンと戦い、その内更に30体がウルトラマンによって討ち取られ(残り8体は科学特捜隊に倒されたり、宇宙に送還されたり、闘争中に逃亡したり、消失したりした)、最終的に敗者の半数はスペシウム光線にて爆殺された。

 しかもその多くは戦いが最高潮になったところで、どどめや、大ピンチからの切り替えし手段として放たれ、勝負の大半において、優勢・劣勢に関係なく次の瞬間には勝敗を決していた。
 勿論放たれた瞬間に怪獣・宇宙人達を瞬殺し、ウルトラマンの勝利を飾った訳だが、一撃必殺のスペシウム光線がなかなか放たれない事に対して、プロレス的な「御都合説」、ぎりぎりまで相手を虐めてからとどめを刺しているとの疑惑から生まれた「ウルトラマン陰険性格説」、エネルギーの大量消耗が寿命を削る「最後の手段説」 (明らかに命を削る、と言及されたテレポーテーションや、モロボシ・ダン(森次晃嗣)のウルトラ念力に比べると説得力は弱い)、その他様々なツッコミが語られ、今このサイトを見ている方々の中にもこれらの説を時に面白おかしく、時に熱く語った記憶をお持ちの方も多いことと思う。

 いずれも燦然と輝くのは鮮やかな光のイルミネーションと、轟く大爆音と、一撃必殺の圧倒的パワーの発露である。
 そしてそのイメージこそが16勝の勝利に貢献した必殺率以上にスペシウム光線の存在感を輝かせ、特撮界における存在感を確固たるものとしているのは今更言を待たない所である。


考察2 バルタン星人との因縁
 前述したように、スペシウム光線に対して異常な苦手意識をあらわにしたのが宇宙忍者バルタン星人である。第16話にてウルトラマンの前に立ちはだかった2代目のバルタン星人は無抵抗状態の同胞20億3千万人を殺されたことよりも、大の苦手とするスペシウム光線照射による先達が殺されたことの方に大きな怒りを示していた。それはあたかもとんでもない反則技の為に敗北したことに対する怒声に似ていた。

 余程スペシウムを用いられたことが悔しかったのか、その対策として、二代目バルタン星人は胸部にスペルゲン反射孔を装着したことで見事にスペシウム光線を跳ね返した。
 頑健な肉体でもってスペシウム光線に耐えたものは何体かいたが、スペシウム光線の力を我がものとして逆手に取ったのはバルタン星人宇宙恐竜ゼットンぐらいである。

 結局、同じ技によって二度敗れるという轍を踏まなかったバルタン星人だったが、勝負そのものは八つ裂き光輪科学特捜隊イデ隊員(二瓶正也)開発のマルス133の前に敗れ去り、リベンジはならなかった。
 だが、このスペシウム光線対策を命題としたウルトラマンとの再戦はスペシウム光線バルタン星人のステータスを位置付け、同時に何代にも渡って登場する宇宙人の先駆けと事例として長く記憶に留めたいものである。
 やはり何事も始祖は偉大である。

考察3 スペシウム光線が効かない時と、用いられない時
 当然のことながら一撃必殺のスペシウム光線が怪獣や宇宙人と倒せなかった時は、これを破った(正確には耐えた)怪獣や宇宙人がかなりの難敵として描かれることになる。
 中でもアントラーはバラージの青い石しか打倒手段がなかった猛者で、スペシウム光線に動じもしなかった。毒ガス怪獣ケムラースペシウム光線に耐え、間抜けな風貌からは予想だにできない恐ろしさを見せつけたし、ゼットンに関しては云うに及ばずである。

 結局これらの猛者達は特殊手段や新兵器を用いた科学特捜隊の活躍で討ち取られ、最終回でゾフィーが述べたように、地球の平和は最終的には地球人自らの手で守り抜かれなければならないという重要命題がリフレインされる基ともなっている。

 一方でスペシウム光線が敢えて使用されなかったケースも各話の個性を高めるのに大きく貢献している。
 第23話では元々が地球人であった棲星怪獣ジャミラスペシウム光線で倒すことを良しとせず、代わりにウルトラ水流が用いられた(却ってに描写的にも残酷になってしまった気がいするが……)。
 第25話ではどくろ怪獣レッドキング (2代目)が水爆を飲みこんでいた為にスペシウム光線を放つ訳にはいかず、結局は八つ裂き光輪で断たれた頭部が宇宙空間にて水爆もろとも爆破された。
 そして第37話では既にグロッキーになった酋長怪獣ジェロニモンのとどめを刺さずに、兵器開発員としての自信を喪失していたイデ隊員に手柄を譲ることで彼の自信を回復させた。

 スペシウム光線が破られたケースも、スペシウム光線が用いられなかったケースも、その背景は千差万別だが、その中で多くの話が全39話中、屈指の名作となっていることが自然と注目される。
 スペシウム光線とはただ必殺の武器であることだけで特撮界に大きな足跡を残している訳ではないのである。


総論 ここまで語ればスペシウム光線という必殺技が持つステータスに関しては云うに及ばずだろう。
 単に必殺力の高い武器として君臨するだけではなく、その後の多くのウルトラ兄弟の必殺技に与えた影響も見逃せない。

 さて、最後に一つの余談に触れておきたい。
 子供とは生意気なもので、道場主も過去において、旧友達とスペシウム光線がなかなか繰り出されない事を揶揄したり、勝敗の多くをスペシウム光線が決したワンパターン振りに文句をつけたりした記憶があり、誠に嫌なガキだったことが思い起こされるが(苦笑)、スペシウム光線による決着を良しとしなかった人物がいるのである。

 それは第14話、第22話、第23話、第34話の監督を務めた実相寺昭雄氏である。
 実相寺監督は「スペシウム光線が怪獣を倒す」というパターンを嫌い、氏が監督を務めた上記4話ではスペシウム光線が怪獣を倒したものはない(第14話の汐吹き怪獣ガマクジラは体当たりで、第22話の地底怪獣テレスドンは連続ボディースラムで、第23話のジャミラウルトラ水流で、第34話のメガトン怪獣スカイドンは体当たりで倒されている)。
 怪獣を倒した手段の多くが肉弾攻撃であることにもこだわりが見られるが、ウルトラマンを象徴する必殺技として余りに大きい存在感を持つ故に、こんなこだわり一つにもまた特撮を堪能する楽しみがあるのは興味深いことである。


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令和三(2021)年六月一一日 最終更新