ウルトラマンレオの必殺技
指定必殺技:レオキック
ウルトラマンレオとレオキック
第二期ウルトラシリーズ最終作である『ウルトラマンレオ』は様々な意味において異色の作品だった。主人公・ウルトラマンレオがM78星雲人ではなく、獅子座L77星人であることや、故郷を失った悲しき存在であることや、宇宙パトロール隊MACの隊長をウルトラセブン=モロボシ・ダン(森次晃嗣)が務め、更にはそのMACが番組途中にて全滅してしまうのも他に例を見ず、アストラやウルトラマンキングと言った通常のM78星雲人とは異なるウルトラマンの存在感を確かなものにしたのも同番組である。
そしてウルトラ戦士としてのウルトラマンレオを観た時、彼は空手技を得意とし(おヽとりゲンを演じた真夏竜氏は少林寺拳法の使い手である)、第8話にて暴れん坊怪獣ベキラに対してエネルギー光球が放たれるまで、光線技が使われなかった。
しかもこの時のエネルギー光球もベキラを倒すに至らず、第15話にて分身宇宙人フィリップ星人がエネルギー光球で倒されるまではすべての勝負が肉弾戦によって決せられ、その中でも代表的なレオの必殺技がレオキックである。
決して光線技を持たない訳ではないレオだが、ウルトラマンのスペシウム光線からウルトラマンタロウのストリウム光線の様に、「架空の物質」=「○○イウム」を照射する光線技がレオには無く、番組後半には凄まじい威力の光線技も放たれたのだが(詳細後述)、空手使いとしての個性は歴代ウルトラ兄弟の中でもウルトラマンレオを彩る重大な個性の一つとして、シリーズ史に燦然と輝いている。
「ウルトラマンレオ=レオキック」の図式が成立していると言っても過言ではないこの技が、どんなステータスを何故に得て、後々どのような影響を残したのかを検証してみたい。
考察1 レオキックの戦績
戦記を見たウルトラマンレオが地上1000メートルもの跳躍力を利して空中高く飛び上がり、抜群の体術で繰り出された蹴り足にエネルギーが集中することで赤く燃え上がり、ダイナマイト1万発分の威力で命中した敵の体を粉砕するのがレオキックである。
第1話で早くも登場しているが、この時はサーベル暴君マグマ星人に対して中途半端な当たり方だったためか、倒すには至らなかったが、続く第2話では全身の錐揉みを加えた急降下で放ったオプション技・きりもみキックが双子怪獣ブラックギラス・レッドギラスの首を瞬時に刎ね飛ばしている。
以降、レオキックは登場頻度においては他のウルトラ兄弟の必殺技程ではないにしても、登場すれば大抵の敵を屠っている。まずは例によって下表にその戦績を見て頂きたい。
登場した怪獣・宇宙人 死因 サーベル暴君マグマ星人 逃亡 双子怪獣レッドギラス きりもみキック 双子怪獣ブラックギラス きりもみキック 奇怪宇宙人ツルク星人 流れ斬り 凶剣怪獣カネドラス ハンドスライサー 暗闇宇宙人カーリー星人 自らのショルダーナイフで刺される 植物怪獣ケンドロス 道連れ自爆失敗 暴れん坊怪獣ベキラ レオキック 宇宙星獣ギロ 宇宙へ送還 さすらい怪獣ロン 詳細不明 怪異宇宙人ケットル星人 レオキック 風船怪獣バンゴ 宇宙へ送還 透明宇宙人バイブ星人 MACに倒される さそり怪獣アンタレス 自らの尻尾による斬首 分身宇宙人フリップ星人 エネルギー光球 黒い花の星人アトラー星人 エネルギー光球 狼男ウルフ星人 レオキック こうもり怪獣バットン レオキック 半魚人ボーズ星人 生命力枯渇による絶命 牡牛座怪獣ドギュー レオスパーク 殺し屋宇宙人ノースサタン レオパンチ 兄怪獣ガロン ウルトラダブルフラッシャー 弟怪獣リットル ウルトラダブルフラッシャー 虹怪獣レンボラー 制御回復後謝罪帰還 ロボット怪獣ガメロット レオキック 宇宙昆虫サタンビートル レオキック 幻想宇宙人クリーン星人 逃亡 怪獣人プレッシャー レオシューティングビーム&キングフラッシャービーム 鬼怪獣オニオン リンゴの樹に変えられる 星獣キングパラダイ レオクロスビーム 超能力星人ウリンガ 宇宙へ送還 サーベル暴君マグマ星人 風車で刺される 昆虫星人バーミン星人 タイマーショット 月光怪獣キララ 弥生の帰還で戦闘中止 宇宙悪霊アクマニア星人 ウルトラダブルフラッシャー 二面凶悪怪獣アシュラン クロスアタック わんぱく怪獣タイショー 宇宙へ送還 変身怪人アトランタ星人 ウルトラダブルフラッシャー 鬼女マザラス星人 消滅 異次元獣スペクター ハンドスライサー 暗黒星人ババルウ星人 レオキック 円盤生物シルバーブルーメ スパーク光線 円盤生物ブラックドーム シューティングビーム 円盤生物アブソーバ タイマーショット 円盤生物デモス ウルトラショット 円盤生物ブラックガロン ハンドスライサー 円盤生物ブリザード ハンドビーム 円盤生物ハングラー アストラに倒される 円盤生物ブラックテリナ エネルギー光球 円盤生物サタンモア シューティングビーム 円盤生物ノーバ エネルギー光球 円盤生物ブニョ レオキック 円盤生物ブラックエンド 水晶球被弾 レオとの戦闘率 96.23% 決着率 84.31% レオキックによる必殺率 18.60%
実にウルトラマンレオ勝利の二割も満たない戦績で、数で言えば決してレオを代表する技とは言えない。しかしながら、それでもこのレオキックがレオの代表的必殺技としてのステータスを得ているのは、討ち取った敵の存在感と、レオらしさにあると見える。
レオキックが倒した敵は、ベキラ・怪異宇宙人ケットル星人・狼男ウルフ星人・こうもり怪獣バットン・ロボット怪獣ガメロット・宇宙昆虫サタンビートル・暗黒星人ババルウ星人・円盤生物ブニョの計8体である。
特にババルウ星人を倒した時のインパクトはオーソドックス過ぎる程オーソドックスだった為に、サブタイトルの「レオ兄弟 ウルトラ兄弟 勝利の時」の司るに相応しい決着の一撃として、番組の中に大きな足跡を残している。
また、純粋なレオキックとは些か趣を異にするものもあるが、前述のきりもみキックや、ベキラを倒した時の三角跳びを交えたバージョン、さそり怪獣アンタレスの尻尾を斬り落としたレオキックスライサーと呼ばれる形態も見逃せない。
また、命中しなかったとは言え、ババルウ星人の姦計にはまってウルトラ兄弟と戦った際にウルトラマンA に向けてレオキックが放たれており、A は必死にこれをかわしていた。
4対2の状況にありながら、この直後にウルトラマン・帰ってきたウルトラマン・ウルトラマンA は各々の必殺光線をレオに一斉照射して瀕死の重傷に追い込んだ展開を見ると、ウルトラ兄弟がレオキックの前に勝負を急ぐ決意をする程の脅威を感じたと見られなくもない。
少なくともレオキックの一撃必倒性は疑いの余地はなく、倒した敵やオプション技もよく選ばれている。
もう一点の「レオらしさ」だが、これはウルトラマンレオが当初光線技よりも肉弾戦を得意としたウルトラマンだったことに起因している。実際レオキックを除いても、ハンドスライサー・レオパンチ・レオリフト・ボディブーメランと言った肉弾技が立派に戦果を挙げている。
第1話でスタントマンを使うことなく、おヽとりゲン自身が大車輪、バク転、フルコンタクト組手を披露してその身体能力の高さを見せ、番組当初は緒戦で等身大宇宙人や怪獣に敗れたゲンがダンのいじめとしか思えない特訓を経て、新たに身に着けた体術でリベンジすることが多かったことからも、ウルトラマンレオには光線技で戦う戦士としてのイメージより、明らかに肉弾戦で戦う戦士としてのイメージの方が強く植わっている。
実際、真夏竜氏からしてジャンプを多用したアクションで等身大宇宙人に飛び蹴りを放つことが多く、幼き日に、再放送でそれを見た道場主は、「この実写版ルパンはウルトラマンよりも仮面ライダーになった方が良かったんじゃないか?」と真剣に思った事が何度もあった。
イメージの問題としても、気合いもろとも繰り出す技は肉体から発せられる打撃技で、レオキックを除いたとしても、レオが勝利を収めた戦いの37.21%は肉弾攻撃が勝負を決めている。特にその形状から肉弾戦がやりにくかったであろう対円盤生物戦を除けば、肉弾攻撃による決着率は43.75%と、約半数に達する。勿論これは他のウルトラ兄弟には見られないことである。
ウルトラマンレオが戦績・イメージ共に徒手空拳の戦士としてのイメージが定着したのには当時の時代背景にも2つの要因がある。
一つは石油ショックによる火薬使用が控えられたこと、もう一つはブルース・リーの映画に代表されたカンフーブームがある。
作品としての暗さが目立ったことや、初期の弱さや、視聴率苦戦の前にテコ入れを繰り返した展開から過小評価されがちな『ウルトラマンレオ』だが、怪獣だけではなく世相とも立派に戦っていた、当時のブームもちゃんと抑えたこだわりの作品だったのである。
それこそが後の時代になる程、後から見た時程高い評価を得る同番組の美点で、それこそレオキックの如き体当たり制作の賜物だったのではなかろうか?
考察2 肉弾技と光線技
肉弾攻撃が目立つウルトラマンレオだが、決して光線技が脆弱な訳ではない。比較的使用頻度の高かったエネルギー光球は光線技初登場となる第8話こそベキラを倒し損ねたが、第15話より戦果を挙げだし、黒い花の星人アトラー星人、円盤生物ブラックテリナ、円盤生物ノーバと言った強敵を倒し、弟アストラとのコンビ技にして、照射した敵を例外なく死に至らしめたウルトラダブルフラッシャーや、最後の最後に悪魔の星・ブラックスターを粉砕したレオシューティングビームのような、ウルトラ史上に名高く、歴代ウルトラ戦士の超必殺技と比較しても遜色ない光線もレオは操っている。
では何故にこれほど大きな破壊力を秘めた光線技を初期のレオは使わなかったのだろうか?
以下はシルバータイタンの勝手な推測だが、双子怪獣との戦いで変身機能を失ってしまったウルトラセブン=モロボシ・ダンへの義理立てではあるまいか?
変身不能となったダン隊長がゲンを過剰な程の体罰猛特訓で鍛えたのは有名だが、セブンになれないということは、エメリウム光線もアイ・スラッガーも使えず、残された能力は地球人に擬態した宇宙人を看破したり、ウルトラサインを読み取ったり出来る他には攻撃的手段としてはウルトラ念力しか残されなかった。
変身機能を失ったセブンと、帰る故郷をマグマ星人に滅ぼされたレオは地球を第2の、そして唯一の故郷とした為、「地球を守るたった二人の宇宙人」でありながら、極力は「地球人」として生きようとした(地球人の姿でいる時は極力地球人としての能力で尽力するのはウルトラシリーズ共通の理念である)。ゆえにレオは極力光線技を使用せず、ダン隊長との特訓によって得た技から繰り出される攻撃で怪獣・宇宙人を倒すことに邁進した、とシルバータイタンは考える。
それゆえにゲンはダンがウルトラ念力を使うことに対して(寿命を縮める技ということもあったが)反対し続けていたが、帰ってきたウルトラマン=郷秀樹が凶悪二面怪獣アシュランに特殊マスクを填められて会話能力を奪われた際には、ダンにウルトラ念力による特殊マスクの破壊を懇願している(郷は反対したが)。
勿論時代的なことを言えば『ウルトラマンレオ』放映当時、日本は石油ショックの渦中にあり、特撮界でも爆薬の使用が制限されていた。夢もロマンもないことを言えば、光線技が命中すれば多くの場合、怪獣・宇宙人・円盤生物の体は爆発することになるので、爆発を少な目に留める為にも光線技の出番が減ったのは時代背景的な必然でもあった。
実際、光線技が多発した後半や、石油ショック時代外では打撃技や切断技を食らった後に遺体が爆発することも珍しくなかったのだから。
話を戻すと、肉弾戦をメインとした戦いは第14話までで、第15話以降は光線技が入り混じり、ゲンが特訓を行った最後である第21話の翌週第22話ではレオの弟・アストラが登場し、番組最強の合体必殺技ウルトラダブルフラッシャーが炸裂すると、肉弾技と光線技は絶妙のバランスを見せ出した。
光線技ではレオクロスビームやタイマーショットにウルトラマンキングと共に放ったレオシューティングビーム等の多彩さが見られ、肉弾戦も帰ってきたウルトラマンとの合体技・クロスアタックやハンドスライサーも披露された。
単に多彩化しただけではなく、レオキックはシリーズ最凶の敵・ババルウ星人を一撃で打倒すという見せ場を持ち、その形状故に肉弾戦による決着が見栄えしない為に光線技に見せ場が奪われがちだった円盤生物シリーズでも最終回目前にて人間体に近いブニョに対しては見事に炸裂して勝負を決めていた。
実は『ウルトラマンレオ』こそ、一撃必殺の代表的必殺技のイメージが希薄なために弱く見られがちながら、単一の技に頼らず、質量ともに多彩な中に主役のアイデンティティを失わない展開を見せた好例的作品であることを特撮ファンの方々には今一度御注目頂きたいものである。
考察3 31年目の証明
視聴率の低迷もあって第2期ウルトラシリーズの最終作となって以来、既出のウルトラ兄弟・レオ兄弟の明確な出番は長く見られなかった(特番等は除く)。第40話でMAC基地と共に円盤生物シルバーブルーメに飲み込まれて最期を遂げた(様に描かれた) モロボシ・ダンの生存が確認されたのでさえ19年後の1994年のことだった。
そんな有様だったから、ウルトラマンレオは能力面よりも待遇面で不遇のヒーローで、ブラウン管にその姿を見せたのは『ウルトラマンレオ』最終回から31年の時を経た『ウルトラマンメビウス』の第1話で、おヽとりゲンが変身ポーズとレオキックを披露したのはその第34話のことで、リアルタイムで見たシルバータイタンは感涙に咽んだ(実話)。
この『ウルトラマンメビウス』第34話の見所は、ウルトラマンレオ=おヽとりゲン31年振りの登場や、『ウルトラマンレオ』放映当時の名台詞やレオキックが披露された点だけにあるのではない。
ウルトラ兄弟の一員に迎えられながらもそれらしさが描かれることのなかった、地球に留まった筈が姿を見せないレオの未消化な部分にスポットを当ててくれたことや、逞しく成長したレオの口からは語られにくい心境についてGUYSのメンバーの口を通して語られた点も見所だが、『ウルトラマンレオ』放映当初未熟だったレオが、ウルトラマンメビウスをして「とても身体能力では及ばない」と思わしめた成長譚を31年の時を経て振り返ることでウルトラマンレオの魅力は見事にクローズアップされている。
元より肉弾攻撃をメインとしたレオは第38話の時点ではウルトラ兄弟3人を同時に相手しても互角以上の戦いを繰り広げる程の格闘能力を備えていた訳だが、この『ウルトラマンメビウス』の第34話程、レオの身体能力・格闘能力の高さに注目した例は皆無に近い。
改めてレオキックがレオのステータス的フェイバリット・ホールドであることが証明され、ゲンがダンとの鍛錬の日々に生きて来た、地球を唯一の故郷とする宇宙人であることを重んじて生きていることもまた証明された訳である。31年という長い時間の果てに…。
総論 M78星雲人ならぬL77星人であるウルトラマンレオは異色のウルトラ兄弟である。ウルトラ兄弟の一員にアストラともども加わったのも第39話のことで、今後もM78星雲人は続々と現れる可能性を秘めているが、L77星人は(少なくとも現段階では) レオ・アストラのみで、これ以上増える可能性はない。
それゆえにレオのアイデンティティは否が応にも高いものとなっている。そしてそれにつられて同番組に登場した宇宙人や円盤生物にも同じ事が言えるようになった。
殊にL77星を滅ぼした張本人であるマグマ星人や、ウルトラ兄弟・レオ兄弟を戦わせて地球とM78星の双方を滅ぼそうとしたババルウ星人の知名度・アイデンティティは半永久的に色褪せることはないだろう。両者とも、等身大の姿になることも可能で、等身大の宇宙人が通り魔的な殺戮を重ねる展開の多かった同番組初頭を見ても、レオ程肉弾戦が映えるウルトラマンを今後生み出す為には、余程巧みな設定作りが行われない限り不可能だろう。
2010年2月21日現在、それを可能とする可能性を持ったウルトラマンの一人にウルトラマンゼロがいる。ウルトラセブンの実子にして、レオ・アストラを格闘の師とする彼なら肉弾戦に優れたアイデンティティを見事に活かすウルトラマンとなる素養があるが、ゼロの登場した『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』は遙か未来の話で、それを考えるとウルトラマンレオのレオキックを主体とした格闘ぶりが織り成すアイデンティティは当分安泰と思われるが、ほっとしたような気分でもあり、がっかりしたような気分でもある。
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平成二二(2010)年二月二四日 最終更新