役名 | 高倉長官 | ||
演じた俳優 | 山形勲 | ||
登場話 | 14話 | ||
分類 | 得意技 | 弱点 | 部下 |
報復人事型 | 人命軽視 | 部下の離反・竜の鉄拳・製造ミス・非を認められない | 竜隊長 |
◆恐らくウルトラ史上最低最悪の長官◆
『ウルトラマンA』の正義のチームは勿論TAC(=Terrible monster Attackking Crew)で、それは世界的な組織である。
第1話でミサイル超獣ベロクロンに壊滅させられた地球防衛軍の後を受けて発足し、本部をニューヨークに置くTACはその本部下に南太平洋国際本部があり、更にその管轄下に極東支部があり、竜五郎隊長(瑳川哲朗)率いる6人の隊員と、兵器開発担当・梶洋一主任(中山克己)他多数が富士山麓の秘密基地に常駐する。
この組織図から見るなら、南太平洋国際本部のボスである高倉長官が極東支部の一隊員過ぎない北斗星司(高峰圭二)にとって如何に高位の存在であるかは一目瞭然である。同時にそんな上官の胸先三寸で好き勝手やられたら堪ったものではないことも一目瞭然である。
もはやこのようなサイトを見て下さる方々には常識だが、高倉長官とはそんな好き勝手を本当にやってしまうとんでもない人物なのである。
たった1回の出番なのにここまでの酷評は特筆に価する(笑)。
ともあれ高倉長官が如何にとんでもない奴であるかの解剖所見をまずは人格面で見ていきたい。
放射能の雨を身の守りに暴れまわる殺し屋超獣バラバの前に、頼みの綱であるウルトラマンAもゾフィー以下の4兄弟を人質に取られ、戦う事が出来ない事態となった際に、マイナス宇宙のゴルゴダ星を破壊する為に超光速ミサイル・ナンバー7の設計図を持って、陣頭指揮を取る為に高倉長官はやって来た訳だが、チョット待って欲しい。
TACの任務は超獣バラバを倒すことであって、ゴルゴダ星破壊ではない筈である。
余り注目されない事だが、TACにゴルゴダ星を破壊しなければならない理由はない。
Aがゴルゴダ星に磔にされている四人の兄を見て戦意喪失したのを見た本部がゴルゴダ星が怪しいと見た可能性はあるが、ゴルゴダ星を破壊しても(バラバを含む)敵が退散する必然性が見出せないばかりか、星を破壊する事で、そこにいるウルトラ兄弟を死に至らしめれば、Aを初めとする他のウルトラ兄弟を敵に回す可能性がある訳で、ゴルゴダ星破壊からして本部の決定には疑問符が付く。
もしこれが高倉の独断ならその戦略眼がかなりおかしい奴ということになる。
極東支部についた高倉の指揮は横暴を極める。ゴルゴダ星破壊に反対する北斗のウルトラ兄弟への恩を理由とした主張も「この際多少の犠牲はやむを得ない。」の一言で一蹴した。
勿論TACの長官としてはウルトラ兄弟の命より地球の平和を重んじるべきだろうけれど、余りに反対意見に耳を傾けなさ過ぎだ。
高倉の横暴は後々の指揮に歴然と現れる。
超光速ロケット・ナンバー7は二段式ロケットで、射程距離に入るまでは有人非行でマイナス宇宙に突入し、そこで有人部分だけ切り離して乗務員は地球に帰還し、ミサイル部分だけがゴルゴダ星に突入する訳だが、特攻と紙一重の危険な乗務員に高倉は5日前の反対に報復するように北斗に命じた。
明らかな報復人事である事を、普段北斗の意見に反対することの多い山中一郎隊員(沖田駿介)にさえ断言されていた。
ゴルゴダ星爆破事態には反対しなかったTAC隊員達は何人も反対した。
竜隊長は北斗の若さと飛行経験の少なさを、山中はたった5日間の急ごしらえのミサイルに搭乗させ、光速を超えてマイナス宇宙に突入する寸前に離脱する、という任務に従事させるのは危険が大き過ぎることを、今野勉隊員(山本正明)は北斗が前話の戦いで重傷を負い、戦列復帰したばかりであることを各々が訴え、乗務員の再選を訴えた(特に普段北斗に厳しい山中が自らを代替とすることを申し出ていたのが注目される)
しかし高倉は隊員達の意見を聞いた議論をする気がないことを告げ、人選は隊員個々の能力を厳正にコンピューターが考査したものであることを論じ、「危険」を理由とした意見も「TACの任務に危険を伴わないものはない!」と一蹴した。
まあ、確かにパイロットとしての北斗の優秀さや、誰がやっても危険な任務であることを考え、本当にコンピューターが選んだのであれば一見正論なのだが、その「危険」が本部の未熟さにあり、その非を認めずに人命を軽視したのだから質が悪い。
更には北斗に対して任務不服従が解雇になることを仄めかしたが、これまた「やな奴」の典型である。
いよいよゴルゴダ星破壊の時が来て、二段式ロケットミサイルは大気圏突破時の衝撃で一部に配線切れが生じ、北斗の乗る第一ロケットとミサイル部が分離不能である事が判明した。
勿論一大事である。ゴルゴダ星破壊を優先するならロケットごとゴルゴダ星に突入し、ゴルゴダ星と運命を共にする事になるし、北斗の命を優先するならミサイルごと地球に帰還させる為に任務遂行を断念しなくてはならない。そして高倉が与えた命令はゴルゴダ星への突入……そう、高倉は任務遂行の為に旧大日本帝国軍特攻隊よろしく捨命の突入を命じたのである……。
ゴルゴダ星への突入が一度限りのチャンスしかない物なら地球人30億(当時)の命を守る為に北斗の犠牲もやむを得ないものかもしれないが、作中にそこまで切羽詰った状況であることを示す事象は勿論なかった。
特攻命令に忽ち山中以下の隊員達は高倉に対して色めき立ったが、即座に竜隊長は北斗に「その必要(特攻)はない。ミサイルの方向を変えて直ちに地球に帰還せよ。」と命じ、傍らにいた美川のり子隊員(西恵子)も頷いた。
突然の横槍に激昂し、命令服従を強要する高倉に対して竜隊長はゴルゴダ星破壊作戦は既に失敗が確定しており、作戦が失敗した上はここから先は隊員の命を預かる自分が指揮を取ると宣言し、逆に長官である高倉に「あの欠陥ミサイルの設計図を持って本部に帰りなさい!」と命令した。
自らの地位をたてに尚も強権を発動せんとする高倉だったが、次の瞬間、巨体をいからせ、指の関節を鳴らして威嚇する今野がその側に立った。
もはや指揮体制の崩壊は明白なのだが、それでも弱みを見せられないのか、自らの地位と立案への固執か、しつこく北斗へ特攻を命じた高倉に、ついに竜隊長の右フックが炸裂した!
成る程、TACの任務には危険が伴なう事を高倉は身をもって示してくれた訳だ(笑)。 もんどりうって倒れた高倉。だがそこへ諍いの停止を懇願する北斗の通信が入る。もとより北斗に生きて帰る意志はなかった。
北斗の悲壮な決意に隊員一同しばし沈黙したが、最初に南夕子(星光子)が本部への帰還を強要した。
周囲を見渡した高倉の目に映ったのは冷やかな目で彼を見るTAC隊員一同で、さすがの高倉もぐうの音が出ず、最後には山中に摘み出され、彼の最初で最後の出番は終った。
強権発動・報復人事・人命軽視………これだけでもはっきり云って高倉の上官として、人間としての資質は大問題である。
更に付け加えるならこれは推測だが、上官である高倉の命に服さず、暴力まで振るった竜隊長以下TAC隊員がそのことで処分を受けた軌跡は見当たらない。
つまり竜隊長達の服務違反以上に高倉の横暴さが問題とされたか、高倉の報告が信用されなかったか、余りの恥ずかしさに高倉が本部にて何の報告もしなかったかが考えられるが、いずれにしても高倉が最低最悪な長官であることを立証する事になるものばかりである。
◆能力にもかなりの疑問符◆
続いて能力面で高倉を解剖してみたい。人の能力は様々だが、長官として必要とされる能力の1つである人心掌握術や統率力や洞察力に問題があるのは前述で充分(笑)だが、ここで問題にしたいのは特殊兵器の開発力・製造力である。
前述の超光速ミサイル・ナンバー7は南太平洋国際本部で設計され、極東支部で5日間をかけて製造された訳だが、大気圏突破如きで内部配線に破損が生じている段階で大問題である。
アポロ11号が同じ耐久力だったとしたらアームストロング船長達は月に到着することすらなく、宇宙の藻屑と消えていた所である。勿論山中の指摘にあったように、僅か5日間での急造でテストも行えず、アポロと同列に語ることは出来ない。だが設計図も見ずに記憶だけを頼りに6日で急造したマリア2号が立派に大気圏外の妖星ゴランを破壊した実績を考えると明らかに梶主任の方が開発力・製造指揮能力ともに上である。
地球の危機を守る為の重要兵器の設計・開発において極東支部の主任より国際本部長官の方が劣ると云うのはTACの根幹を揺るがしかねない大問題である。例えて云うなら松〇電器の本社で設計・製造した製品が地方支社の一部署で製造した物よりも多くの欠陥を抱えていたに等しいのである。シルバータイタンがニューヨークのTAC本部長なら即座に南太平洋国際本部並びにその管轄下にある全ての支部の人事再編成を行うだろう。
◆強引に見立てた長官らしさ◆
基本的に菜根道場では「全面肯定」・「全面否定」・「絶対善視」・「絶対悪視」を極力戒めている。道場主自身至らぬ所も多々ある人間で、固定概念とも無縁ではいられない。絶対視というのは不可能であるとともに、そうしないとは決して云い切れないのである。故に戦国房で楽曲房でも「片手落ち」というものを避ける様にしている。誰かを褒める時でも欠点に目を瞑らないようにし、誰かを貶す場合でも認めるべきは認めるようにしている。
そんな自身の基本姿勢を噛み締めつつ、敢えて断言するのだが、ここまでボロクソに書いて、全く褒めなかった奴も珍しい(笑)。
そこで、決して上記の事柄を否定する訳ではないのだが、仮にも防衛組織の長に立つ高倉長官との観点を最後の締めに代えたい。
強引に高倉を認めるとしたら、彼の重大な短所と見れる強権発動と非情さを長所と見ることだろう。つまり超獣バラバの襲撃を一隊員の心情や生命、異星人達との交流を意に介していられない重大事だとするなら、高倉の言動は何者を犠牲にしてでも守らなければならないかけがえのない地球の為に情に流されないリーダーシップを発揮した、という見方である。
つまり不完全を承知の上で5日間で欠陥ミサイルを製造し、一隊員の健康を無視してでも優秀な人材をチョイスし、その命を犠牲にしてでもその時点でゴルゴダ星を爆破しなければならなかったのだしたら、高倉の強権発動に伴なう問題言動にも幾ばくかの同情の余地が見出せる訳なのだが、元になるとしたら放射能の雨と磔にされたウルトラ4兄弟の映像だろう。
つまり核兵器炸裂や原発事故の際に甚大な被害をもたらす放射能を文字通り雨霰と降らせ、ゾフィー・ウルトラマン・ウルトラセブン・帰ってきたウルトラマンの四人を磔にする実力者が超獣の背後にいるとなればTACとしてはウルトラ兄弟を捕らえてあるような所に敵の本拠が在り、そこを叩く為に他の犠牲を省みる暇なしに短期間の間に特別な兵器を開発する必然性がある、と高倉が判断したのなら、竜隊長達の意見に一切耳を貸さずに作戦遂行に邁進したのも少しは頷ける。
かけがえのない地球の為、命懸けで侵略者と戦わなくてはならない集団の長たる者、時として非情の決断を迫られる事があるのは事実である。その情に左右されない決断力が買われての長官職だとしたら高倉を長官に据えたTACの人事にも一応の理解は持てる。
但し、シルバータイタンが太平洋国際本部に勤めていたら長所よりも短所の多さに即行で辞表を提出しているだろう。
高倉長官を演じたのは時代劇『水戸黄門』で長年徳川綱吉の君側の奸である側用人・柳沢吉保役を演じた故山形勲氏だが、そんな氏を配役にした段階で高倉の嫌われ者役が決定していたのだとしたらそれはそれで些か哀れではある。
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令和三(2021)年六月一一日 最終更新