ウルトラセブンの必殺技

指定必殺技:アイ・スラッガー


ウルトラセブンとアイ・スラッガー
 肉弾戦で繰り出される技でもなく、特定のポーズから発射される光線でもなく、通常は体の一部と思われる部分が脳波で操る宇宙ブーメランであるアイ・スラッガーは押しも押されもせぬウルトラセブンを代表する必殺武器であり、必殺技でもある。

 先代である初代ウルトラマンが武器を持たず、肉弾戦と光線技(または光線を武器状にしたもの)で戦ったことと比べても印象的なアイ・スラッガーは、形状だけでなく、怪獣の体をきれいに切り裂き、爆発を伴わないのも印象的である。
 見た目一発にもウルトラセブンの存在感を充分に際立たせているが、さりとて、エメリウム光線ワイドショットといったウルトラセブン固有の技がアイ・スラッガーの前に色褪せるかというとそんなことはない。

 単に怪獣を倒したり、ウルトラセブンのシンボルとなったりしただけに留まらないアイ・スラッガー。それはどのような戦績と、どのような印象を番組にもたらしたのであろうか?
考察1 アイ・スラッガーの戦績
 第1話で早くも宇宙ハンタークール星人の頭を切り裂き、続く第2話で生物Xワイアール星人の首を、第3話で宇宙怪獣エレキングの首と尻尾を刎ね、合計15体の怪獣・宇宙人を倒したアイ・スラッガーの前に幻覚宇宙人メトロン星人核怪獣ギラドラス冷凍怪獣ガンダー再生怪獣ギエロン星獣メカニズム怪獣リッガー豪力怪獣アロン双頭怪獣パンドンといった名立たる怪獣達が討ち取られている。その具体的な戦績は以下の表を参照して欲しい。

登場した怪獣・宇宙人死因
宇宙ハンター クール星人アイ・スラッガー
生物X ワイアール星人アイ・スラッガー
人間生物X星人死亡で元の姿に戻る
変身怪人 ピット星人エメリウム光線
宇宙怪獣 エレキングアイ・スラッガー
反重力宇宙人 ゴドラ星人エメリウム光線
宇宙蝦人間 ビラ星人アイ・スラッガー
放浪宇宙人 ペガッサ星人逃亡
火炎怪人 キュラソ星人過失により焼死
幻覚宇宙人 メトロン星人アイ・スラッガー
頭脳星人 チブル星人エメリウム光線
アンドロイド少女 ゼロワンエメリウム光線
異次元宇宙人 イカルス星人ウルトラサイコキネシス
宇宙野人 ワイルド星人ウルトラ警備隊に倒される
宇宙竜 ナース脱出の際の引き千切り
吸血宇宙人 スペル星人アイ・スラッガー
宇宙鳥人 アイロス星人ワイドショット
策略星人 ぺダン星人ワイドショット
宇宙ロボット キングジョーウルトラ警備隊に倒される
岩石宇宙人 アンノン説得を受けて撤退
地底ロボット ユートムワイドショット
音波怪人 ベル星人スパイラル光線
宇宙蜘蛛 グモンガウルトラ警備隊に倒される
宇宙帝王 バド星人投擲
暗黒星人 シャプレー星人ウルトラ警備隊に倒される
核怪獣 ギラドラスアイ・スラッガー
宇宙海底人 ミミー星人ウルトラ警備隊に倒される
軍艦ロボット アイアンロックスエメリウム光線
地底人宇宙怪人 ブラコ星人ウルトラ警備隊に倒される
宇宙ゲリラ シャドー星人ハンドビーム
猛毒怪獣 ガブラハンドビーム
オーロラ怪人 カナン星人ワイドショット
ミニ宇宙人 ポール星人逃亡
冷凍怪獣 ガンダーアイ・スラッガー
再生怪獣 ギエロン星獣アイ・スラッガー
甲冑星人 ボーグ星人アイ・スラッガー
侵略宇宙人 キル星人ウルトラ警備隊に倒される
戦車怪獣 恐竜戦車ウルトラショット
宇宙スパイ プロテ星人転送装置により消滅
プラスチック怪人 プラチク星人エメリウム光線
宇宙細菌 ダリーエメリウム光線
メカニズム怪獣 リッガーアイ・スラッガー
蘇生怪人 シャドウマンワイドショット
発泡怪獣 ダンカンエメリウム光線
復讐怪人 ザンパ星人ウルトラ警備隊に倒される
月怪獣 ペテロワイドショット
催眠宇宙人 ペガ星人エメリウム光線
マゼラン星人マヤ自害
バンダ星人ウルトラ警備隊に倒される
ロボット怪獣 クレージーゴン体当たり
分身宇宙人 ガッツ星人ウルトラノック戦法
豪力怪獣 アロンアイ・スラッガー
水棲怪人 テペト星人ウルトラ警備隊に倒される
カッパ怪獣 テペトアイ・スラッガー
地球原人 ノンマルトウルトラ警備隊に倒される
蛸怪獣 ガイロスアイ・スラッガー
ロボット長官 詳細不明
ロボット署長詳細不明
宇宙猿人 ゴーロン星人エメリウム光線
猿人 ゴリーウルトラ警備隊に倒される
サイケ宇宙人 ペロリンガ星人詳細不明
侵略星人 サロメ星人詳細不明
ロボット超人 にせウルトラセブン海没
集団宇宙人 フック星人スリーワイドショット
幽霊怪人 ゴース星人ウルトラ警備隊に倒される
双頭怪獣 パンドンアイ・スラッガー
セブンとの戦闘率72.73%
決着率95.83%
アイ・スラッガーによる必殺率32.61%

 必殺率32.61%は決して高い数値ではないが、主に宇宙人・恐竜タイプの怪獣との戦いにおいて勝利に貢献しているのは、使用頻度の高いエメリウム光線や、切り札的最強技・ワイドショット、他にもウルトラサイコキネシススパイラル光線ハンドビームウルトラショットウルトラノック戦法、といった多彩な技の存在の中に在って充分過ぎる存在感を持つ。

 話は逸れるが、道場主の両親は特撮物では、「敵キャラの最後は必ず爆発する。」と思い込んでいる(苦笑)。
 話しても無駄だが、爆発以外の結末もあることを知って欲しいものである。

 さて、光線技によって爆発四散することで遺体が残らないのと、刃物による斬殺で大量の血を流して無惨な屍を晒すのとどちらが酷いかは一概に云えないが、快刀乱麻を断つ如き快活さを見せるのもアイ・スラッガーなら、斬り口から血液や体液を大量に噴出させて斬撃の恐ろしさを見せつけるのもアイ・スラッガーである。

 前作にてスペシウム光線がパターン化を懸念されながらもウルトラマンのアイデンティティ確立の為に頻発させざるを得ない面があっただろうことに対して、体の一部が装備で、飛び道具となっているアイ・スラッガーは明らかにウルトラセブンの必殺技を多様化させた一面を持つ。
 そしてそれを証明するように、アイ・スラッガーが手に持った小刀代わりに使われたり、ハンドショットとの併用であるウルトラノック戦法分身宇宙人ガッツ星人の母船を破壊したり(平成シリーズでは連打でキングジョーUを倒している)、パンドンに受け止められて投げ返された際に念力による投げ返しの投げ返しでその首を刎ねる、等の多様性を見せている。

 決して、単なる飛び道具ではないのである。


考察2 他の技との使い分け
 「ウルトラセブンの必殺技を3つ挙げよ。」と云われれば、多くのマニアが楽勝で「アイ・スラッガーエメリウム光線ワイドショット」と答えるだろう。
 勿論他にも多くの技がウルトラセブンにはあるが、前述の3つ以外は極端に知名度が低い。それは技の宿命で、後発のウルトラ兄弟の中にもメインの必殺光線以外の技が雑多過ぎて一つ一つのアイデンティティを薄れさせている例は少なくない。

 そこを行くとウルトラセブンの技の使い分けは見事である。
 前述したようにアイ・スラッガーは主に宇宙人・実在する生物に近いタイプの怪獣を倒し、エメリウム光線は宇宙人・怪獣の中でも容貌が実在の生物離れしたものを数多く倒し、強敵タイプの宇宙人には切り札であるワイドショットが放たれた(意外に怪獣は殆ど倒していない)。
 更に、ウルトラセブンを苦戦させたロボットタイプの敵はウルトラ警備隊がその打倒に大きく貢献する、という風に見事な使い分けが為されている(勿論例外ケースもある)。

 参考までに下表にて平成シリーズ(『太陽エネルギー作戦』『地球星人の大地』『ウルトラセブン誕生30周年記念3部作』『ウルトラセブン1999最終章6部作』『ウルトラセブン誕生35周年“EVOLUTION”5部作』)を見て欲しい。

平成シリーズに登場した怪獣・宇宙人死因
変身怪人 ピット星人ワイドショット
宇宙怪獣 エレキングエメリウム光線
幻覚宇宙人 メトロン星人(1人目)ワイドショット
幻覚宇宙人 メトロン星人(2人目)詳細不明
幻覚宇宙人 メトロン星人(3人目)リュウ弾ショット
洗脳宇宙人 ヴァリエル星人ワイドショット
分身宇宙人 ガッツ星人ウルトラ警備隊に倒される
硫黄怪獣 サルファスネオ・ワイドショット
太陽獣 バンデラスパーフェクトブリザート&ワイドショット
寄生生命体 ヴァルキューレ星人ワイドショット
帰化宇宙人 キュリュウ星人ダイテッカイとともに死亡
宇宙昆虫ガロ星人ダイテッカイとともに死亡
鋼鉄ロボット ダイテッカイキュリュウ星人によって無力化
犯罪宇宙人 レモジョ星系人ウルトラ警備隊に倒される
植物獣 ボラジョワイドショット
時空怪獣 大龍海消滅
宇宙ロボット キングジョーUウルトラノック戦法
地球原人 ノンマルト撤収
守護神獣 ザバンギアイ・スラッガー
放浪宇宙人 ペガッサ星人内紛後撤収
反重力宇宙人 ゴドラ星人ウルトラ警備隊に倒される
メタル宇宙人 ガルト星人ワイドショット
妖邪剛獣 ガイモスアイ・スラッガー
双頭合成獣 ネオパンドンウルトラクロスアタッカー

 アイ・スラッガーの存在は色褪せないものの、強敵を打倒した技の多くはワイドショットで、後発の敵達が如何に強敵だったかが見て取れて興味深い(ワイドショットより強力なネオワイドショットパーフェクトブリザートと云った新必殺技まで駆使されている)。

 その中に在って尚、ウルトラセブンのアイデンティティを保ち、一部を欠けさせながらもキングジョーUを倒したアイ・スラッガー (技名自体は「ウルトラノック戦法」だが)は偉大であり、それと見事な役割分担と共に個々のアイデンティティを残した他の必殺技もまた見事である。
 このバランスの良さが40数年の歴史に在って尚も『ウルトラセブン』をシリーズ最高傑作たらしめている要因の一つと云えよう。


考察3 必殺技を支えた隠れた能力
 ウルトラセブンを代表する必殺技であるアイ・スラッガーウルトラセブンの脳波で操られる宇宙ブーメランであることを知る者は多い。しかしながらその脳波が持つ絶大性まではなかなか注目されない。

 アイ・スラッガーが手に持っての小刀代わりに使われることがあるように、元は頭部に装備された武器で、その有効性の根幹となっているのはセブンの脳波=念力である。
 実際、セブンが駆使したウルトラ念力は第10話で異次元宇宙人イカルス星人を岩山に投げ飛ばして激突させ、第16話では岩石宇宙人アンノンの重そうな体を持ち上げ、第20話ではギラドラスが発生させた暗雲を払い、第25ではガンダーを投げ飛ばた。  そして最終回ではパンドンに受け止められて投げ返されたアイ・スラッガーを念力で操ってその首を刎ねたのは前述した通りである。

 つまり、アイ・スラッガーの極めて優れた戦果はウルトラ念力あってのことで、『ウルトラマンレオ』にてモロボシ・ダン(森次晃嗣)が変身能力を失った後も最後に残された能力としてウルトラ念力を駆使し、ウルトラマンレオの危機を何度も救ったのは有名だが、それまで注目されず、変身能力を失って初めて注目されたのは何とも皮肉である。
 このウルトラ念力を駆使した後のダンは周囲が心配するほど疲労で息絶え絶えとなり、実際に寿命を縮める技であることが明言されていたが、等身大の身にこれ程の負担を与える能力だからこそ、アイ・スラッガーのコントロールを始め、数々の勝利に貢献してきたことをもっともっと注目するべきと考えられる。


総論 ウルトラマンスペシウム光線は余りにも有名故に数々の逆漫画でパロディにされた場合も元ネタがスペシウム光線であることを突っ込む必要がないぐらいにパロディが平然と存在した。
 そこを行くとアイ・スラッガーのパロディは奇妙である。

 『超人キンタマン』という漫画では主人公のキンタマンは初代ウルトラマンの風貌ながら、頭頂部をアイ・スラッガーの如くブーメランとして飛ばし、「キンタラッガー」を称していた(念力を用いない純粋ブーメランで、破損した際には御飯粒でくっ付け直すいい加減さだった)。また『キン肉マンU世』ではキン肉万太郎が対ウォッシュ・アス戦でリングロープを頭頂部で切断(←なかなかの切れ味である)した際には「キン肉カッター」と呼ぶ一方で、平然と「アイ・スラッガー」と呼ばれたこともある。
 究極はOVA『ロードス島戦記』に登場したドワーフのギムで、ドワーフの標準装備であるバトルアックス(戦斧)を武器にゴブリンやオーガーと戦っていたのはいいのだが、本来重くて並の腕力では振り回すのも難儀なバトルアックスをハンドアックス(手斧)の如く平然と投げては数体のゴブリン、オーガーの頑丈な胴を切り裂き、最後にはカーラのサークレットを弾き飛ばし、レイリアをその呪縛から救った。グループSNEの面々並びに一部のファン達はあり得ないバトルアックスの投擲を「ギム・スラッガー」と呼んでいたが、本家アイ・スラッガーに比してかなり無骨な技であり、ファンタジー世界の武器のあり様にリアリティーを求めるマニア達の顰蹙を買っている。

 だが一見、荒唐無稽にも見えるパロディやインスパイアーを好意的に見るなら、ここまで面白く描かれるのもアイ・スラッガー『ウルトラセブン』を見て来た多くの人々に愛された証左でもある。
 「考察1」でも触れたが、アイ・スラッガーは決して単なる飛び道具ではなく、ウルトラセブンを代表する必殺技であり、ウルトラセブンのアイデンティティそのものでもある。

 余談ついでにアイ・スラッガーにまつわるシルバータイタンの想いを二つほど。
 一つは諸事情あって手放したが、かつてシルバータイタンがバイクに乗っていた際のキーホルダーはアイ・スラッガーだった。
 またシルバータイタンが一番好きなアイ・スラッガーを彷彿とさせる技は『魁!男塾』(宮下あきら氏こそは道場主が最も好きな漫画家である)で男塾三号生死天王の一人で、魍魎拳の使い手である卍丸(まんじまる)がモヒカン状の頭髪の中に装備している龔髪斧(きょうはつふ)である。
 虎丸龍次が発した「ウルトラセブンの真っ青の必殺技だぜ!」という台詞以外にアイ・スラッガーとの酷似に触れる点はなかったが、形状と云い、万能性と云い、効果と云い、あれを見てアイ・スラッガーを想い浮かべない者がいるとしたら、それはウルトラセブンを知らない者、と云っても過言ではないだろう。

 アイ・スラッガー………それは他のウルトラ兄弟の必殺技にはない愛され方を持つという面においてもウルトラセブン最高の武器である。


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令和三(2021)年六月一八日 最終更新