前頁までが第2期ウルトラシリーズの地球防衛軍において「長官」と云われる者達の解剖所見である。
一般に『ウルトラセブン』のヤマオカ長官を基準とした故に岸田長官・TAC版高倉長官に面食らったり、激しい怒りを抱いた子供達も多かったことだろう。
この変遷に限らず賛否両論が見られるのは世の常だが、「嫌な長官」の存在とは制作陣が不評を覚悟の上で防衛組織にリアリティーを持たせ、主人公達が単純に怪獣・超獣・宇宙陣を倒せばいい存在に留めない為に送り出した「必要悪」的存在と道場主は考える。
「嫌な長官」がその存在感の為に悪役俳優を起用しながら最後の最後に「いい長官」が生まれたのはその証だろう。
「正義」の対象に「悪」がある様に、「いい奴」の対象に「嫌な奴」がいる……人間出来れば嫌なもの、醜いもの、は目にしたくないものである(特に現実世界では)。それゆえに自らの周囲に善なる者、悪なる者、美しき者、醜き者が目立つ時、何故にそれが目立つのかを考えるのがありとあらゆる状況に対応する術を私達に与えてくれるのではないだろうか。
平成二〇(2008)年一月六日 道場主
比較参考までに第2期シリーズの長官ではないが、『ウルトラマン80』のナンゴウ長官の解剖所見を以下に記しておきたい。
Sample2:ナンゴウ長官(北原義郎)
◆悪役の善玉、再び◆
役名 ナンゴウ長官 演じた俳優 北原義郎 登場話 第13話・第17話・第22話・第24話 分類 得意技 弱点 部下 率先交流型 対外交流 多忙・結構裏切られる イシジマ副官
地球防衛軍UNDA(=United Nations Defence Army)を統括するのがナンゴウ長官である。 地球防衛軍UNDAは国際連合直轄の総合軍事組織で、その地球防衛軍UNDAに所属する怪獣・怪奇現象専門チームがUGM(=Utility Goverment Members)である。
作中明らかにされていないが、「Goverment(=政府)」の語を含む事からも世界各国のUGMは各国政府と国連の両方に所属する特殊機関であることがうかがえ、必然、ナンゴウ長官の持つ権威も相当に大きなものであることがうかがえる。
第13話・第17話・第22話・第24話、と登場回数こそ歴代長官の中でも最多だが、期間で見ると第1クールの最後と第2クールのみである。しかしながら矢的猛
が教師編をが終え、UGM隊員としてのみの活躍が始まる最初に初登場し、様々な組織や人種との交渉が必要とする問題に重責を担う立場として登場したナンゴウ長官の存在感は大きい。結論から先に云うとナンゴウ長官は『ウルトラマンレオ』の高倉長官並に「いい人」で、世のエライ奴に見られるような高圧的な面がカケラも感じられない。高倉長官を演じた故神田隆氏同様、時代劇や刑事ドラマで悪役を演じまくっている北原義郎氏が演じていることを考えればこれは特筆に価する(補足しておくと北原氏は仮面ライダーシリーズでは善玉役が多いので、北原氏を単純な悪役俳優と断じる気はないことはご了承頂きたい)。
その証左だが、ナンゴウ長官の初出演となった第13話では前触れなくやってきて、欧米のUGMキャップが暗殺された事実と、要人の必要性をオオヤマキャップ(中山仁)に説きにやって来た。
UGMのキャップともなれば地球侵略を企むエイリアンの暗殺対象になり得る事は想像に難くない。まして『ウルトラマンレオ』に出て来た通り魔的な宇宙人に比して『ウルトラマン80』に出て来た宇宙人は狡猾な策謀家が多かったのだから、キャップ暗殺が行われる危険性は充分にあり得た。
ナンゴウ長官はオオヤマキャップの為に海外のVIPが宿泊するレベルのホテルの一室を宛がい、その安全に努めた。
この配慮自体は裏目に出て、メッセンジャーに化けて侵入してきたドクロ怪人ゴルゴン星人がオオヤマキャップに射たれた後に地球人になりきって死んだ為にオオヤマキャップは逮捕されたが、ナンゴウ長官は解剖結果がゴルゴン星人を地球人と断じても尚オオヤマキャップを信頼した。
だが、信頼は信頼として揺るがさずとも、長官としての措置は断固として行った。再生怪獣サラマンドラの前に次々と名もなきUGM隊員の搭乗機が撃墜されていく中、オオヤマキャップには詳細を知らせる事も許されず、漏れ聞こえる戦況に居ても立ってもいられなくなって無断出動しようとしたが、ナンゴウ長官の命を受けていた警備員は銃口を向けてまでオオヤマキャップを長官命令に従わせた。
直後に猛が発見した証拠を元にオオヤマキャップの疑惑解消・即時釈放を猛とともに長官自ら告げに来たが、猛がその能力はともかく、つい最近まで中学校教師を兼ねていた兼業隊員であった事を考えると、証拠採用からオオヤマキャップ釈放までの時間はべらぼーに短い。「30分番組のご都合」と云われればそれまでだが、現実に即するなら余程UGM隊員一同を信頼し、且つ自らも地球防衛軍UNDAで信用されていないと出来ない処置である。
尚、この第13話の最後でナンゴウ長官はオオヤマキャプの疑惑が晴れた祝いと、UGM隊員達の一連の活躍を労って(恐らくは自腹で)食事会を開く旨まで伝えていたが、こんなアットホームな話も歴代長官では前代未聞である。
この初登場を見るだけでナンゴウ長官が「良いキャラクター」であることを示す解剖所見は充分だろう。
◆行動範囲広っ!!◆
ナンゴウ長官が歴代長官に比して優れている点に、その地位に相応しい行動範囲の広さを示している事が挙げられる。
第22話では光に弱い地底人が地球を闇にする為に打ち上げた人口衛星の処分を巡って、地底人に捕えられた猛から地底人達と話し合える、共存を模索できる、と聞くや、国家最高会議を相手に人工衛星攻撃爆破命令の実行を阻止し(直接交渉を行ったのはオオヤマキャップ)、第24話では突然現れたファンタス星人(注:偽物。正体は実のファンタス星人に作られたアンドロイドで創造主を滅ぼした凶悪な存在)が友好と銀河大連邦への加盟を求めた来た時には救急東京で世界各国の首脳を招いて行われた会議の議長を務め、続くファンタス星人との調印式にも全権を務めている。
縦空間で見れば宇宙・地上・地底の問題に対処し、横空間で見れば世界各国の首脳から日本政府(国会議事堂が写っていた)まで相対し、取り纏めまで行っている。
ファンタス星人との調印式においてUGM隊員を率いて出迎えているのだから、自らの権力が強いだけではなく、相当広範囲に顔が効くのだろう。こんな重要な組織の隊員職とよくまあ教職を兼業できたものである猛は(笑)。
歴代長官も国際組織の極東支部長であった者達だから、本部(パリやニューヨークが主)要人や他支部の長官、支部下の各国隊長と顔を合わせたであろうことが容易に想像できるが、実際に国連軍幹部・世界各国首脳・日本政府高官と様々な要人達と顔を合わせた長官はナンゴウ長官ただ一人だろう。
この描写が与えてくれたリアリティーはナンゴウ長官の重要な解剖所見と云えるだろう。
◆地位の高さを最も示してくれた長官◆
「エラきゃ白でも黒になる。」という戯言があるが、シルバータイタンはこれには2つの意味があると考える。1つは高い地位にあるものはその責任の重さと権力の大きさ故に些細な過失も悪事にされかねないという意味と、高い地位にある者は重大事に触れ続ける故に綺麗事ばかりと付き合えずにダークサイドを持つ者と見られるという意味である。
それゆえに管理職というものは万事に気を遣わなければならない。特に部下に対して気を遣う事は無用どころか大変重要で、単に与えられた権力を振りかざして高圧的に振る舞っているだけの管理職なんて危険視され、部下の離反を招く事になる。
そうなるとその者は管理職に就く力があるだけに「無能」ではなく、「有害」と見なされかねない。それは意識してか意識しないでか、ナンゴウ長官には重職にある身故に尚更部下にも気を遣っている。
勿論ナンゴウ長官に上司や部下の顔色をうかがっているシーンがある訳ではないのだが、そんな下心的な意味ではなく、オオヤマキャップを気遣っているのは明らかで、ことにその点に関して「解剖」するならイシジマ副官(宮寺康夫)とのやり取りを見るとより鮮明である。
第17話で潮風島の怪獣探査衛星の写真に異常ありとするオオヤマキャップに対し、地球防衛軍の調査結果と過去の例からイシジマ副官は「異常なし」とした。ナンゴウ長官としてはオオヤマキャップの見識を否定したくない一方で、イイジマ副官の実績と報告を否定したくもない難しい一場面である。
ナンゴウ長官が出した結論はイイジマ副官の云う過去の例を一先ず取り上げた。が、その一方で「休暇」名目で隊員を潮風島に行かせることをオオヤマキャップに勧めた。
ナンゴウ長官の意を受けたオオヤマキャップは潮風島に因縁を持つイトウチーフを潮風島に向かわせたが、今度はオオヤマキャップがナンゴウ長官の気遣いに応えて、「アクまで休暇」とイトウチーフに念を押していたのもまた見事だった。
この気遣いに感じる所があったのか、後に異常自体が認められた時、イシジマ副官はオオヤマキャップの見解を否定したことを素直に詫びていた。たいしたシーンには見えないかもしれないが、イシジマ副官という男は第22話で自らの疑念に凝り固まってとんでもない暴挙(詳細すぐに後述)に出た男で、そんなイシジマ副官があっさり自らの非を認めたのには、動かぬ証拠だけじゃなく、ナンゴウ長官に顔を立てられていたからこそ今度はナンゴウ長官の面子の為にも速やかな謝罪を行わない訳には行かなかった面もあっただろう。
続く第22話では地底人の人工衛星打ち上げに対して衛星爆破を決定した国家最高会議に対し、地底人・国家最高会議の双方の云い分を聞いたナンゴウ長官が国家最高会議の衛星爆破命令取り消しを導き出したにも関わらず、地底人への猜疑心に取りつかれたイシジマは独断で基地外に待機する地球防衛軍に人工衛星攻撃命令を下した。
長官命令無視だけでも暴挙だが、イシジマは長官命令に反する行為を止めんとした城野エミ隊員(石田えり)と二人の職員を殴り倒し、更に止めにかかったナンゴウ長官にまで発砲し、地底人との和解は水泡に帰してしまった。
しばし後に気付いたナンゴウ長官の麻酔銃に倒れたイシジマのその後は不明だが、ナンゴウ長官が放ったのが麻酔銃であることにシルバータイタンは注目している。
何度も述べているように長官の地位とはかなり高いものである。本来ならその身辺警護は厳重である。自ら銃を抜くこともなければ、長官自ら銃を抜くような事態とはかなりの異常事態喝重大事である。つまりナンゴウ長官が銃口を向ける必要のある者とは、単純に殺せば済む相手ではないケースがかなりの率で考えられると云うことだろう。ナンゴウ長官の解剖所見とは実に深い見地を残したことを述べて締めとしたい。
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令和三(2021)年六月一一日 最終更新