役名 | 高倉長官 | ||
演じた俳優 | 神田隆 | ||
登場話 | 13・36・39話 | ||
分類 | 得意技 | 弱点 | 部下 |
温情信任型 | 人事権発動 | 割りとお人好し・親バカ | モロボシ隊長 |
◆久々に現れた「いい人」◆
ウルトラセブンであるモロボシ・ダン(森次晃嗣)が隊長であった事が嫌でも注目を高める MAC (=Monster Attaking Crew)は日本を防衛するのはMACアジア本部で、東京上空400kmに静止する宇宙ステーションが基地である。
アジア本部以外にも世界各地の主要都市上空にも同様の基地=宇宙ステーションがあるとされているが、本部・支部を初め、実際にどの年上空に基地があるかは明らかでなく、辛うじて佐藤三郎隊員(東龍明)がアフリカ帰り、と紹介される以外には日本以外でのMACの活動は確認されていない。
故にMAC長官である高倉長官が普段どこに所属し、組織内においてどれだけ偉いかは詳らかでないが、第13話でダン隊長の要請を受けて警察(恐らくは警視庁)に逮捕されたおヽとりゲン(真夏竜)の身柄を引き取ってきた所から、警察よりも上位か、警察に対してかなり大きな影響力を持つ事がうかがえる。
また、第39話でスポーツセンターにて人事不省状態のゲンを見舞っていたダン隊長が基地内から高倉長官に呼び出しを受けた際に、かなり驚いていた事から高倉長官が前触れもなくアジア本部に訪れるのは稀と見え、その地位及び権威はMAC隊長のそれよりかなり高位と見える。
また、前述した第13話では透明宇宙人バイブ星人の罠に嵌って殺人犯の塗れ衣を着せられたゲンをMAC隊員に推薦したのがダン隊長であったことを理由に査問会にてダンの隊長職解任意見も出ていた事を告げていたが、確証は持てないものの、その直後の口調からも高倉長官が更迭意見を抑えた可能性はかなり高いと見ていいだろう。
上記の点から、高倉長官はかなりの権力を保持すると見られるが、彼がその権力を自らの我を通したり、命令不服従に対する退職をちらつかせたり、人命を犠牲にする(可能性の高い)任務を強要したりする事は全くなかった。正直、刑事ドラマや時代劇で悪役をしまくっている故神田隆氏が演じてる人物とは思えない好人物である(笑)。
高倉長官の出番は都合三回。第13話・第36話・第39話である。
第13話では前述したように透明宇宙人バイブ星人の罠に嵌って警察官刺殺による殺人の現行犯で逮捕されたゲンの身柄を、ダン隊長の要請を受けて警察から引き取ってMACアジア本部に現れたのが初登場シーンである。
高倉長官はダン隊長に、「ゲンの容疑が晴れた訳ではない事」、「査問会で隊長更迭意見が出た事」、「隊長更迭意見はモロボシ隊長のこれまでの実績を重視し、不問とされた事」を事実として告げた。
ここまでなら第2期ウルトラシリーズの歴代隊長達と変わらない。
だが勿論高倉長官は違った。
高倉長官は「二度と繰り返してくれるなよ、モロボシ君。君のような有能な男を失いたくないからな。」と個人的な感情と部下に対する深い信頼を見せたのは前例の無い事である(『ウルトラセブン』でマナベ参謀が少しだけ露わにしていたが、それも当のキリヤマ隊長の前での台詞ではなかった)。
前述の台詞の直前に、高倉長官は事を起こした(と見られていた)ゲンがダン隊長の推薦でMACに入隊していた経緯を挙げ、「迂闊に人を信用したりするもんじゃない。」と云っていたが、これもこれとてダン隊長の人を見る目を咎めた訳じゃなく、人間に過失が付き物である事からいつ何時ダン隊長の推薦で入隊した隊員が不祥事を起こさないとも限らず、万が一にも推薦者としての累を及ぼさない為にも、ダン隊長には余程の事がない限り隊員の推薦など行って欲しくない、というのが高倉長官の意だろう。
2回目の出番である第36話ではダン隊長とともにMACウランを運搬する飛行士にゲンを任命し、事の完遂を見届ける為にアジア本部に駐在した。
その最中、アトランタ星探索中に行方を断っていた内田三郎隊員(五代勝也)が奇跡の生還を果たしたとの報を受け、高倉長官は内田の婚約者だった娘のあや子(大井小夜子)を伴なって病院に駆け付け、内田の生還をあや子とともに祝い、MAC隊員として復員させた。ところがこの内田の正体が彼を殺害して彼に成り済ましたアトランタ星人だった事から話はややこしい事になる。
後にダン隊長とゲンの活躍(暗躍?)でアトランタ星人の正体は暴かれ、高倉長官は自棄糞を起こしたアトランタ星人の殴打を受けたが、事が解決した後に自身の負傷、自身が生還してきたと信じて重要任務に就かせた人物が宇宙人だった事実、何より娘を糠喜びさせて再度悲しませた悔恨、と複雑な胸中を抱えつつも事件解決に尽力したゲンに誠心誠意の御礼を述べていた。様々な負の感情が心中に錯綜する状態で一介の隊員への感謝の意をいの一番に表すとは並の度量で出来る事ではない。
最後の出番は第39話。地球人再度から見て謎の天体(=M78星)が地球目掛けて飛来し、コンピューターは一週間かからずして地球に衝突し、地球は消滅すると弾き出していた。
このままでは地球最後の日を迎える事になり、前代未聞の一大事にMAC最高司令部は迫り来る謎の天体にUN‐105X爆弾を打ち込んで破壊することを決定した。
高倉長官はこの決定を告げ、UN-105X爆弾発射を実行させる為にアジア本部に駆け付けた。
勿論この報せにダン隊長=ウルトラセブンは愕然とした。ウルトラマンキングに地球と運命を共にする意を伝えたとはいえ、M78星には身内が大勢済んでいる真の故郷なのである。
ダン隊長は高倉長官に作戦の中止を進言した。
驚く高倉長官(←注:怒ったりはしていない)にダン隊長は謎の天体の正体がウルトラの星である可能性(←さすがに正体を明かせない状態では断言まではできなかった)があることと、万一、そうであった場合に長年地球を守ってくれた恩人に弓を引く行為を取れないとしたのである。
結論から云えば高倉長官は中止要請を拒絶した。謎の天体がウルトラの星ではないか?との報告は作戦会議中にももたらされていたが、自分達にそれを確認する術はなく、仮に謎の天体の正体がウルトラの星であったとしても地球と地球人の命運には代えられない、との理由である。
注意しなければならないのはこの高倉長官の意見の筋は『ウルトラマンA』に登場した同名の長官のそれとは似て非なる物だということである。
MAC版高倉長官もTAC版高倉長官も地球の為には異星の犠牲は止むを得ないとし、部下の反対意見を受け入れなかった点では一致している。
だが、ウルトラ兄弟の命を危機に曝す事に対し、前者は作戦実行の折にはゾフィー以下の四兄弟が犠牲になった事は情況的にも明白であり、後者では攻撃対象にウルトラ兄弟が含まれている事は未確認情報だった。
またウルトラ兄弟の犠牲に対して前者は「多少の犠牲」で片付け、後者は「地球の運命には代えられない。」としながらも、「私もあれがウルトラの星でない事を祈っているのだよ。」と云って、ウルトラ兄弟への恩義を無視している訳ではない事を述懐していた。
同姓でもどちらが人格者であるかは議論を必要としないだろう。
第2期ウルトラシリーズの長官達は一般に「嫌な奴」とのイメージがあり、この高倉長官にしても強権発動や特定の個人を贔屓した言動が見られないでもない。
しかしその決断は極めて合理的で、人への「信」に基いていることは高倉長官をして、第2期ウルトラシリーズ長官像を改善せしめるのに充分で、まさに彼は第2期ウルトラシリーズ最後の長官にして最良の長官と云えるだろう。
◆人を動かす根本は「信」にあり◆
上記を読んだ戴ければ高倉長官のダン隊長に対する信頼は一目瞭然である。
第13話での警察からのゲンの身柄引き受けに関して、ダン隊長の責任問題に触れつつも、身柄引き受け要請に対しては一切の疑問を挟んでいない。同時にゲンがダン隊長の推薦で入隊しながら不祥事に及んだことに対して「迂闊に信用するもんじゃない。」と云いながら、全ての処分をダン隊長に一任していることも注目すべきだろう。
並の信頼で出来る事ではないのだ。
云い換えれてみれば、そんな高倉長官の人格がMAC内にも浸透していたからこそ、高倉長官の娘の婚約者、つまりは未来の「婿殿」である内田隊員の編入もあっさりと受け入れられ、内田の正体がアトランタ星人であることがはっきりしながらも彼をMACから追放しようにも出来なかったのも、決して星人にゲンとダン隊長の正体を握られていた事だけが理由ではなかったのだろう。
最後に高倉長官のダン隊長に対する信頼を示すのに、ダン隊長がUN-105X爆弾発射中止を拒絶した時の台詞が挙げられる。
「モロボシ君、君ともあろう者が何を云うのだね?!」
高倉長官はダン隊長が自分の命令に対する反対意見を出した事を責めてはいないのだ。
ダン隊長の正体がウルトラセブンである事を知らない高倉長官はMAC隊長であるダン隊長は地球の為に謎の天体を爆破する事を躊躇わないだろう、との信頼があればこそ、ダン隊長の反対意見に面食らったのである。
前述した、「私もあの星がウルトラの星でないのを祈っているのだよ。」との台詞は自らの願望であると同時に、信頼するダン隊長の不安(←確信である事は知らない)が外れてくれれば、との願望でもあったのだろう。
くどいが、同じ高倉姓でも、南太平洋国際本部長官とTACの隊長とでは存在し得ない信頼関係と云えるだろう(笑)。
人と人の間に信頼が大切なのは当たり前の事なのだが、高倉長官とモロボシ・ダン隊長の関係を見ると改めて成る程、と思わされるものである。
◆受け継がれた「悪役俳優起用」と払拭された「嫌な奴」◆
上記で既に少し触れているのだが、高倉長官を演じたのは故神田隆氏だった。
第2期ウルトラシリーズの長官は軍人役をメインとした強面役の多かった故藤田進氏(『帰ってきたウルトラマン』)、『水戸黄門』の柳沢吉保役が大ハマリだった故山形勲氏(『ウルトラマンA』)、また、第2期ウルトラシリーズとはズレるが、時代劇や刑事ドラマで悪役の多い北原義郎氏(『ウルトラマン80』)、権力におもねて部下に高圧的な姿勢が目立った‐芯の所で実態は異なるのだが‐石井愃一氏(『ウルトラマンメビウス』)、と俳優陣からして上っ面だけを見るなら「嫌な奴」を思わせる俳優が多く、それは神田氏が演じた高倉長官以前からあり、高倉長官以後も続いた。
一方で藤田氏の岸田長官が(首都を守ると云う強い信念だけは理解できるにしても)強権・強引・強情に終始し、山形氏のTAC版高倉長官が是の打ち所の無い問題外な人物だったのに対し、神田氏の高倉長官は強権を発動したり、過失に対する嫌味混じりな口調こそあったものの、ダン隊長を初めとする信頼する部下に対する思い遣りを忘れることなく、自らの過失やウルトラ兄弟の恩も踏まえていた姿は「嫌な長官」のイメージを払拭したのである。
素晴らしい事である
第2期ウルトラシリーズの最後の最後で高倉長官の歴代長官の、高圧的・軍人然とした佇まいを受け継ぎつつも正義のチームの長官であることを私達に再認識させてくれた存在意義は極めて大きい。
ウルトラ作品を一通り見て、TAC版高倉長官やスミス長官の出番をもっと見たかった、と考える人よりはMAC版高倉長官の出番をもっと見たかったと考える人の方が遥かに多いだろう。
シルバータイタンは「嫌な長官」の存在意義を決して否定したりはしないが、正義のチームに属する人間に「嫌な奴」は大きな存在でいて欲しくないと考えている。故にそれまでの「嫌な長官」らしく見えて、全然「嫌な長官」じゃなかった高倉長官の拍手すべき解剖所見を申し述べたい次第である。
尚、故神田隆氏に関しては拙サイト法倫房の「悪役万歳!!」に詳しく論述してあるので、法倫房のアクの強さに耐える自信のある方(苦笑)には参照にして頂きたい。
ここからは余談だが、神田氏が京都駅での転落事故が原因でこの世を去られたのを知った時、道場主は思った。
「そんな死に方は貴方が演じた悪人にこそ遂げて欲しかった。善玉役をも見事にこなす貴方にそんな死に方をして欲しくなかった……。」
真に悪役を演じこなす事は人の心の痛みを知り得る善人にこそ可能なの事なのである。だからこそ強面でも、年老いていても、だみ声でも、色男ならずとも、名悪役俳優は善玉役を演じても違和感がないのである。
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令和三(2021)年六月一一日 最終更新